病院経営コラム

2022年06月06日

【3分講座】ついに本腰のハシゴ外し地域包括ケア病棟、「億単位の減算危機」他院はどう乗り越える?

ついに国が本腰の「地域包括ケア病棟」のハシゴ外しに乗り出した。多くの急性期病院が保有する重要な病棟の経営は今後、どうなるのか。状況によっては「億単位の減算危機」にどう立ち向かえばいいのか。3分で読める分量で、この危機の概要、この難局を乗り越える考え方「他病院の状況との比較『ベンチマーク分析』」について解説する。

急性期維持で「院内転棟」活用が100%の病院も

急性期維持に欠かせないツールの一つである地域包括ケア病棟について、ついに国が本腰でハシゴ外しを始めた――。

このように感じている病院経営の関係者たちは、少なくないのではないでしょうか。

2014年度の診療報酬改定で創設された地域包括ケア病棟。持続可能な医療提供体制の構築が急務の中、増えすぎてしまった急性期病床の最適化が最重要課題とされる中で創設されました。そのため地域包括ケア病棟は創設当初から、(1)急性期後の患者受け入れ(2)自宅などからの軽度急性期の患者受け入れ(3)在宅復帰――の3つの役割を担う新たな病棟として期待されました。

急性期病棟の要件が年々厳しくなる中、急性期度が低下した患者の転棟先となる地域包括ケア病棟の届出は急増。創設半年後の2014年10月には全国1000病院が地域包括ケア病棟を新たに届け出し(『地域包括ケア病棟、経営効率改善とスタッフの意識改革を推進―GHC分析に日経新聞も注目』)、2020年7月には9万2829床と回復期リハビリテーション病棟の届出病床を超え、一般病棟、療養病棟に次ぐ国内で3番目に多い病床になりました(図表)。

図表1

ただ、国が地域包括ケア病棟に求めた3機能のバランスは、必ずしも保たれていないことが、徐々に分かってきました。

急性期一般入院料1の届出には、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」の評価結果で高い水準の「重症者割合」を満たすなどの要件をクリアしなければなりません。特にこの重症者割合をクリアするため、「自院の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、重症者基準を満たさなくなった患者を転棟させる」病院があまりにも多いということが、国の調査で明らかになりました。

調査を受けた2020年度診療報酬改定は、400床以上の大病院が保有する地域包括ケア病棟で、自院内の一般病棟から地域包括ケア病棟への転棟割合が偏っていた場合には減算するルールなどが設けられました。ただ、それでも2022年度改定に向けた最新の調査では、▼地域包括ケア病棟の半数が「自院の一般病棟から転棟した患者割合が6割以上」▼「自院の一般病棟から転棟した患者」割合が100%の病院も少なくない――などの実態が分かりました(『入院料減額されても、なお「自院の急性期後患者」受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟が少なくない―入院医療分科会(1)』参照)。

60床保有なら年間1億円超の減算も

こうした状況から2022年度診療報酬改定は、地域包括ケア病棟等にとって非常に厳しい内容になりました。

自院の一般病棟から転棟した患者割合が6割を超えた場合の減算対象が、400床以上から200床以上(地域包括ケア2、4)の病院へと拡大。減算幅も「マイナス10%」から「マイナス15%」に厳格化されました(図表)。また、減算ペナルティは軽度急性期の患者受け入れや在宅復帰でも厳格化されており、さらには減算ペナルティが複数該当する場合は重ね掛けすることも決定。つまり、要件を満たせないと極めて厳しい減算が適用されることになったのです。

図表2

例えば、自院の一般病棟からの転棟患者割合が100%の「地域包括ケア病棟2」では、(1)図表の通り15%の減算(2)自宅等患者受け入れ要件もクリアできずさらに10%の減算―の掛け算で約23.5%の減算になります。つまり1患者につき年間約225万円の減算(6160円×365日)となり、地域包括ケア病棟を30床保有の病院であれば6745万円、60床保有の病院であれば1億3490万円の減収になります。さらに、院内転棟では急性期患者支援病床初期加算も低く抑えられるので、その分の減収も生じます。

難局打開のカギは他病院比較によるベンチマーク分析

このような状況を放置すれば経営が成り立たなくなりますので、地域包括ケア病棟で受け入れる患者像の見直しが急務となります。今回の「減算危機」に該当する病院、特に一般病棟から地域包括ケア病棟への院内転棟ありきで経営していた病院は、2022年10月までの経過措置の間に運用をガラリと変えざるを得ません。

さらに、地域包括ケア病棟の稼働を維持しようとすれば、院内の運用だけではなく、他病院の急性期病棟とのつながりや、近隣の在宅医療機関や救急隊との今後の付き合い方など、複数の論点が複雑に絡み合ってきます。例えば、貴院では以下のような論点をどのように考えますか。

  • ・今後の一般病棟の病床稼働や転棟ルールやタイミングをどう考えるのか
  • ・急性増悪などの救急搬送や在宅クリニックからの紹介をどのように増やすべきか
  • ・心電図モニター廃止など看護必要度の要件厳格化に伴う転院需要をどう取り込むか
  • ・在宅復帰に向けたリハビリテーションをどう対応すべきか
  • ・院内の病床管理はもちろん、周辺医療提供体制の中での病床戦略をどう考えるのか

ついに本腰のハシゴ外しが始まった地域包括ケア病棟の経営をどうすべきかは、非常に難しい問題です。ただ、このような難しい局面のときこそ、現状を可視化し、最適な対策を検討するためのデータ分析が欠かせません。当社コラム『経営企画に欠かせない「データ分析」の基礎』でも述べましたが、分析の基本は「分けて考える」であり、その中でも特に(1)値の幅(2)時系列(3)比較―の3つの視点でまずは考えることが重要です。中でも、他病院との比較が可能なベンチマーク分析を適切に行うことが、この難局を打開するカギを握っています。

上記のような論点を検討するためのデータ分析、分析に基づく対策を検討する方法について、当社では貴院の実際のデータを活用した提案を随時、お受けしております。ご興味のある方は是非、以下の「お問い合わせ」よりご連絡ください。

佐藤 貴彦(さとう・たかひこ)

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。慶應義塾大学文学部卒。医療介護系ニュースサイトの記者を経てGHC入社。診療報酬改定対応、集患・地域連携強化、病床戦略立案などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「日本経済新聞」などメディアの取材対応多数。医療ビッグデータ分析を軸としたメディア向け情報発信や、日本病院会と展開する出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」を担当する。