事例紹介

2016年05月12日

【病院事例】「断らない救急」支える医療の効率化、川崎幸病院の改善事例に学ぶ

病院名 【病院事例】医療法人財団 石心会 川崎幸病院 設立母体 民間病院
エリア 関東地方 病床数 326
病院名 【病院事例】医療法人財団 石心会 川崎幸病院
設立母体 民間病院
エリア 関東地方
病床数 326
コンサルティング期間 6年間
病院ダッシュボードχ
  • ・DPC分析
  • ・外来分析
  • ・マーケット分析

 4月27日開催の「病院ダッシュボード」のユーザー会で、「断らない救急」「患者主体の医療」を基本理念に掲げる「川崎幸病院」(神奈川県川崎市)の改善事例が発表されました。検査項目によっては、大幅に月間検査数を抑えることができたなど、データに基づいた地道な改善活動が医療の効率化を推進し、同院の理念実現を下支えしていることが分かりました。


川崎幸病院・経営企画室主任の菊地香織氏

「医療資源の偏差値に愕然」

 川崎幸病院は、人口も患者数も増加傾向にある川崎市南部に位置する高度急性期病院。年間の救急車受け入れ件数は約1万件で、それに対して救急車の受け入れを断らざるを得なかったのは、2015年はわずか7件と、まさに「断らない救急」を実践しています。

 ユーザー会の冒頭であいさつした笹栗志朗院長は、「激しい競争下において、しっかりとした経営戦略の立案は非常に重要。当院が高度急性期を続けるという強い意志がある以上、在院日数の短縮と医療の効率化の推進は欠かせない」としました。


川崎幸病院の笹栗志朗院長

 実際、同院の平均在院数は減少傾向にあり、13年4月に14.4日だった平均在院日数は、直近の16年3月で10.4日と3年間で平均在院日数を4日も短縮しています。

 この日のユーザー会では、同院・経営企画室主任の菊地香織氏に、医療資源の最適化や手術室の稼働率向上への取り組みを中心に事例発表していただきました。「病院ダッシュボード」を活用し始めてまず驚いたことは、「医療資源の偏差値が想像以上に低かったことに愕然としたこと」と菊地氏は振り返ります。

PCT件数、ピーク時から大幅ダウン

 13年時点の重要な経営指標のレーダーチャートを見ると、平均かそれ以上の偏差値がほとんどで、手術単価などの手術関連の指標に関してはトップレベルの成績を残す一方、医療資源の偏差値が極端に低い状況でした(図表1)。そのため、まずは病院ダッシュボードで改善が必要な項目とその対策の大枠を把握。その上で、DPC分析ソフトの「EVE」などを用いて詳細なデータ分析を行い、診療科ごとに改善策を提案していきました。


(図表1)重要な経営指標のレーダーチャート。医療資源の偏差値が極端に低い状況だった

 例えば、入院患者の「プロシカルトニン(PCT)検査」。病院ダッシュボード上で要改善を表わす「赤」だったことから、詳細データを確認すると、ピーク時は月間600件弱あり、コストも180万円近くかかるなど、非効率な状況でした(図表2)。特に、外科でこの値がある時点から急増しているため、必要時にのみ検査をオーダーするように働きかけたところ、翌年の2015年には月平均200件と大幅に改善することができました。


(図表2)データを起点に大幅改善したPCT検査

 手術室の稼働率については、手術室別の稼働状況を可視化した上で、手術時間帯を早めるなどデータに基づいたオペレーションに見直したことで、13年に55.2%だった日勤帯の手術室稼働率は、2年後の15年には70.0%とこちらも大幅に改善しました。

 こうしたデータに基づく個別の施策が実を結んだことにより、重要経営指標である「医療資源」の偏差値は4.5ポイント改善。そのほか、入院期間II超割合、平均在院日数、緊急入院率、手術単価、手術症例割合などほとんどの指標の改善を促す促進材料になりました。

 菊地氏は、「分析データのみを提示するのではなく、ヒアリングが重要。データはマイナス面を伝える内容が多く、現場の反発を招くことも考えられるため、診療報酬やDPCの勉強会と連動して伝えるなどの工夫をすると、診療部に受け入れてもらいやすい」と、実効性の伴う改善活動をするためには、現場とのコミュニケーションと受け入れてもらうための戦略も重要であると強調しました。

総合病院体制への固執は中小規模ほど厳しい

 この日のユーザー会では、GHCから「病院ダッシュボード」を利用するための初級編と中級編の講演も実施。初級編では、コンサルタントの薄根詩葉利が、参加者と一緒に操作をしながら基本的な操作方法を解説しました。改善活動につなげるためのシミュレーション分析をいくつか例示した上で、「分析が起点となるが、経営会議に報告して意思決定を促し、アクションしたらその効果を検証することが最も重要」と、分析に時間を割くのではなく、実際の改善活動に時間を割くべきで、それをするためのツールが「病院ダッシュボード」であるとしました。


GHCコンサルタントの薄根詩葉利

 中級編はマネジャーの冨吉則行が担当。16年度診療報酬改定のポイントをおさらいしつつ、今回改定で注目の変更点だった救急や医療連携関連の加算に対応できているかどうか、実際に病院ダッシュボードを操作して確認したり、参加者同士でグルーピングし、各病院の特徴などについてディスカッションをしたりしました。


GHCマネジャーの冨吉則行

 今回の改定は、特に中小病院に対して厳しい改定になったと言われています。さらに病床規模が小さいほど固定費率は高くなり、固定費率が高くなるほど、利益を出しづらくなることは病院経営におけるセオリーの一つです。そのため冨吉は、200―300床台の病院における収益性改善の財務的なアプローチとして、(1)医業収益の単価向上(2)固定費の削減―の2つの手法があると解説。データ分析の視点からの具体的な施策として、「単価の高いケースミックスを取り入れる」ことと、「固定費率の低いケースミックス」を取り入れる施策を提案しました。

 例えば、冨吉が担当したコンサルティング先の病院では、悪性腫瘍手術を高稼働させることで高収益性を実現することに成功しました。こうした事例を解説した上で、冨吉は「一部の例外を除いては、固定費削減を優先的に考え、部分的に単価向上に該当する疾患群を見出すことが妥当。総合病院の体制への固執は、相応の稼働率で高単価疾患を集患できない限り、経営的に厳しい」と選択と集中ができていない中小病院に向けて警鐘を鳴らしました。