事例紹介

2013年10月25日

【病院事例】心カテ検査の外来実施を実現し「医療の価値」が向上|公立陶生病院

病院名 公立陶生病院 設立母体 公立病院
エリア 東海地方 病床数 633
病院名 公立陶生病院
設立母体 公立病院
エリア 東海地方
病床数 633
コンサルティング期間 5年間
コンサルティング
  • ・病床管理

 医療提供側が「安全性」の観点から治療や検査の外来シフトに慎重になるのは当然です。例えば心臓カテーテル検査の外来シフトが困難なのは、カテーテル穿(せん)刺(し)部位の検査後の出血の有無を帰宅後の患者や家族が安全に管理するのは難しいというのが、よく言われる理由です。それでは、心カテ検査を外来で実施している病院ではどのようにしているのでしょうか。

 次は、現在も多数の窯(かま)元(もと)や工房が軒を並べる「焼き物のまち」として知られる愛知県瀬戸市にある公立陶生病院の事例です。

心カテ検査は「穿刺部位」で検査後管理が変わる!

 公立陶生病院では従来、多忙な患者からの希望を踏まえ、心カテ検査の一部を「日帰り入院」(入院するが検査日に退院)で行っていました。外来へのシフトが一気に進んだのは2008年2月で、DPCへの移行がきっかけでした。出来高払いでは償還される高額なカテーテルや造影剤の費用は、DPCでは包括点数に含まれてしまいます。これらの医療材料を多めに使う高齢の患者もいるため、診療報酬が出来高払いの外来に移行させることになったのです。同病院では同じ時期に、心カテ検査だけでなくさまざまな術前検査も外来にシフトさせました。

 左心カテーテル検査の穿刺部位は動脈なので、外来で実施する場合に医師が最も懸念するのが検査後の穿刺部の止血です。心カテ検査のカテーテル穿刺部位には肘(上腕動脈)、手首(橈(とう)骨(こつ)動脈)、下肢(大腿動脈)の3か所がありますが、同病院ではこのうちの橈骨動脈を穿刺部位に選択したことで、外来シフトが可能になったのです。

 大腿動脈の鼠径部(左右の大腿部の付け根にある溝の内側にある下腹部の三角形状の部分)からの穿刺だと部位的に圧迫止血が橈骨よりも難しく、患者は臥(が)床(しょう)した状態(ベッドの上で寝ている状態)で止血する必要があり、検査後の観察と止血の確認のため、「入院が必要」とどうしても判断しがちです。

 左心カテーテル検査の穿刺部位は、一般的にはかつて大腿動脈がメーンでしたが、近年では橈骨動脈が主流になりつつあります。また、心不全の評価が必要な右心カテーテル検査では静脈からカテーテルを挿入しますが、陶生病院ではこうしたケースも肘静脈を選択して外来で行っています。

医療者の意識を変えたエピソード

 同病院がカテーテル穿刺部位を選択するようになったのには興味深いエピソードがあります。心カテ検査を外来にシフトさせる以前、同病院OBのある医師が狭心症の症状を訴えて心カテ検査を受けることになった際に、その医師自身が肘(上腕動脈)への穿刺を希望しました。

 実際に実施してみると全く問題がなかっただけでなく、心カテ室まで車いすで行き帰りでき、付き添いが1人で足りる(鼠径部に穿刺すると、止血のためにストレッチャーを使用する際、移動に2人の介助が必要)など、良いことばかり。その後は、止血がさらに簡単な橈骨動脈への穿刺に切り替え、「これなら入院する必要がない」と、現場の認識が大きく変わったのです。

 高齢者の検査では、家族が付き添って検査後に世話をしてくれる「外来」の方がはるかにスムーズだということも、実際に始めてみて分かったことでした。まさに〝ケアの省エネ〞というメリットもあったのです。

 同病院による外来検査後の管理では、止血薬を入れた輸液500ミリリットルを1本か2本投与し、手首の止血バンドは透析用のものを流用し、最初はきつく固定して動かさないようにします。止血剤が落ち切ったら医師が止血を確認し、止血バンドを緩めます。その後もしばらく休み、トータルで2〜3時間安静にします。

 抗凝固剤を服用する患者の場合にも、橈骨動脈への穿刺だったら問題ないことを確認しているので休薬はしません。心配ならリクライニングチェアでの経過観察の時間を長くする場合もあります。

 帰宅後のトラブル発生を想定して、緊急連絡先を患者に手渡していますが、電話はまずありません。陶生病院では、心カテ検査の外来シフトによるトラブルは全く起こっていないのです。

心カテ検査の外来体制と検査フロー

 心カテ検査を受けた患者の観察は、心臓カテーテル室(心カテ室)の横にある放射線読影の部屋にリクライニングチェアを4脚設置して行っています。

 外来へのシフトに伴い、人員面では心カテ室の看護師を1人増員しました。放射線技師5人が心カテ室を担当し、うち2人が常駐してスムーズな外来検査の要になっています。ME(臨床工学技士)2人も常駐し、専門医5人と4〜6年目の医師も合わせると、医師は計13人。

 午前と午後に4人ずつ、最多で一日8人まで検査の実施が可能で、平均すると一日4、5人に実施しています。年間での実施件数は、2009年と10年がいずれも760件程度、11年と12年が800件程度です。

 心カテ検査のためだけに患者が入院することは、同病院では今やまずありません。レントゲンやCTと同じ感覚で、初診でもその日に心カテ検査を実施します。フローとしては、初診で心カテ検査の実施を決定し、医師が検査の内容、看護師が同意書やスケジュールなど事務的な内容を説明して、検査を実施(必要に応じてCTもほぼ抱き合わせで実施)、最後に再び外来で結果を伝えるという流れで、これが1日で完結します。

 救急搬送の症例も、血行動態が安定していて問題がなければ、検査が深夜に終わっても帰宅させ、外来として扱います。もし狭(きょう)窄(さく)が見つかってPCI(注1)が必要になったらいったん帰宅させ、治療入院は翌日以降にスケジュールを組みます。

 陶生病院では従来、心カテ検査を日帰り入院で行っていたため、外来シフトに対する医師の不安はありませんでした。「外来での実施こそ王道で、それが正当に評価されることが大切」という認識です。同病院ではまさに、「価値を上げる医療」を実践しているわけです。

(注1) PCI(冠動脈形成術) 狭くなった冠動脈の血管を内側から拡げるために行う低侵襲的な治療法