GHCブログ

2014年05月16日

【コラム】機能分化と連携の当然の帰結、在宅看取り支える訪問看護

 5月12日発売の『週刊ダイヤモンド』の巻頭特集「診療報酬改定が迫る医師・看護師の民族大移動」(関連ブログ「【必読情報】週刊ダイヤモンドの医療大特集で、GHCが編集協力しました!」)はご覧になりましたか?

『週刊ダイヤモンド』5/12号の表紙

『週刊ダイヤモンド』5/12号の表紙

 GHCが編集協力(診療報酬改定分析など)させていただいた今回の特集ですが、特に力を入れて協力させていただいたのは、「2025年時点の訪問看護師数シミュレーション」です。今回なぜ、GHCがこのシミュレーションに注力し、有名経済誌に情報提供したのかを、ご説明させていただきます。

「医療従事者のパラダイムシフトもあるのではないか」

 読者のみなさまには耳にタコかもしれませんが、2014年度診療報酬改定のキーワードは、「機能分化と連携」です。つまり、急性期病床を中心とした医療システムから、回復期・療養期病床や在宅との機能分化と連携を前提に、地域全体で医療・介護を支える「地域包括ケアシステム」へのパラダイムシフトの始まりを意味します。

 中でも注目すべきが、今回の改定から急性期病床の要件にも追加された「在宅復帰率」。「医療を病院から在宅にシフトさせる」とのスローガンだけではなく、「本当に在宅に帰れているかをチェックする」との厚生労働省のメッセージが込められていると、今回の改定内容を知って感じた方も多いのではないでしょうか。

 「地域包括ケアシステム」へのパラダイムシフトを目指した今回の診療報酬改定は、急性期病床に集中する患者を分散させる、あるいは患者を在宅に戻すことに着眼点があります。ただ、病床数(患者)の分散はそれを支える医療従事者の分散も意味することであり、そのためダイヤモンド記者の問題意識は「医療従事者のパラダイムシフトもあるのではないか」でした。この視点に、今回の企画の面白みがあり、GHCが協力することで価値ある情報発信につながるのではないかと、わたしたちは感じました。

在宅看取りに足りない日本の訪問看護

 そこで今回、取材対応したGHCの診療報酬改定に明るいコンサルタント、湯原淳平が着目したのは、地域における訪問看護師の普及率と在宅死亡率の相関係数が高いという点と、国際的に見ても日本の在宅死亡率が低いという点。在宅死亡率が約30%と国際的にも高いオランダに対して、日本は12%程度にとどまります。そのため、病床の機能分化と連携を進めて在宅シフトを促すのであれば、看取り環境を整え、日本の在宅死亡率を引き上げる必要があります。そのためには訪問看護体制を充実、地域包括ケアシステムの整備は必須であると情報提供させていただきました。

 本誌では、訪問看護体制を充実させる分かりやすい手段として、例えばオランダ並の在宅死亡率を目指すのであれば、現時点で3万人程度の訪問看護師数が約5.5倍の16万7325人ほど必要になるとのシミュレーションを実施。ただ、10年後には病棟看護師が勤務時間の何割かを訪問看護に充てる働き方が普及するなど、シミュレーションとは異なるシナリオになる可能性は大いにあります。急性期病院の在院日数が短くなると、手術が終わり、ドレーンや点滴が残った状態で退院して在宅で療養することになることも考えられます。また、在宅看取りのためには治療内容を理解している訪問看護師の充実だけでなく、急性期病棟の看護師が訪問看護するなどの新しい仕組みを考える意味は大きいと考えられます。

 現時点で少なくとも言えることは、2014年度診療報酬改定で機能分化と連携により焦点が当てられ、今後もその方向性は維持されると推測されるため、2025年には看護師の現場は大きく変わり、地域に優秀な訪問看護師がどの程度育っているかが重要になってくると推測されます。ヒト・モノ・カネによるサービスの提供体制が大きく音を立てて変わっていきます。

 機能分化と連携の当然の帰結として課題となる在宅看取り、それを支える訪問看護について、自院がかかわるべきかかかわらないべきか、かかわるとしたら、どのようなかかわり方ができるのか――。今回の『週刊ダイヤモンド』を手に取ってみて、そのような病院経営の今後の課題に対するヒントが少しでもあれば幸いです。