事例紹介

2015年12月12日

【病院事例】最優先すべきは医療の質向上 高度急性期と品質の見える化を推進|広島市立安佐市民病院

病院名 広島市立安佐市民病院 設立母体 公立病院
エリア 中国地方 病床数 527
病院名 広島市立安佐市民病院
設立母体 公立病院
エリア 中国地方
病床数 527
コンサルティング期間 1年間
コンサルティング
  • ・診療科パスアセスメント
  • ・地域医療ビジョン下の病床機能戦略
  • ・医療・看護必要度の重症度割合適正化
  • ・材料コスト削減
  • ・経営分析トレーニング

II群昇格、「臨床指標」を公開

 安佐市民病院は、広島市中心部から約15キロ離れている31診療科527床の高度急性期病院。安佐北区に多機能な病院は他になく、県北部や島根県からの重篤な患者も多数来院する広島市北部の拠点病院です。

 2010年には2次医療圏に1カ所程度を目安に整備される「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受け、14年には大学病院本院に準ずるDPC対象病院の「II群(高診療密度病院群)病院」に昇格。15年11月には医療の質を具体的な数値として示した「臨床指標」を用いて、自病院の臨床指標データの公開に踏み切りました。

次の躍進の機会生んだCQI研究会

 10年に院長就任した多幾山氏は、広島大学原爆放射線医科学研究所出身。1999年に広島市立安佐市民病院外科主任部長に赴任するまでは、四国がんセンターで16年間、食道の専門外科医として活躍しました。

 四国がんセンターで外科医長まで務めた多幾山氏が安佐市民病院外科主任部長に赴任してまず目指したのが、診療の質向上、特にがん医療の質向上です。多幾山氏は赴任当時の気持ちを、報道機関の取材に対して「がんの診療機能を上げたいという気持ちで帰ってきた」と述べています(関連記事『「四国の先生」と呼ばれた医師』)。

 そのため、特に副院長時代にがん医療の質向上に取り組み、院長就任と同時にがん拠点病院の認定を受けることになりました。また、同時に経営の質向上にも副院長時代から取り組み、院長就任と同時に単年度黒字を達成。以後、6年間連続で黒字を達成しています。

 このように順風満帆に見えた院長就任から約1年後のこと、旧知で当時の愛知県がんセンターの篠田雅幸病院長(現名誉院長)から「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」というがんの診療の質向上を目的に実名でベンチマーク分析している研究会があることを知ります。CQI研究会はGHCが分析面を全面サポートさせていただいている研究会です。がんの診療の質向上に注力する多幾山院長は、同研究会に参加することを決心。それがGHCとの接点になりました。

データ分析の風土を院内に

 これまで、ベンチマーク分析はほとんど行っていなかった安佐市民病院。GHCが診療科ヒアリングをお手伝いさせていただいた最初の年から、大きな成果を出すことに成功しました。現場の医師からの大きな反発もなく、診療科ごとのベンチマークとそれに基づく改善がスムーズに進んだためです。また、平林副院長は「ある程度パスを作成していたことが、ベンチマーク分析をスムーズに進めることができた要因の一つ」と見ています。

 GHCはその後も、看護必要度分析や機能分化シミュレーション、コスト削減やII群昇格を目指した診療実績の向上策なども支援させていただき、15年4月からは新部署「企画課」の人材育成支援などをさせていただいています。関連部署である総務課と医事課はそれぞれコア業務を担っており、経営分析に十分の時間を割くことは実際には難しい状況でした。企画課ではデータ分析のトレーニングを経て、「課題を見つけ出し、積極的に改善提案を行っていける部署に育てていきたい」と課長を兼務する高本彰彦事務長は抱負を述べます。

 現在の躍進を次のステージへ引き上げるため、データ分析の風土を院内に根付かせ、さらなる医療と経営の質向上を目指す安佐市民病院。高度急性期病院としての機能を高める一方で、経営の安定化にも突き進んできた同院は、データ分析という新たな武器を身に付け、「がんの診療機能を上げたい」という多幾山院長の信念をさらに深掘りし、進化させようとしています。

