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2023.03.09

「コロナの教訓生かし、ICUの集約化を」、日本集中治療医学会学術集会で渡辺が講演

第50回日本集中治療医学会学術集会(志馬伸朗会長=広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学、詳細はホームページ)が3月2日から4日にかけて開催され、3日の特別企画でグローバルコンサルティング・ジャパン(GHC)代表取締役社長の渡辺幸子(写真)が講演しました。座長は広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学の志馬伸朗氏、東京大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学の土井研人氏が務めました。

講演では、新型コロナウイルス感染拡大による国内の医療提供体制への影響をデータで解説。ICU(集中治療室)など高度医療提供体制について、ICU病床や集中治療専門医、看護師など医療従事者の分散をデータで示し、「コロナ禍の医療提供体制では、通常医療よりもさらに高密度な医療が求められる。その医療従事者の課題を解決するには、高度医療提供体制の集約化・強化は必須」と訴えました。

日米で桁違いのコロナ受け入れ数

 演題は「With/postコロナの医療提供体制~ICUを中心に~」。
(1)ICUなどの高度医療提供体制の集約化・強化は必須
(2)病床の集約化と同時に集中治療の専門医師・看護師の育成が急務
(3)次のパンデミックに備えた平時からの病床体制と連携(人的・情報ネットワーク)
(4)感染症トリアージと病床の適正使用指針
――の大きく4つの論点に絞って講演しました。

論点(1)で高度医療提供体制の集約化・強化が必須とするのは、医療資源の分散により、「低密度医療」の提供を余儀なくされているためです。

主要先進諸国(OECD)と比較し、日本の人口1000人当たり病床数は12.8床と世界一多い(米国の人口1000当たり病床数は2.8床、2020年度OECD調査)のが現状です。一方、1000人当たりの医師数は他のOECD諸国と比較してやや少ないですが米国とほぼ同数(日本は2.5で米国は2.6)、しかし病床数が多い影響から一床あたりの医師数を見るとOECD最低の0.2人。米国の4分の1という結果です(日本の看護師数は人口当たり高い水準ですが一床あたり看護師数に換算すると0.9人で同じく米国の4分の1)。

つまり、入院患者一人あたり(病床あたり)では、米国の4分の1のリソースで対応しなければならない。そのため、欧米諸国よりも圧倒的に感染者数が少ないにもかかわらず、瞬く間に「医療逼迫」を引き起こしてしまったのが、コロナ禍で何度も危惧された「医療崩壊の真実」(詳細は『「病床逼迫のなぜ」示す深刻な専門医配置のミスマッチ』『【序章全文公開】コロナ禍のデータが暴いた医療資源の「分散」』参照)です。

同様にICU等の高度医療の提供体制においても、主要先進諸国と比べて病床数も専門の医師・看護師も不足しているのが現状です。

コロナ第5波で医療崩壊が叫ばれた東京における一日平均コロナ入院患者数は、400床以上の病院でも最大99人、75%タイル値で57人、中央値が22人(図1)。一方、米国カリフォルニア州において感染が急拡大した2020年11月から21年2月の一日最大コロナ入院患者数は上位10病院ですべて200人超(図2)。1位のカイザー財団フォンタナ病院はほぼ400人という状況でした(詳細は『大病院のコロナ入院患者数に18倍の格差、日米の「急性期」の役割と分担を徹底比較』参照 ※会員限定記事)。

同時期のカリフォルニア州におけるコロナ重症患者の集中治療(ICU入院)では上位10病院の最大受入れ数が50人以上、1位のロングビーチ・メモリアル・メディカルセンターでは80人と、日本では考えられない規模の重症患者受け入れをしていた事がわかります(図3)。

図1:東京都における1日平均コロナ入院患者(第5波)
病床規模別比較

図2:カリフォルニア州におけるコロナ入院患者(確定診断・成人のみ)
最大値トップ10

出典:アキよしかわ「米国におけるCOVID-19」(2022)、厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「新型コロナウイルス感染症に対する各国の医療提供体制の国際比較研究」(研究代表者:松田晋哉)

図3:カリフォルニア州におけるICUに入院のコロナ患者(確定診断・成人のみ)
1日当たり最大値トップ10

出典:アキよしかわ(2022)

30年前の米病院大再編

こうした日米の違いの背景にあるのは、90年代に一気に進んだ米国の病院大再編です。Wallace et al. (2017)は米国における1997年から2011年の間のICUを保有する病院と病床数の調査を行いました(Wallace et al. (2017)の調査表を一部修正)。病院数は501病院減ったにも関わらず、ICU病床数は1万8681床増えています。ICU病床総数の増加は、すべての規模の病院が同じようにICUを増やしたのではなく、100未満の小規模病院ではICU病床の数は減少。総数の伸びは250床以上の大規模な病院で、もともとICUを30床以上持っていた病院が、ICUを7割増加しています。つまり、米国ではコロナ前にICUの集約化を実現していたわけです(詳細はアキよしかわ「米国におけるCOVID-19」(2022)、厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「新型コロナウイルス感染症に対する各国の医療提供体制の国際比較研究」(研究代表者:松田晋哉)参照)。

