事例紹介

2013年10月25日

【病院事例】「早期から集中的に」相澤病院のリハビリ効果

病院名 社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 設立母体 民間病院
エリア 甲信・北陸地方 病床数 460
病院名 社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院
設立母体 民間病院
エリア 甲信・北陸地方
病床数 460
コンサルティング期間 6か月
コンサルティング
  • ・材料コスト削減
  • ・診療科パスアセスメント

 リハビリテーションが患者の予後に大きく影響することを早くから認識し、診療報酬の後ろ盾が十分にないころから、赤字覚悟でリハビリ専門職の体制を充実させてきたのが社会医療法人財団慈泉会相澤病院です。

 相澤病院は、相澤孝夫理事長のリーダーシップの下、多くの先進的な取り組みを展開する全国的に有名な病院です。2013年2月にはJoint Commission International(JCI)の認証を受 け、話題になりました。GHCは相澤病院と十数年間にわたって、さまざまな共同研究を行っています。

リハビリは治療、週末休みは本末転倒

 脳梗塞そのものの治療は一段落したけれど右半身にまひが残り右手で食事ができない、股関節部骨折の手術はうまくいったけれど歩行困難になったなど、臓器は完治しても身体の機能に障害が残り生活に支障が生じる場合、これらの問題を大勢の専門職が協働して解決するアプローチがリハビリテーションです。

 リハビリの語源はラテン語で、「re(再び)+ habilis(適した)」、すなわち「再び適した状態になること」「本来あるべき状態への回復」などの意味を持ちます。

 点滴治療の場合、週末に関係なく連続で行いますが、リハビリは「週末は職員が休み」という病院側の慣例的な理由で実施しないことがまだまだ多いのが現状です。そもそも人員が制限されている自治体病院は、リハビリ職員が不足しているので「週末に提供する体制はとても整えられない」、また労働組合の強い病院では、「週末まで働くなんてとんでもない」という考えもあります。しかしこれは、患者を治療することが使命の病院にとって、本末転倒ではないでしょうか。

 リハビリは治療です。脳卒中の急性期リハビリが生存予後に好影響を与えるというエビデンス(注2)は、海外の研究で多く発表されています。実際、厚生労働省の研究では早期リハビリの有効性も証明されており、特に脳卒中で入院した患者に早い段階から実施した方が、予後が良いという結果が出ています。早期からの適切なリハビリの提供は患者の予後に直結するのです。

診療報酬が後から付いてきた

 相澤病院では、2000年代の中ごろからリハビリに力を入れてきました。例えば脳卒中の場合、発症直後から3週目まで一日9単位とリハビリを集中的に実施しています(入院リハビリの単位数は平均約7単位)。時間に換算すると一日180分です。全国平均は一日3単位(60分)前後なので、相澤病院がいかに手厚くリハビリを提供しているかが分かります。人員体制も充実していて、2014年度には、病院のリハビリセラピスト部門には129人(ほかに地域在宅医療支援センターに58人)のスタッフがいます。

 2010年度の診療報酬改定でリハビリが飛躍的に評価され、こうした取り組みは追い風になりました。医療の質を上げようとリハビリの体制を充実させた相澤病院の取り組みに、〝診療報酬が後から付いてきた〞のです。まさに時代の先取りです。2012年度の報酬改定では、早期リハビリの有効性が認められ、評価されました。具体的には、発症・術後から1 4日までにリハビリを実施した場合の診療報酬が増額されたのです。

 「早期から集中的に」相澤病院のリハビリ効果

 GHCでは、リハビリを重視する相澤病院とほかの病院とで、脳卒中の患者に提供する医療の質にどれだけ差があるかという観点から、2011年に比較分析を行いました。

 こうした分析を行う場合、リハビリに関するデータの精度がまず重要になります。そこで11年4〜8月の脳卒中症例でADL(日常生活動作)関連のデータがどう入力されているかを比べると、不明表記の「9」や「未記入」がほかの病院では平均25%程度だったのに対し、相澤病院ではほぼ100%記入されていました。

 データの質を担保するため、分析では526病院の4万1723症例から、▽症例が少ない病院(一か月5症例未満)▽ 15歳未満▽DPCを算定しない病棟に転棟▽ADLに問題があるデータ―の症例を除外。最終的に、相澤病院の脳卒中159症例と、ほかの288病院の7470症例を比較しました。

 すると、相澤病院では、「脳卒中のリハビリ開始日が早い」「一日当たりの実施時間が長い」「リハビリの実施日数が多い」ことが明らかになりました。

 医療の質を表すアウトカム指標の分析結果はどうでしょうか。脳卒中の患者の平均在院日数は、相澤病院では22・7日、ほかの病院では平均25・4日と有意差が見られました。ADLスコアは、10項目ある指標のうち「食事」「移乗」「トイレ動作」「平地歩行」「階段」「排便管理」「排尿管理」の7項目のスコアを「Barthel Index(BI)」(注3)スケールに換算して比較した結果、入院から退院までの改善度合いは相澤病院の方が高く、これも有意差が見られました。リハビリの早期からの開始と濃密な提供が、在院日数短縮とADL改善に有効であることを強く示唆する結果です。

「早期介入が好影響」は相澤病院だからこそ?

 医療関係者は、「この結果は相澤病院だからこそ」と考えるかもしれません。そこで相澤病院では、脳卒中での急性期リハビリの重要性を全国に広めようと、リハビリの提供密度によって症例を分類し、アウトカムにどれだけ差があるかを分析した結果を、学会などで積極的に発表していこうと考えました。

 分析はまず、相澤病院の159症例と288病院の7470症例の計7629症例を、リハビリの実施単位数によって3グループ(高単位群「4単位以上」、中単位群「2・7単位以上4・0単位未満」、低単位群「2・7単位未満」)に分けました。2・7単位は全体の平均単位です。すると、「高単位群」ではほかのグループよりリハビリの開始が早く、実施日数も多いことが分かりました。

 アウトカム指標は前回と同じようにADLをBIに変換して比較分析した結果、3つの群で有意に差が出たのです。(図表1)

 これらから、早期からの濃密なリハビリの提供が患者の予後に好影響を与えるのは、相澤病院に限ったことではないと示唆されたと言えます。

「最適な実施量は? 」リハビリ研究、課題さまざま

 リハビリの有用性は、週刊誌でも「急性期のリハビリは〝ピンキリ〞後遺症は1か月が勝負」と取り上げられました。

 リハビリの有用性は今後、ますます精度を上げて追求していく必要があります。例えば相澤病院の分析では、リハビリの実施単位数によって症例を3グループに分類しましたが、この分類の基準となる単位数は妥当なのか。「早期介入」「一日当たりの実施量」「実施日数」の3つの変数のうち、医療の質に強く影響を及ぼすのはどれなのか。「一日当たりの実施量」や「実施日数」の増加は、ある時点でリハビリの有用性を〝逓減〞(次第に減る)させるとするなら、医療費の有効活用の観点から最も効果的な実施量、つまり費用対効果が最高なのはどのレベルなのかなど、研究すべきことはたくさんあります。