◆インタビュー:医療の質向上は、今まで以上に効率化が欠かせない

 安佐市民病院のコンサルティングを担当するGHCマネジャーの井口隼人が、医療の質向上を何より最優先する多幾山院長に、医療ビッグデータの分析に本腰を入れ始めてからの経緯や今後の展望などについて聞きました。


多幾山院長

井口:急性期病院のコンサルティング支援のお手伝いをさせていただいたのは、CQI研究会へのご参加がきっかけになったと記憶しています。

多幾山院長:篠田先生(愛知県がんセンター前病院長)に実名公開のベンチマーク研究会があるという話を聞いて、「負けていられない」と思い参加を決めました。病院の最大の使命は、質の高い医療を患者に提供することです。当時は導入していたベンチマークソフト「EVE」を使いこなせる人材もいなかったため、ベンチマーク分析に本腰を入れるきっかけにもなりました。

井口:当社のコンサルティングはいかがでしたか。

多幾山院長:最初に診療科ヒアリングを軸としたコンサルティグをお願いし、1年目から大きな成果がありました。特に印象に残っているのは、呼吸器内科の改善です。外来化学療法の推進などにより、かなり劇的な改善があったと記憶しています。

井口:確かに、呼吸器内科の平均在院日数は2011年と2012年を比較すると、5.5日も短縮することができました。12年度の診療報酬改定では、DPC対象病院がI群からIII群までの区分に設けられましたが、安佐市民病院はかなりII群に近いIII群であることが判明し、II群を目指すことをお奨めさせていただきました。

多幾山院長:実際、かなり惜しく、当時は心臓血管外科の医師の入れ替わりなどもあったため、ちょうどタイミングも悪かった。診療密度はクリアできていたため、手術指数をいかにして上げるのか、そのためのポイントや改善ポイントを丁寧に説明してもらいました。

 看護必要度の分析については、中野真寿美副院長(看護部長)がしっかりと記録を行っていることの裏付けができる分析となりました。

井口:機能分化シミュレーションもさせていただきましたが、どのような方向に進むのでしょうか。

多幾山院長:当院はII群病院なので、高度急性期病院を突っ走ります。22年をメドに建て替えるのですが、77床を現在地に残し、450床を北西に3キロ離れた荒下地区(安佐北区亀山南)へ移転して、移転先の病院は高度急性期に特化します。この医療圏で高度急性期医療が提供できる唯一の拠点としての役割を邁進していく方針です。

 機能分化のコンサルティングでは、456床を高度急性期に、残りを地域包括ケア病棟にという提案を受けましたので、これを参考にさせていただきました。

井口:6期連続の黒字達成ですが、さらなる安定経営を求められていると聞いています。なぜですか。

多幾山院長:現状に満足するわけにはいきません。国の方針としては、引き続き医療費を抑制していく計画でしょう。そうであれば、今黒字であるとしても、現状のままでは、厳しい診療報酬改定があった場合、すぐに赤字転落してしまう恐れをはらんでいます。ですから、医療の質を向上していく取り組みを進める一方で、今まで以上に医療の効率化を進めていく必要があります。

井口:15年度から新たに企画課を立ち上げました。

多幾山院長:経営に生かせるデータ分析を担う人材育成には期待しています。その一方で、改定の内容に素早く的確な対応をすることも欠かせません。そうした緊急性を要するところは引き続きGHCのコンサルティングに頼ることになるので、引き続きスピーディーに、しっかりと的確な分析とコンサル提案をしてもらいたいと期待しています。

井口:ご期待にお応えできるように引き続き最善を尽くしていきます。本日はありがとうございました。


広島市立安佐市民病院
〒731-0293 広島市安佐北区可部南二丁目1番1号
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