図4:米国で進展したICUの集約化

論点の(1)で高度医療提供体制の集約化・強化が必須としたのは、米国がICUの集約化を進め、「高密度医療」を実現した歴史的な背景を踏まえたものです。

(2)で集中治療の専門医師・看護師の育成が急務としたのは、以下のデータ分析結果に基づきます。

図5は看護配置2:1ユニット病床(特定集中1~4、救命救急2または4)数別に見た専門医数の状況です。2:1ユニット病床を保有する612病院のうち、当該ユニットで小規模な9床以下が332病院と最も多く、そのうち認定集中治療専門医と救急科専門医の専門医数が0人の病院は4割を占めました。2:1ユニット病床数の規模が大きくなると専門医数は増えるものの、全体の26%の病院が専門医0人という実態から、ICU病床の集約化と同時に専門医、専門医を支える専門の看護師の育成が急務であることがわかります(日本のICUの実態に関して、詳しくは渡辺幸子、アキよしかわ「医療崩壊の真実」(2021)を参照)。

図5:看護配置2:1ユニット病床数別 常勤専門医の状況

論点(3)の平時からの病床体制と連携(人的・情報ネットワーク)では、極めて柔軟性の高い米国の「サージキャパシティ(感染拡大ピーク時の緊急時対応能力)」を例に説明しました。

図6は、カリフォルニア州の全病床とICU病床を「コロナ病床」「コロナ以外の病床」「空床」に分けてその推移を見たものです。2020年暮れから2021年1月の「感染急拡大期」の最大ICU病床数は、8295床(2021年1月8日)。ピーク前は6975床(2020年10月9日)だったので、1320床と全体の18.9%ものサージキャパシティが拡大できたことになります。

図6:カリフォルニア州における病床のサージキャパシティ

出典:アキよしかわ(2022)

こうした柔軟なサージキャパシティを確保できた背景には、まず80年代のDRGs/PPS(一入院包括払い)を機とした病床集約化に伴う医療従事者の集約化(これは米国に限らず欧米諸国は同傾向)が、濃厚ケアの必要なコロナ患者の対応に極めて有利に働いたことがあげられます。

病床においては、米国の入院が元々個室ベースであったこともICU病床の転用へ有利に働きました。医療従事者においては、一定レベルの診断や治療などを行うことができるナースプラクティショナー(NP=Nurse Practitioner)、専門分野に特化する資格を持つ専門看護師(CNS =Clinical Nurse Specialist)、麻酔管理ができる麻酔専門看護師(CRNA=Certified Registered Nurse Anesthetists)、認定助産師(CNM=Certified Nurse Midwife)などの上級実践看護師(APRN=Advanced. Practice Registered Nurse)が、看護師全体の11.5%を占めており、この上級資格看護師がコロナ集中治療の対応に大きく寄与したと考えられます(アキよしかわ、同上)。さらに、米国では、「体外式膜型人工肺(ECMO)」の操作も行う事ができる呼吸療法士(RT =Respiratory Therapists)の認定者が全米で14万人近く存在し、コロナ患者へのRTの貢献も大きかったです(アキよしかわ、同上)。

米国の病院の多くは、個々の病院が組織的にも機能的にも単独でバラバラに活動している「スタンドアローン型」ではなく、一般企業によくある「ホールディングス型」のような本部機能が複数の病院を傘下に抱えている経営形態です。これを米国では「統合型医療提供システム(IDS=Integrated Delivery System)」と呼んでおり、人的・情報ネットワークも合わせて整備されています(IDSに関しては、アキよしかわ、同上I-C「米国の医療体制」を参照)。

例えば、米国の代表的なIDSであるカイザーパーマネンテでは組織に属する病院間で医療従事者やその他のスタッフを柔軟に確保できる人的・情報ネットワークが確立されています(情報ネットワークでは医療材料の共同購買購入などさまざまな場面で活用されています)。渡辺は、「国内の病院は、人件費を固定費と考える病院が多いです。一方、米国の多くの病院は人件費を変動費と考えることで、人の移動を含めた緊急時の医療提供体制と連携を実現しています」と解説しました。

最後の(4)にある感染症トリアージと病床の適正使用指針は、①自宅や宿泊療養が可能なコロナ軽症患者の入院が、入院が必要だったコロナ患者の入院機会を奪う結果になっていないか、②軽症コロナのユニット使用が重症コロナの適切な病床における治療の機会を奪う結果になっていないか、を示すデータに基づいた指摘です。

下の図7は、①第6波において入院をした「軽症コロナ患者」の年齢別、基礎疾患有無別の内訳を見たものです。自宅や宿泊療養が可能と考えられる「64歳以下の基礎疾患なしコロナ軽症入院患者」が軽症コロナの入院患者全体の実に32%を占めていたことがわかります。これは入院基準の明確化の必要性を示唆しています。また、②重症患者を診るべきユニットに軽症患者の17%が入院していたり、逆に重症患者(人工呼吸器やECMO治療を受けたコロナ患者と定義)の21%が一般病棟に入院していたりするデータが確認されました(図8)。重症患者を一般病床で治療をせざるを得なかったのは、他施設との連携の課題もあったかも知れません(詳しくは渡辺幸子、アキよしかわ「医療崩壊の真実」(2021)を参照)。

図7:年齢階級別・基礎疾患有無別にみる軽症コロナ患者の状況

注:2020年4月~22年2月までの23カ月分のデータが揃った422病院

図8:重症度別・使用病床区分別 コロナ入院患者数と重症度割合

注:2020年4月~22年2月までの23カ月分のデータが揃った422病院
出典:渡辺幸子、アキよしかわ「医療崩壊の真実」(2021)

渡辺は「コロナの次の感染症は10年以内に必ずくると考え、コロナでの教訓を次に生かすべき。そのためには日本全体での病床と医療従事者の集約化が必要で、厚生労働省が掲げる地域医療構想の実現は不可欠」として講演を締めくくりました。