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2010年10月22日

大人の感性を持てるか?――高野登氏

高野登氏 人とホスピタリティ研究所 所長●高野登氏


ホテルスクールを卒業後、35年間に渡ってホテルの仕事を極められた高野登さん。ザ・リッツ・カールトン・サンフランシスコ、シドニーなどの開業に携わった後、日本支社を立ち上げ、ザ・リッツ・カールトン大阪、東京の開業をサポート。そうした経験の中で得た気づきをまとめた著書『サービスを超える瞬間』は30万部を超えるベストセラーとなっています。 そんな高野さんに、ホスピタリティを実践するために必要なこと、スタッフを育てるためにトップがすべきことについて、お話をうかがいました。

――ホテルも病院もサービス業といわれますが、高野さんは「ホスピタリティ」という言葉を使われますね。

サービスとホスピタリティは全く異なるものです。たとえるならば、ホスピタリティはパソコンのOSで、サービスはその上に搭載されているアプリケーション。アプリケーションは世の中に無数にあるけれど、どれだけのアプリケーションを搭載し、活用できるかは、基盤であるOSによって決まります。 同じように、サービスとは、仕組みのことで、パッケージ化も計量化も定数化もできる。一方で、ホスピタリティは生き方そのもの。どういう一生を送るのか、という考えであり、それを受け入れ実行に移す“器”。

――サービスではなく、ホスピタリティを提供できるか否かの違いは、どこにあるのでしょうか。

一皮向けて「大人の感性」を持てるかどうか、ですね。 一人で楽しんだり、チームよりも自分の楽しみを優先するのは、「子どもの感性」です。そうではなく、相手に気づかえること、相手について気づけることが大人の感性。特に、相手の良さに気づくこと。悪い部分は誰しも気づきやすいでしょう。子どもたちは、「●●は、××なところがイヤだー」とかって、すぐに言うじゃないですか。相手の素晴らしい部分、努力している部分に気づく感性を持っているか、が大きな違いです。

――高野さんは一ホテルマンから、組織のトップになられたわけですが、ご自身が「大人の感性」を持てるようになった、自己成長されたきっかけは何かありますか。

自分よりもはるかにすごい“エンジン”を持っている人に会ったときでしょうね。今、交流会に出たり、語学留学をしたり、習い事をしたりと、「インプット症候群」といわれる人たちが増えています。当然、得るものもあるでしょうから、悪いことだとは言いませんが、人が一番成長するのは、やはり、「この人、すごい」「こういう人になりたい」という人を目の前にしたときではないでしょうか。 私自身、相手に対する関心力、イメージ力、クリエイティブ力など、「この人のこの部分はすごいな」「この感性はすごい!」という人にたくさん会ってきました。そういう人にどれだけたくさん出会えるかが、その人の成長を左右します。

――ザ・リッツ・カールトン・ホテル時代に、良い先輩、仲間に恵まれたということでしょうか。

お客様や外部業者の方も含めてですね。二言、三言話すだけでも、ぽろっといい言葉をくださるんです。ただ、聞く側も、反応する力、気づく力が必要です。それがまさに、先ほど申したOSなのです。OSが大きくなれば、素敵な人に出会ったとき、素敵な言葉をもらったときに気づくことができますし、それによってさらに自分のOSを大きくすることができます。 また、本を読んで得たことも大きいですね。坂本龍馬もそうですし、こういう人間になりたいという人物に出会うことができますから。

――サービスとホスピタリティの話に通じる部分があるかと思いますが、病院の経営者の方から、「定められた自分たちの仕事以上のことを考え、実行に移すことのできるスタッフを育てたい」ということを共通して耳にします。そうしたスタッフを育てるには、どのようなことが必要でしょうか。

どういう組織をつくりたいか、めざすのかをトップが決めることが先決ですね。どういうところまで組織を持っていくのか、トップが覚悟を決めるということ。 たとえば体を鍛えるにしても、ただ漠然と鍛えたいと思っても何をすればいいのかわからないし、続きません。どういう体にしたいのかという目標を立てて初めて、どんなトレーニングを行えばいいのかが見えてきます。それと同じ。 3年度、5年後に具体的にどういう状態にありたいのか、目標を定めて、トップがサブリーダーたちに熱く語る。そして、組織の弱い部分も含めて、嘘偽りなく表に出すということ。それがスタートですね。

――最後に、ご著書『リッツ・カールトンで育まれたホスピタリティノート』(かんき出版)のなかで、「リングに上がる勇気を持とう!」というメッセージがあります。高野さんは、今、どのようなリングに立っていらっしゃるのでしょうか?

今、私が立っているリングですか(笑)。 地方から全体を見る、ということですね。現在、東京と生まれ故郷の長野を7:3くらいで行ったり来たりする生活をしています。長野で何をしているのかというと、畑を耕したりしているんです。農家の人々など、地域に人々と話をしていると、今までとは違った興味深い話をいろいろと耳にします。 私はこれまでセンターに近いところにいたような気がするんです。たとえば、四角い部屋の真ん中に立っていると、前方120度くらいの範囲しか見えませんよね。でも、部屋の端っこに立っていると、全体が見渡せるわけです。今は、地方から全体を見て楽しむステージかなと思っています。

リッツ・カールトンで育まれたホスピタリティノート 『リッツ・カールトンで育まれたホスピタリティノート』 定価:1,365円(税込) 判型:46判 体裁:並製 頁数:176頁 ISBN:978-4-7612-6687-5 発行日:2010年7月20日

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広報部
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。