GHCブログ

2014年07月03日

【書評】米国で広まる医療ムーブメント、『絶対に受けたくない無駄な医療』

『絶対に受けたくない無駄な医療』

絶対に受けたくない無駄な医療

 「Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー)」という言葉をご存知でしょうか。米国で広まりつつある「無駄な医療撲滅運動」で、先月、これをテーマにした書籍『絶対に受けたくない無駄な医療』(著者:室井一辰、出版:日経BP社)が上梓されました。

 このテーマはGHCが取り組む「医療の価値向上」にも通じるため、先日、「医療費の包括支払い」などをテーマに著者の室井さんに取材していただきました。取材はGHCのアキよしかわとコンサルタントの湯原淳平が受けました。

 今回のエントリーでは『絶対に受けたくない無駄な医療』についてご紹介させてください。

8割の医師をカバーする学会が参加

 本書によると、「Choosing Wisely」は2011年から始まった、米国の医師らで構成する非営利組織の活動です。具体的には、米国の71医学会が「不要」と判断した医療を基本的に5つずつ提示しているもので、該当する医学会に所属する医師の合計は、米国医師の8割に相当する50万人に達します。

 注目される背景には、米国医師の「EBM(根拠に基づく医療)で医療を変えていこう」とする考えと、患者の「必要な医療だけを求めよう」とする思惑の一致があります。医療界を代表する医師らの思惑の背景には、「高水準の医療の普及」「医療の費用対効果の改善」「医療と企業との癒着の解消」などの問題意識があります。患者の思惑の背景には、インターネットやスマートフォンの普及などで、まさに医療を「賢く選びたい(Choosing Wisely)」という需要が急速に高まっていることが挙げられます。

100の無駄な医療をリスト化

 本書はこうした「Choosing Wisely」の背景を解説した上で、100の無駄な医療をリストアップしています。こちらが本書の最大の見所です。

 さらに、米国のこうした動きが日本で根付くための条件についても検証されています。その中で、GHCが得意とするコンサルティングメニューの一つであるDPCについても触れています。今回の取材では、この包括支払いについて、米国のDRG導入の背景や歴史などについて解説させていただきました。

 『絶対に受けたくない無駄な医療』は、7月2日までの時点で「amazon.co.jp」のベストセラーランキングで最高5位を獲得しており、注目を集めている模様です。

よりよい「生きるための医療」の構築

 個人的に本書で最も印象に残ったのは、「生の医学」「死の医学」について触れた「あとがき」の部分です。

 著者は「誤解を恐れずに言うと」と前置きして、獣医学を学んだ経験があることから、「なんとか生かそう」とする人間に対する医療を「生の医学」強い感染症に侵された動物は法律に基づいて殺処分とする人間以外の動物に対する医療を「死の医学」と考えたことがあると打ち明けています。この視点は大変興味深いもので、世の中のルールを決める当事者である人間が人間自身のことを考えると、「インフルエンザにかかったから」と簡単に人間を殺処分することはありえませんが、人間以外の生き物に対しては、簡単とは言えないまでも、感染拡大防止を理由に割り切っている現実があります。

 現代医療は、生き死にを経済合理性などで簡単に割り切れない人間を扱う「生の医学」であるがため、採算度外視でとにかく「生かそう」とします。しかし、この「生の医学」の中には、胃ろうなど終末期医療の問題もあり、一方、本書で何度も指摘しているような「大人の事情」によるどさくさに紛れた「不要な医療」の蔓延もあり、こうした問題が集約された「膨張する医療費」が大きな課題となっています。著者はこうした問題を認識した上で「Choosing Wisely」の活動に目を向けると、「生を大前提とした医療に軸足を置きつつも(中略)よりよい『生きるための医療』の構築につながる運動と感じている」と指摘しています。

 GHCも無駄な医療の見直しによる「医療の価値向上」は、よりよい「生きるための医療」との信念を持って日々、活動しております。本書では、日本でも健康保険組合連合会(健保連)が健康の新しい基準値を提案する動きがあるなど、「Choosing Wisely」の動きが日本でも広まることへの期待感を示しております。日本でも、「Choosing Wisely」のような「医療の価値向上」につながる動きが広まればいいと、願うばかりです。(島田)