事例紹介

2015年06月23日

比較すべきは常に国内トップレベル 地域の中核病院としての機能分化目指す

病院名 済生会宇都宮病院 設立母体 公的病院
エリア 関東地方 病床数 644
病院名 済生会宇都宮病院
設立母体 公的病院
エリア 関東地方
病床数 644
コンサルティング期間 1年間
コンサルティング
  • ・地域医療構想下の病床機能戦略

 常に国内トップレベルの病院と自病院を比較し、新たな改善点を探り続ける済生会宇都宮病院。地域の中核病院である同院は、地域の医療提供体制を十二分に考慮した機能分化に向けて今、大きく舵を切ろうとしています。


10人体制の経営戦略室

 済生会宇都宮病院は、病床数644床(専門病床はICU・CCU16床、NICU18床、緩和ケア20床、特別病棟20床)で、宇都宮保健医療圏の約4割の症例シェアを持つ地域の中核病院。GHCの初回訪問の第一印象は、「経営面で優良なDPCII群病院である一方、経営陣も事務もそのことに甘んじることなく、さらなる改善への姿勢を崩さない病院」でした。

 14年4月には元看護部長で副院長の渡邊カヨ子氏をトップとする経営戦略室を設置。MBA(経営学修士)ホルダーなどを含む計10人体制のチームを結成し、データ分析と経営戦略の立案を積極的に推進しています。公的病院でこれだけの規模の経営戦略チームを抱える所は、珍しいでしょう。さらにDPC分析ソフト「EVE」の全国幹事病院を務めるなど、データ分析の面においても確かな力を備えています。

 そんな同院からのGHCへのオーダーは、機能分化と病床戦略の支援。経営戦略室を立ち上げ、その将来構想を議論し合う中で最も重要な課題として挙がったためです。済生会宇都宮病院がこのことを重視しているのは、同院の機能分化や病床戦略が宇都宮保健医療圏の医療提供体制を大きく左右する可能性が高いためです。そのため同院は、第三者による徹底したデータ分析に基づく確かな将来予測を伴って、機能分化と病床戦略の舵を切ろうとしていました。

「次世代医療提供体制」のお手本に

 地域の医療提供体制に多大な影響を及ぼしかねない中核病院からのオーダーに対し、GHCは米国公認会計士(CPA)の資格を持つコンサルタント(マネジャー職)、医師資格を持つコンサルタント、公共案件を数多く手がけてきたアナリストなどから成るプロジェクトチームを結成。14年8月から半年間、済生会宇都宮病院の内部環境と外部環境を徹底的に調査・分析しました。

 関連するあらゆるデータを収集するとともに、院内へのヒアリングも徹底的に行い、現在の病床規模が適正なのかどうか、地域包括ケア病棟の開設の是非など同院の分析をした上で、地域の最適な医療・介護提供体制をまとめていきました。そして最終報告となった15年2月、欠かさず月1回の打ち合わせに出席する吉田良二院長は、GHCからの最終報告にあった機能分化と病床戦略における提案を見て「納得の行く分析と数字に基づく提案」と高く評価しました。

 2018年度の診療・介護報酬の同時改定と2025年を見据え、経営戦略の体制を強化し、地域医療への責任感を何よりも大切にする済生会宇都宮病院。吉田院長は14年6月、地元『下野新聞』への寄稿記事で次のように記しています。

 「私は『連携なしの機能分化はありえない』と考えている。(中略)宇都宮保健医療圏をはじめとした栃木県全体での取り組みが、次世代医療提供体制のお手本として全国に誇れる日が来ることを願っている」(引用文の元記事はこちら

 済生会宇都宮病院が現状に満足せず、さらなる高みを目指し続けられるのは、「自病院がどうあるべきか」ではなく、「栃木県の医療がどうあるべきか」という吉田院長の問題意識を、院内で共有できているからなのかもしれません。

◆インタビュー:経営戦略の人材投資は高品質な医療に直結

 地域の中核病院として、将来あるべき姿をどう描いていくか――。済生会宇都宮病院のコンサルティングを担当したGHCマネジャーの井口隼人が、吉田良二院長に聞きました。

済生会宇都宮病院の吉田良二院長

「現状に満足している暇などない」

井口:最初の訪問で経営改善の意識がかなり高いレベルの病院だと感じました。医療圏での症例シェアも高く、経営的にも順調で、患者からの信頼も厚い。こうした好環境の中、より高みを目指そうとする原動力は何ですか。

