事例紹介

2017年02月03日

「看護必要度改革」で7対1昇格へ、大垣市民病院の「全員参加の短期決戦」全記録

病院名 大垣市民病院 設立母体 公立病院
エリア 中部地方 病床数 903
コンサルティング期間 6か月
病院名 大垣市民病院
設立母体 公立病院
エリア 中部地方
病床数 903
コンサルティング期間 6か月
コンサルティング
  • ・医療・看護必要度の重症度割合適正化

 ついに始まった病院大再編時代。急性期病床の適正化を目指した政策が急速に進み、病床の削減や機能分化などを検討する急性期病院は少なくありません。こうした中、来年度(2017年度)をメドに、入院基本料を逆に10対1から7対1へ「昇格」させる計画の病院があります。岐阜県西部の西濃圏域医療圏(人口約37万人)の中核病院「大垣市民病院」(903床:一般857床、結核40床、感染症6床)です。

 同院は高度急性期の医療機能をさらに強化する方針で、重症患者割合を引き上げることを目的に、「重症度、医療・看護必要度」のデータ最適化に着手。その結果、本格スタートからわずか半年で、すべての職種が積極的に看護必要度のデータ最適化に取り組む院内改革を実現しました。これまで基準を満たしていなかった7対1入院基本料の施設基準である重症患者割合25%をクリアし、今では30%に迫る勢いです。「全員参加の短期決戦」を制した大垣市民病院の「看護必要度改革」を取材しました。

診療スタイル見直す医師や診療科も

「この症例は骨の手術だからC項目に該当するはずだ」
「いいえ先生、骨の手術でもこの症例はC項目に該当しません」

 大垣市民病院の手術部門では、このような看護必要度に関する医師と専門看護師のやり取りが頻繁に見られます。看護必要度は、データを記録する病棟看護師や経営部門を除くと、それほど意識されていないことがほとんどです。しかし、同院では手術部門に限らず、検査部門、リハビリテーション部門などそのほかの部署の医師や看護師、理学療法士などが当たり前のように看護必要度の存在を強く意識し、日々の業務に当っています。

 2016年度診療報酬改定では、手術などの医学的状況を評価する「C項目」が新設されるなど、看護必要度データの正確な記録を行うために、病棟看護師には医師をはじめとする多職種との連携が欠かせなくなっています。しかし、「看護必要度は病棟看護師がやるもの」という意識から脱しきれていない医師やそのほかの医療従事者は少なくありません。実際、大垣市民病院でも現場スタッフの意識がすぐに変わったわけではなく、特に医師の理解を得るのに時間がかかったと、改革を推進した中心メンバーの尾石仁志副看護部長(写真)は振り返ります。


尾石仁志副看護部長


 もちろん、医師も最終的には改革への取り組みに協力的になっていきました。前述のような診療前に看護必要度を意識することはもちろん、事務部門や看護部門に「この場合はどうだろうか」と看護必要度に関して問い合わせるケースも頻繁にあります。また、「これまで、クリニカルパスなど自身の診療スタイルを変えることに抵抗があった医師や診療科でさえも、重症患者割合を向上させられるのであれば診療スタイルを見直す、という動きも出始めました」(尾石氏)。

 さらには、看護必要度対策で先行している診療科の医師は、次のステップとして地域連携に注目し始めています。重症患者割合の向上という視点からどうすれば後方病院との連携を活性化できるのか、効率的な外来診療を実現するために診療所への逆紹介率を高めるにはどうすればいいのか――。看護必要度を起点に、現場の医師の間では、「急性期らしさを貫く」という意識が明確になりつつあります。

現場に溶け込み、院内全体を活性化

 これまで、看護必要度の勉強会や外部研修に参加するのは主に病棟看護師でしたが、2016年度は手術部門や検査部門の看護師も勉強会や外部研修へ積極的に参加するようになりました。結果、前述のように現場の看護師が、医師に対して看護必要度について明確な回答ができるようになったり、手術台帳のサマリーに看護必要度関連の重要事項を正確に記述したりすることなどで、病棟看護師のより正確な看護必要度データの記録をサポートしています。

