事例紹介

2015年09月16日

【病院事例】自病院にデータ分析のプロを 自ら課題解決できる人材育成を推進|さいたま赤十字病院

病院名 さいたま赤十字病院 設立母体 公的病院
エリア 関東地方 病床数 638
病院名 さいたま赤十字病院
設立母体 公的病院
エリア 関東地方
病床数 638
コンサルティング期間 9か月
コンサルティング
  • ・診療科パスアセスメント
  • ・経営分析トレーニング

自病院にデータ分析のプロを
自ら課題解決できる人材育成を推進

企画課の澤田課長(中央左)、冨田企画係長(中央右)、半谷嘱託事務員(右)、井口(左)


  2014年6月から開始した医療ビッグデータ分析と診療科ヒアリングに向けた資料作成の研修を終えたさいたま赤十字病院は、「院内で分析できる人材育成を」とする加藤泰一院長の思いを実現しつつあります。

分析もプレゼンも目に見えて上達

 さいたま赤十字病院は、埼玉県さいたま市の中心地である大宮駅から徒歩圏内にある605床(ICU・CCU・救急 52床)のDPCⅡ群病院。埼玉県内の基幹病院で、救命救急センターとしての役割なども務めます。老朽化などを理由に、2016年度内には隣の駅のさいたま新都心駅に移転し、再スタートする予定になっています。

 12年にDPCⅡ群病院に関するコンサルティングをお引き受けしたことをきっかけに、13年6月には「改善ポイントが瞬時に分かる」を開発コンセプトとした「病院ダッシュボード」を導入いただいております。

 その後、加藤院長の問題意識から(1)院内で医療ビッグデータの分析ができる人材の育成、(2)分析データに基づく主要診療科へのヒアリングなどを実施することが決定。その計画の支援先としてGHCが選ばれ、14年6月から15年2月まで計9回、毎月コンサルタントが訪問しました。コンサルティング内容は、データ分析研修と診療科ヒアリングの実施サポートです。

 研修は、DPCの基礎理解やエクセルを活用した分析の基本操作から始まり、DPCデータ分析ソフト「EVE」や「病院ダッシュボード」を活用した分析資料の作成などについて実施。最初の2か月は診療科ヒアリングを実施するための基礎研修と位置づけ、8月からまずは完全にGHCが作成した資料を用いた診療科ヒアリングを実施しました。その後、徐々にGHCの関与を減らしていき、最終的には事務スタッフがすべての資料を作成できるようになる、というところがゴールになります。

 コンサルティングを終えて、診療科ヒアリングで中心的な役割を担った企画課の澤田真之課長は「分析もプレゼンも目に見えて上達した」と感想を述べています。直近のデータを前年同期と比較しても、平均して医療資源は一症例あたりの金額が減っていますし、入院単価も上がっています。

 企画課の冨田貴之企画係長は、「経営にかかわる重要な見るべきポイントを学べた」と研修を振り返り、「もう少し時間がかかると思っていた後発医薬品への置き換えが進んだ」と診療科ヒアリングを実施した成果を指摘しています。実際の分析業務を行う半谷寿仁氏も、研修内容がしっかりと身に付き、「応用できるスキルを学んだので、DPCデータに限らず、医事データに患者IDを紐付けて分析するなどのようなことは日常茶飯事のように行っています」と述べています。

「自分で考える自分が嬉しい」

 優秀なスタッフがそろっていたため、研修によるスキルやノウハウは順調に身に付けていきましたが、苦労したのは診療科ヒアリングの際のプレゼンです。オフィシャルなデータであるDPCデータとそのベンチマークは、改善点を論理的に分かりやすく示す「型」があるため説明しやすいのですが、各科にとって耳の痛い情報を、「いかに伝わるように話すか」が最初にぶち当たった壁でした。耳の痛い情報をそのまま伝えても反発や反感を招きかねないので、「『頑張っていただいているのですが、もう少しここを変えるともっとよくなりますよ』というような言い方を考えてプレゼンしないと、伝わるものも伝わらない」(冨田企画係長)からです。

 当初は、そういう言い方もできず、耳の痛い情報は避けてのプレゼンになることもあり、「何を話しているのか分からない回もあった(笑)」(同)と言います。加藤院長からの事前アドバイスもあり、徐々に伝えるべき情報をしっかりと伝えられるようになっていきました。大きな転機になったのは、特殊なセクションである救命救急センターでのヒアリングです。

