事例紹介

2015年01月28日

「エクセレント・ホスピタル」への好循環 幹部の理念と職員のやる気を編むデータ分析

病院名 長崎原爆病院 設立母体 公的病院
エリア 九州地方 病床数 297
病院名 長崎原爆病院
設立母体 公的病院
エリア 九州地方
病床数 297
コンサルティング期間 3年間
コンサルティング
  • ・地域医療構想下の病床機能戦略
  • ・診療科パスアセスメント
  • ・集患・地域連携

 経営改善にデータ分析は欠かせませんが、もう一つ欠かせないものがあります。職員のやる気です。

 信頼できるデータ分析と職員のやる気が経営幹部の理念と結びつき、日本赤十字社長崎原爆病院は今、経営改善への好循環の軌道に乗り、「エクセレント・ホスピタル」に向けた新たな一歩を踏み出し始めました。

長年の悩みの突破口開いたDPC分析

 病院の経営改善において、最も苦労するのが職員のモチベーション。それがこの病院にはある――。GHCの湯原淳平アソシエイトマネジャーは、コンサルティングの担当先である長崎原爆病院について、誇らしげに語ります。2014年最後のコンサルティング訪問の際も、仕事を終え病院を後にする湯原に、待ち構えていた看護部長、看護師長、事務職員らが次々と声をかけ、たっぷり1時間は経営改善に向けた質問や改善案をぶつけていました。

 なぜ、現場の職員のモチベーションが高いのか――。

 長崎原爆病院は、7対1一般病床303床、地域包括ケア病床39床、HCU8床の計350床の急性期病院。長崎医療圏の人口は約50万人でDPC病院は12施設、そのうち同病院を中心とし半径5キロメートル以内に11施設が集中している急性期病院の超激戦区で展開しています。25年に向けて医療提供体制の大激変が確実視される中、今後、超激戦区での競争はさらに厳しいものになっていくと予想されます。

 当然、経営幹部も現場のスタッフも、こうした外部環境を踏まえ、危機感を抱いていました。ただ、そのためには経営幹部と現場が一体となり、精緻なデータに基づく今後の病院戦略の立案、現状の業務改善などを推進しなければならず、そのための具体的な手法を模索していました。「病院幹部会に対して、どのような経営企画を提案していけば良いのか、長年の悩みでした」(経営管理課 経営企画係長の奥村浩一氏)。

 こうした中、同病院はDPC分析がその突破口になるのではないかと考え、GHCに診療科別DPC分析をご依頼いただきました。その際に「医療コンサルタントの必要性を痛感した」(奥村氏)ことがきっかけで、13年10月から本格的にコンサルティングを導入されました(図表参照)。

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地域包括ケア病棟新設の好成果を確認

 コンサルティング導入以降、月別の症例数、平均在院日数、期間Ⅱ超率、1日単価(機能評価係数加味)など重要な経営指標の多くが改善。職員の意識も高まり、湯原が提案する以外の経営改善策にも次々と着手し始めました。こうした状況に湯原も「集患対策で周囲の医療機関との交流会なども自発的に開催しているのは驚きだ」と舌を巻きます。

 また、重症度は次期改定でさらに厳格化される可能性も示唆されており、余裕を持った対策が必要です。そこで湯原が提案したのは、重症度データの精度向上のステップを踏んだ上で、地域包括ケア病棟を開設し、院内で病床コントロールをし、7対1病床重症度の向上を図るという作戦です。

 地域包括ケア病棟導入の結果について、先ほどの「病院運営効率化委員会」で看護部門の幹部たちが「確実な効果あり」との報告をしたため、谷口副院長(病院運営効率化委員会 委員長)は7対1入院基本料の算定を左右する重症度の改善を確認でき、安堵されていました。

「本当にこの資料を自前で作ったのか」

 13年から矢継ぎ早に経営改善策を展開できた成功要因について奥村氏は、「院内に改善の文化ができたことが大きい」と指摘します。コンサルティング導入の原動力となったのは、「外部の第三者からの声は経営改善に及ぼす影響が大きく、医療コンサルティングの導入は今の我々には必要不可欠」(奥村氏)と感じたため。その感覚は看護部門も同様だったようで、一連の経営改善、改善の文化の定着には「看護部門からのバックアップも非常に大きかった」と湯原は振り返ります。

 「病院運営効率化委員会」の直前に開催した「クリニカルパス委員会」の会終了間際、谷口副院長は同委員会で使った資料のクオリティが想像以上に高かったために、「この資料をうちで作ったのか?素晴らしい」と思わず口にしました。奥村氏は、湯原が帰途に着く直前、「まだ問題は山積みですが、着実に改善しています。やりますよ」とさらなる改善にまい進することを誓いました。

 信頼できるデータを軸に、経営幹部と現場スタッフのモチベーションが頂点に達している同病院の経営改善は、まだ始まったばかりです。


◆インタビュー:「院内の大きな変化は外部の意見が突破口になる」

 コンサルティング導入の経緯や感想、今後の目標などについて、経営管理課 経営企画係長の奥村浩一氏にお話を伺いました。

―コンサルティング導入までの経緯を教えて下さい。

経営管理課 経営企画係長の奥村浩一氏

 「何かしないといけない」という思いがあり、そんな時、湯原さんが「病院ダッシュボード」の説明に来られたので、合わせてDPC分析を依頼したのですが、医師の評判が非常に良かったので、院内全体に向けた講演会の実施などを経て、コンサルティング導入について院長のゴーサインが出ました。それからすぐに「病院運営効率化委員会」を立ち上げ、経営幹部と現場が定期的に情報を共有しながら、病院運営を検討する場ができました。

―湯原のコンサルティングはいかがですか。

 頼れる人、頼れる会社があるというのは心強いです。特に、診療報酬改定後の疑義解釈が出るのが遅いなど、現場が混乱しやすい時に相談できることは助かります。他の病院の事例などもよく知っているので、何か新しい提案をする際の現場の納得感が違います。特にすばらしいのは、先生方を納得させるDPC分析手法と説明力ですね。やはり、プロの分析には説得力があります。

―特に印象に残っているコンサルティング事例はありますか。

 やはり地域包括ケア病棟の立ち上げです。まずは1病棟39床で始めたのですが、徐々に稼働率も上がっていて、すでに30床を切らない状況で満床の日もあります。谷口副院長も当院の地域医療連携の会で、地域の先生方にアピールされていますが、これから地域包括システムが確立していく中で、急性期病院が60日間入院できる病床を持つ意味は、かなり大きいと思います。

―今後のコンサルティングで何を望んでいますか。

 これからこの急性期病院の激戦区で、さらなる競争の激化が進むでしょう。それに備えての土台、足元をしっかりと固めながら、医療政策の改善に対応していく、そのためにはパートナーとして、ファシリテーション型コンサルティングを望んでいます。


日本赤十字社 長崎原爆病院
〒852-8511 長崎市茂里町3番15号
TEL095-847-1511(代表)
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