 病棟薬剤師も重要な役割を担っています。尾石氏によると、重症患者割合を大きく向上させている病棟や診療科には、必ずと言っていいほど病棟薬剤師の存在があるといいます。抗血栓薬など看護必要度の対象薬剤を抜け漏れなく記録するため、看護師へのアドバイスやサポートなどをしているのです。また後発医薬品の利用拡大で、取り扱う薬剤が一気に広がったことから、看護必要度データ最適化に向けた薬剤チェックには薬剤師の存在は欠かせません。

 医事部門との連携も重要です。当初、医事システムとの連携が進まず、医事部門でのチェックは難しい状況でした。しかし、一致率アップのため、電子カルテシステムから送られてくる処置の医事請求データを、医事部門で目視により確認し、データの不備や疑問点を独自のチェックシートに書き加えて、再度、看護部門に送り返すという精度向上のためのキャッチボールが行われるようになりました。現在は、看護必要度・医事請求の両データを突合するチェックツールを導入し、さらなる一致率アップを目指しています。看護必要度データは、多くの病院で精度に問題がある可能性が高く、今後、大きな問題になる可能性もありますが、データ突合によって請求データの精度向上にも役立てています(図表1、2)。


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【図表1、2】改革後、「一致率」(上)や「過剰評価率」は大幅に改善した

【図表1、2】改革後、「一致率」(上)や「過剰評価率」は大幅に改善した


 尾石氏は一連の「看護必要度改革」を、こう振り返ります。

 「当初は戸惑いや混乱があったかと思いますが、今では看護必要度が意識すべき当たり前のこととなり、現場に溶け込んできている印象です。看護必要度が一種の共通言語としてチーム医療を推し進め、今まで以上に院内全体が活性化してきていると感じています」

 重症患者割合の向上だけではなく、チーム医療の推進、院内全体の活性化にまで波及しつつある大垣市民病院の「看護必要度改革」。具体的には、どのような改革を実行していったのでしょうか。

院長が下した大号令

 16年度診療報酬改定の全容が明らかになった16年2月。尾石氏は、新制度で重症患者割合がどう変化するのか調査を進めていました。調査結果は、基準値の25%ぎりぎり。看護必要度データの精度に問題がある可能性を加味すると、基準値を下回っている可能性も否定できません。

 尾石氏が調査を進めていた背景には、「大垣市民病院中期計画」の存在があります。同計画は13年度から17年度までの5か年計画で、複数ある事業計画の中でトップに挙げられているのが、7対1入院基本料の導入です。17年4月から始まる最終年度で目標を達成するには、重症患者割合25%の早期達成が不可欠。尾石氏は、基準値を下回っている可能性の高いことを示唆する調査結果を見て、看護部門の主任以上で構成される「主任会」でこの問題にどう対処していくべきか、考えを巡らせていました。

 そうした中、同年4月の幹部会議で、金岡祐次院長が「看護必要度データの最適化を行う」と切り出しました。看護必要度データを最適化する余地があり、それにより重症患者割合を高められると判断したためです。実際、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がデータ分析した結果、A項目では専門的処置を除き、他病院と比較して看護必要度データと請求データの一致率が低い、つまりデータ精度に問題があることが判明しました(図表1)。

 金岡院長は、すぐに部門長以上を集めたキックオフ・ミーティングの開催を指示。「看護必要度データの最適化を行う」という決意が幹部層へ一気に広まりました。「看護必要度の実際の評価と記録を行うのは看護部ですが、他部署も巻き込んだ院内システムの構築は看護部だけではできません。院長が前面に立ってプロジェクトを指揮してくれたおかげで、かなり動きやすくなりました」(尾石氏)。