吉田氏:私たちとしては、まだまだ改善の余地を多分に残していると思っています。もっと高いレベルの病院は、まだ全国にたくさんあります。例えば、同じ済生会の中でも済生会熊本病院は日本のトップを走っています。目指すべきはそういう病院で、それに追いつき、追い越せということで努力し続けることが、地域の中核病院としての役割です。

 また、時代も大きく変わりつつあります。これまでの病院経営は、護送船団方式でした。国に守られ、ある程度のことをやっていればそれなりの利益を出せる状況にありましたが、そんな時代は終わりつつあります。国の方針、地域の環境変化に対応し続けることができなければ、これからの病院は生き残っていけません。そういう意識の病院も増えてきています。現状に満足していられる暇などないですし、すぐに追い抜かれてしまう時代になったのです。

 ですから、我々は2014年度に経営戦略室を立ち上げました。本格的に、もっとしっかりと経営力を付けていかないと、年月が過ぎるごとに利益を出しづらくなります。利益を出せなければ、病院の設備、そして何より人材に投資できなくなり、そのことは医療の質の低下に直結してきます。今後は病院もしっかりと経営をし、利益を着実に出し、病院を良くするためのヒト・モノへの投資を惜しまず、そのことが地域に質の高い医療を提供することにつながるという好循環を作っていくことが、地域の中核病院として求められています。

 経営がしっかりしている病院は、しっかりした人材が育っています。だから病院も成長し続けることができるのです。GHCは多くの優良病院をコンサルティングしてきたノウハウと、病院ダッシュボードというツールを持っています。わたしとしては、GHCができることと同等のことを、今後は経営戦略室でもできるようになってもらいたいし、そのためにしっかりとした人材育成をしていかなければならないと思っています。

決断に必要だった第三者の意見

井口:我々もノウハウはしっかりと盗んでいってもらいたいと思っています。仰る通り、最終的にはコンサルを必要としないくらいの人材を育成できるかどうかが、今後の病院経営には欠かせないと感じています。ちなみにGHCをお選びいただけた理由は何でしょうか。

吉田氏:経営戦略室を立ち上げて、将来構想に関する議論を重ねていく中で、機能分化をどうすべきなのかという話になりました。機能分化と連携は今後の医療提供体制に関する最も重要なキーワードです。在院日数の短縮や入院医療の外来化などが進み、高齢化も進展していく中で、本当に高度急性期だけでいいのか、地域包括ケア病棟を持つべきか、いずれかの道を選ぶかそれ以外の道を選ぶにしても、それぞれの必要病床数はどれくらいなのか――。遅くとも2018年までに病院の立ち位置をしっかり決めないといけないので、これらのことを早くはっきりとさせたかったのです。

 ただ、我々は地域中核病院なので、自分たちの病院だけではなく、地域全体を考えた上での機能分化や病床戦略が欠かせないと考えています。そのため、しっかりとした第三者の意見も必要だと考えて、さまざまな経営コンサルティング会社などを調査しましたが、最終的には日頃から親交があり信頼できる国際医療福祉大学の高橋泰教授の推薦もあったため、御社を選びました。

目指すは「すべて自前の経営戦略」

井口:GHCのコンサルティングはいかがでしたでしょうか。

吉田氏:正直言うと、最初の会議で将来人口問題などのデータを出してもらったのですが、「この程度のことなら当院の経営戦略室でできないのか」と思いました(笑)。最初こそ、そうは思いましたが、精度に問題があった「重症度、医療・看護必要度データ」の改善提案などをしてもらいつつ、さまざまな切り口で将来進むべき方向に関するデータを出してもらい、議論し合い、いくつかの進むべき方向性が見えてきました。それらの方向性は当院でも何となくの検討は付いていたのですが、その裏付けとなるデータの納得性、それぞれのプランには精緻で具体的な数字が示されており、ここまでの分析はまだ我々にはできないなと思いました。

 現在、視覚的に重要な経営指標が瞬時に分かる「病院ダッシュボード」を活用しながら、診療科ごとの問題点の検証などを進めています。現状ではこうしたソフトウェアなどを自病院で開発することはできませんが、将来的にはこうしたIT関連の技術的な取り組みも含めて、すべて自前でできるようにしたいですし、そのための経営戦略を担う人材育成をしっかりとやっていきたいと思っています。

井口:本日はありがとうございました。


社会福祉法人恩賜財団 済生会支部栃木県済生会宇都宮病院
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