 救急は特に、医療資源の話をしづらく、DPCデータを軸にしたベンチマークの「型」も使いづらいという事情があります。そのため、「どうすれば伝えるべきことを伝えるか、かなり大変な思いをしてデータを作り上げた」(同)とのことです。特殊な分析をせざる得ない中、伝えたいことを伝えるという意識に集中して行った分析だっただけに、そこが「伝わるプレゼン」に変化していったターニングポイントになったようです。

 医療ビッグデータの分析とその情報を院内に発信していく部署として新たなスタートを切った企画課。その変化を、実務を行う半谷嘱託事務員は、次のように述べています。

 「データ分析をきっかけに、さまざまな経験ができるようになりました。今までは言われたことだけをやるイメージでしたが、今は自分の頭で考え、行動できるようになりました。そういう働き方ができるようになった自分が、とても嬉しいです」

 「院内で医療ビッグデータの分析ができる人材を育成したい」との加藤院長の思いは、その実現に向けて着実な歩を進めています。

◆インタビュー:事務方から院内全体のKPIを提案していきたい

 全10回の人材育成プログラムと診療科ヒアリングを終え、今後はより「自ら考える事務部門」を推進し、将来的には院内全体のKPIを事務方発で提案したいと語る企画課の澤田真之課長に聞きました。

企画課の澤田課長

井口:診療科ヒアリングを実施するため、全10回の人材育成プログラムを実施しました。プログラム終了後、受講した企画課のスタッフに変化はありましたか。

澤田氏:今回のプログラムについては学会でも発表させていただきましたが、分析もプレゼンも目に見えて上達したと思います。

 当院ではまず、経営幹部に分析やプレゼン内容を説明して、その上で各診療科に説明する流れで診療科ヒアリングを実施してきました。プログラムの開始当初は、幹部から「その話をするならこの資料ではダメだ」「それでは伝わらない」などの指摘が多数ありましたが、後半になるにつれて、指摘事項は少なくなってきました。各診療科にもしっかりと伝えるべきことが伝わるようになったのか、納得していただけることも多くなりました。

井口:ヒアリング実施前と重要な経営指標を比較すると、診療科ごとにバラつきはあると思いますが、平均して医療資源は一症例あたりの金額が減っていますし、入院単価も上がっています。

澤田氏:ベンチマークの結果に各科の先生方が理解を示してくれたからです。当然、ネガティブなことも含めて報告しなければならないので、反発もありました。そこは院長が「どこの病院でもやっている」「同規模の病院と比べてうちは改善の余地がある」と言ってくれるなどの助け舟もあったので、そのことは大きかったです。

井口:突然、ネガティブなことを言うことに戸惑いはありませんでしたか。

澤田氏:もちろん、戸惑いはありましたが、「伝え方」はかなり上手になったと思います。作成した資料を事前に幹部に話した際、「その言い方では伝わらないから、言い方を考えなさい」と何度も指摘を受けました。企画課としては、ネガティブなことを伝えるにあたり、どうしても遠慮しながら伝えたり、本当に言うべきことを言えないところがあったのですが、院長ら幹部にそういう気持ちを後押ししていただき、「悪いことでもいかにうまく伝えていくか」という伝え方が身に付きました。

 また、そういうことを院長ら経営幹部ではなく、事務が話したことが大きかったのだと思います。診療科の部長は、自分の専門領域であれば、たとえ院長に言われても押し返せるところがあると思うんです。それを我々のような全くの専門外の立場から言うことで、伝えるべきことが伝わりやすくなったのではないでしょうか。今回のことは、自分で考えて問題意識を発信できるような「事務職員を育てる」という方針が院長から示されたことがきっかけとなりましたが、素晴らしい経験になりましたし、最適な戦略だったと思います。

井口:今後、企画課として取り組んでいきたいことや課題を教えて下さい。

澤田氏:せっかく身に付けた分析スキルを活用して、これからはさまざまなことに取り組んでいきたいと思っています。言われたことだけではなく、各診療科の先生方や経営幹部などに向けて、次々と興味を持ってもらえそうな経営に関する情報を発信していきたいと考えています。

 例えば、医業収益や単価、患者数よりももっと細かく、平均在院日数などの重要な経営指標ごとに目標や合格点と呼べるような数値を設定し、病院全体のKPIのようなものを企画課として出していきたいです。病院全体としての基準があれば、ある指標となる数字が少し減ったら、「減ったのでいいですね」というのか、「まだ全国平均がこれなのでもう少し頑張らないと」というのか、その辺の判断材料にもなりますから。

井口:本日はありがとうございました。


さいたま赤十字病院
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TEL:048-852-1111(代表)
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