自主性促す3つの戦術

 まず取り組んだのが、データ分析です。16年度診療報酬改定の影響を、データ精度の補正も加味しつつ、15年度のデータで緻密にシミュレーション。結果は23.1%と、基準値25%には届いていないことが明らかになりました。その上で、このデータを示して「現状のままではマズい」という認識を院内全体で共有。具体的な改善策を院内全体で検討していくため、看護部門だけではなく、医師向け、薬剤師向け、療法士向け、事務スタッフ向けなど、複数の職種向けの勉強会を数回に分けて開催しました(図表3)。


【図表3】4月のキックオフから10月までの短期決戦を展開

【図表3】4月のキックオフから10月までの短期決戦を展開


 勉強会は講演会、運用フローや多職種連携の仕組み作りを目指したディスカッションなどいくつかの手法を用意しました。一方、それらを実施していく上で、さまざまな職種の自主性を引き出し、参加意識を高める戦術も必要です。核となる戦術は大きく3つありました。

 1つ目はマニュアル作りです。看護部門には、評価と記録を一致させることが求められますが、「他部門における参加意識の向上」という役割も担いました。例えば、薬剤部門については、「マニュアルのようなものを作れないか」とだけ打診し、薬剤リストやフィードバックの仕方などのマニュアル作りは一任しました。ただ、任せっぱなしだけではなく、例えば、薬剤のチェックで病棟や看護師の間でバラつきが目立ってくると、「薬剤師が看護師に個別にアドバイスするだけでなく、情報共有による全体の底上げのため、病棟責任者の師長にも併せて報告して欲しい」などの看護部門からの意見があれば、それを薬剤部門へ要望することも欠かしませんでした。

 2つ目に、データの活用です。▼病棟ごとのデータ精度▼診療科ごとの重症患者割合▼特定の条件を満たす患者リスト――などさまざまなデータがありますが、職種や部門によって着目する視点が異なります。そこで尾石氏は、さまざまな条件の分析データを用意したり、特定部門の要望に応じたデータを作成し、院内全体がデータに触れやすい環境づくりを推進したわけです(図表4)。


【図表4】データ活用に用いた「病院ダッシュボード」の「看護必要度分析」は、「病棟別」、「診療科別」、「薬剤別」、「疾患別」とどこまでもドリルダウンして分析することができます

【図表4】データ活用に用いた「病院ダッシュボード」の「看護必要度分析」は、「病棟別」、「診療科別」、「薬剤別」、「疾患別」とどこまでもドリルダウンして分析することができます


 

 また、データ分析をしていく中で、分からないことがあれば、積極的に各部門へヒアリングに赴きました。こうすることで、分析担当としては分析時間の短縮とより正確な分析結果を得ることにつながりますし、ヒアリングを受けた部門の参加意識も高まります。

リーダーシップなくして院内改革なし

 3つ目は、院長による現場確認です。院長が病棟を直接訪れ、(1)在院日数は適正か、(2)クリニカルパスは活用されているか、(3)多職種で対応されているか、看護必要度以外のデータも確認しながら看護師だけでなく、医師や薬剤師も対象に、細かい部分までチェックしていきました。これを1日3-4病棟ずつ、1週間ほどかけて集中的に実施。そうすることで、「院長が来る」という緊張感と、そこまでするほど重要なことなのだという意識への刷り込みが、院内全体へ浸透していきました。


【図表5】改革着手から半年で重症患者割合は29.6%まで上昇

【図表5】改革着手から半年で重症患者割合は29.6%まで上昇


 17年1月現在、大垣市民病院の重症患者割合は約30%。7対1入院基本料の届け出に向けて、非常に良い状態が続いています。尾石氏は、今回の「看護必要度改革」を振り返り、「最も重要だったことは、院長のリーダーシップ。院長のリーダーシップなくして院内全体の大きな変化はありえません」と強調します。看護必要度データの最適化は、もはや看護部門だけの問題ではなく、院内全体の重要な経営課題であり、リーダーが率先して取り組むべき課題であることは、明らかです。