事例紹介

2016年09月21日

【病院事例】わずか1年で改善成果、好生館の院内を動かし加速させる6つの戦術|佐賀県医療センター好生館

病院名 佐賀県医療センター好生館 設立母体 公的病院
エリア 九州地方 病床数 450
病院名 佐賀県医療センター好生館
設立母体 公的病院
エリア 九州地方
病床数 450
コンサルティング期間 4年間
病院ダッシュボードχ
  • ・DPC分析
  • ・財務分析
  • ・マーケット分析
  • ・手術分析
  • ・チーム医療plus
  • ・看護必要度

 「福岡赤十字病院」(福岡市南区)で7月28日開催した「病院ダッシュボード」のユーザー会で、「佐賀県医療センター好生館」(佐賀市)の改善事例が発表されました。「病院ダッシュボード」導入からわずか1年で、院内を動かして改善成果を示した同院。短期間で円滑な改善活動を推進できた背景には、大きく6つの戦術がありました。

(1)大方針を定める

 好生館は、450床35診療科でII群のDPC対象病院。年間退院患者数は1万2962人(2015年度)、平均在院日数10.4日(同)の高度急性期病院になります。14年4月に中川原章理事長が着任すると、経営に「ICTやビッグデータなどの情報を最大限に活用する」と宣言。その具体策の一つとして「病院ダッシュボード」を14年9月に導入しました。

 一方、EBM推進の観点からクリニカルパスを積極的に運用しており、15年度の適用率は61.0%と高水準です。ただ、期間IIを超える入院日数のパスがあったり、DPC包括の検査や画像診断が過剰に含まれるパスがあったりするなど、「経営的な観点を加味したクリニカルパスの見直しが十分に行われてきたとは言いがたい状況」(医療情報部医療情報係長の長友篤志氏)でした。

 そこで長友氏が考えたのは、大方針を「クリニカルパスの見直し」に定めたことです。改善活動にはさまざまな視点や手法がありますが、効率的に改善を推進していくためには、ある程度の絞り込みも必要です。「クリニカルパスが積極的に運用されている当院の状況を考慮すると、クリニカルパスを見直す方法が一番の近道」と考えたわけです。

(2)継続的な組織活動とする

 次に考えたのは、改善活動を推進していくための組織体制です。改善活動は、一部署の単発的な取り組みでは難しいこともあります。病院経営の改善は、院内のさまざまな部署や人と連携しなければ実現しません。そのため、軸となるのは医療情報部であっても、組織の継続的な取り組みと位置付けられるにはどうすべきかを、大前提に考えたのです。

 そのため、まずは幹部会議に対して率直にその必要性を提案。提案は承認され、15年1月からクリニカルパス委員会の所掌事務として位置付けることが決定しました。その後、同年3月にクリニカルパス委員会にて、今回の取り組みの具体的な進め方が確認され、「病院ダッシュボード」導入から7か月にして、ようやく取り組みの下準備が完了しました。

(3)分析ターゲットの明確化

 組織体制が固まれば、具体的な分析作業に入っていけます。まず、分析する上で決めたのが、「期間II超え割合が概ね40%を超えるDPCコードおよびそれに適用されているクリニカルパスの分析」にターゲットを絞り込むということです。改善の必要性が高いターゲットにあらかじめ絞り込むことで、効率的かつ効果的な改善活動を実施するための道筋ができます。

 その際に特徴的なことは、DPCコード別、クリニカルパス別に症例数や期間II超え割合を可視化できるアプリケーションを独自に作成したことです。複数の重要データを一元管理できる「データウェアハウス」に格納された「入院データ」「クリニカルパス適用データ」「DPCデータ」を、経営の意思決定などに用いる「ビジネスインテリジェンス」システムにロードすることで可視化するというものです。

 その上で、「病院ダッシュボード」を用いて在院日数の状況、医療資源の投入状況などについて、規模や設立母体の類似した病院との間で細かくベンチマーク分析を実施。課題を抽出し、改善提案を整理していきました。

(4)キーマン(医師)を巻き込む

 課題を抽出し、いくら素晴らしい改善提案ができても、改善活動の推進につながるとは限りません。作成する資料が分かりづらかったり、伝わらないプレゼンテーションだったりすると、思うような成果をあげることはできないでしょう。さらに、診療科ヒアリングであれば、改善提案をするのは医師であることが多いですが、医師を説得するには同じ医師から伝えてもらうことが有効です。特に、その医師が改善活動におけるキーマンであれば、その効果は絶大です。好生館では、診療科ヒアリングにはクリニカルパス委員長(耳鼻いんこう科部長)を交え、各診療科部長へのヒアリングを実施しました。

 その結果、15年3月の取り組み着手以降、16年6月までの1年3か月の間に、12診療科に対して16種類のクリニカルパスの改善提案を行うことになりました。単純計算で、1か月に1つのパス改善提案をしている計算になります。これら実績は、15年10月開催された「第54回全国自治体病院学会」でも報告されたほか(関連記事『医療と経営の質を同時に改善、病院ダッシュボードユーザーの事例報告次々』)、16年6月発行の医療系雑誌「ITvision」にも掲載されています(ITvisionのページはこちら)。

(5)院外の情報を有効活用する

 院外の情報も有効活用しました。例えば、「心臓カテーテル検査パス」の改善事例では、現行の「3日パス」に加えて、入院当日に心臓カテーテル検査を実施する「2日パス」を新規に作成し、並行運用することを提案しました。その際、他施設における「2日パス」の運用例を併せて紹介。こうすることで、循環器内科のキーマンの理解を得ることができました。

 その結果、パス見直し後の平均在院日数は0.3日短縮の3.0日、期間II超え割合は3.3ポイント減少の6.5%に、平均検査金額は4914円減少の3万115円、平均画像診断金額も1124円減少の1474円に改善されました。

(6)「仕組み化」でさらに広める

 さらに好生館では、毎朝、従業員たちのスケジュール管理などを行うグループウェアで、各診療科の期間II超え状況を、リアルタイムの値で発信し、地域連携による早期の転退院を呼びかけています。看護必要度についても、リアルタイムでクリア状況を発信し、院内一体となって重要度を高く保つよう働きかけています。

 改善活動は、一度改善したら終わるものではありません。折に触れて、改善の成果が保たれているかどうか、現状を確認することが必要です。ただ、多忙な日常の中での振り返りは難しいこともあるので、こうして「仕組み化」することで、現状を確認し、改善の機運を高め、維持することにもつながります。

セミナー当日の様子

「看護必要度分析」など紹介

 この日のユーザー会では、GHCから「病院ダッシュボード」を利用するための初級編と中級編の講演も実施。初級編では、コンサルタントの薄根詩葉利が、参加者と一緒に操作をしながら基本的な操作方法を解説しました。中級編はマネジャーの冨吉則行が担当。「16年度診療報酬改定の対応解説を軸に、病院ダッシュボードの新機能で看護必要度データの精度向上などに役立つ「看護必要度分析」の紹介などもしました。