事例紹介

2021年11月16日

「公立病院経営強化プラン」対応で経営改善、「データ軸の行動で収益向上」|市立輪島病院

病院名 市立輪島病院 設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方 病床数 199
病院名 市立輪島病院
設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方
病床数 199
コンサルティング期間 2020年~
コンサルティング
  • ・「公立病院経営強化プラン」「中期経営計画」策定支援
  • ・クリニカルパス作成・見直し
  • ・チーム医療向上(加算対策)
  • ・戦略的集患(DPC病院、急性期病院の地域連携)
  • ・病床機能戦略(病床機能分化)

「心の通う医療サービスの提供」を基本理念として、能登北部医療圏の災害拠点、救急医療、へき地医療などさまざまな医療ニーズに対応する市立輪島病院(石川県輪島市、199床)。総務省が自治体病院に義務付ける「公立病院経営強化プラン」の策定に対応することで、大きく経営を改善させています

「公立病院経営強化プラン」の策定は「義務」であるため、「プラン策定」という形式的な対応をする病院も散見されます。一方、市立輪島病院はプラン策定と同時に、入院単価の向上など目に見えて経営を改善。医療現場の実際のアクションにまで落とし込んだデータ分析を行ったためです。「データに基づいて行動すれば病院の収益は上がる」と語る河崎事務長(写真左)と事務部の林主幹兼経理係長に伺いました(聞き手はGHCアソシエイトマネジャーの岩瀬英一郎)。

河崎事務長(左)と事務部の林主幹兼経理係長
河崎事務長(左)と事務部の林主幹兼経理係長


ウェブでも対面と遜色ない議論を実現

――当社のコンサルティングをご利用されるきっかけと経緯について教えて下さい。

林:コロナの影響で未だに見通しが立っていませんが、2021年度からの「第4次改革プラン」を作成する必要があります。2020年当時、担当になったばかりの私は「自前でできるものではないだろう」と考え、コンサルタントを入れる可能性も視野に検討を進めていました。

林主幹兼経理係長
林主幹兼経理係長

自前が難しいと考えたのは、医療の専門的な知識を問われる部分が多いからです。改革プランの中にある財政計画などの部分は、私自身でも作成経験はあります。ただ、医療の専門的な知識は全く分かりませんし、一から勉強するには時間的な余裕もありません。そのため、医療系のコンサルティング会社にお願いしたいという思いがありました。

ただ、全く当てもない状況だったので、とりあえずインターネットで調べた何社かの会社にコンタクトを取りました。その中の一社が、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンだったという経緯です。

事務長:改革プランの作成は外部の第三者にお願いした方がいいという経験も大きく影響しました。

河崎事務長
河崎事務長

第1次、第2次の改革プランは行政だけで作りました。ただ、収集したデータの信ぴょう性の高さという点においては、初めて外部を活用した第3次と比較すると大きな差がありました。特に、第3次で収集したデータについては、病院の幹部が今まで以上に注目し始めて、「改革」に向けての意識変革が芽生えてきたという印象です。

そのため、やはり第4次も外部を入れることについてはむしろ賛成という空気が院内にはありました。

――第3次と当社が担当した第4次の改革プランを比較すると、どのような印象を受けますか

事務長:今回のように第3次は最初からたずさわっていたわけではないのですが、やはり担当の岩瀬さんが懇切丁寧に対応していただけたことがありがたかったです。

今回はコロナ禍ということで、基本はウェブでのコンサルティングになりましたが、それでも院内のさまざまな職種の方々と対面と比較して遜色ないレベルでしっかりと議論していただけました。加算算定の最適化など診療報酬のルールに基づいた具体的な指示出しまでしていただけたことは、目の前の経営改善という側面でも非常に大きい成果だったと思っています。

外部環境調査の例

また、スケジュールに落とし込んだ行動計画について、継続的に管理いただけたことも助かりました。さらに改革プランの中身についても、非常に見やすく分かりやすい形にまで噛み砕いた資料や図表(イメージは上記図表)へ落とし込んでいただいたことも、第3次とはかなり大きく変わった点だと思います。

林:正直、ウェブ経由で直接対面しない会話は苦手ですし、残念だなという思いはありました。しかし、非常に丁寧にピンポイントで収益が上がるような提案をしていただいたことが最も大きな違いかと思っています。また、当院の近隣病院や全国の同規模病院との比較を、データで視覚的に提示してくれたのは、とても分かりやすかったです。私たち自身でそれを院内に説明するにしてもやりやすいなと感じました。

一般病床の平均単価5000円アップ

――ありがとうございます。経営改善活動の中でも特に印象に残っているエピソードなどありますか。

事務長:やはり、継続的に尻叩きをしてくれたところが大きいですね。たった一回のヒアリングで信頼関係を構築するのは難しいと思いますが、一回のヒアリングに終わらず継続的に尻叩きをしていただけたおかげで、院内の各部門との信頼関係はもちろん、自分たちがどの方向に向かっていけば良いのか、おおよその道筋が立てられましたのではないでしょうか。

当院では毎年、9月から10月にかけて、各診療科の責任者のドクターや医療専門職の管理職員などにさまざまなことを院長と私がヒアリングする機会があります。その中で、岩瀬さんが作成してくれた資料に基づいて、「今後はこうしていきたい」と各部門が具体的な方向性に取り組んでいくことを明確に示せたところは、院長とともに特に評価しているエピソードの一つです。医療従事者、特にドクターには根拠を持って説明しないと分かっていただけない部分がありますので。

こうして各部門とコミュニケーションを取りながら作成した改革プランからさまざまな課題が洗い出され、これに基づいて今年度も継続してコンサルティングをお願いしています。

林:収益的に一番インパクトがあったのは加算算定の最適化だと思っております。昨年と比較すると、加算の算定率は大きく上がっています。

事務長:一般病床の平均単価も5000円くらい上がっています。当院へ入職6年目でこれだけの単価増は初めてのことで驚いています。

経営改善提案項目

目下の課題は病床戦略の具体的な内容

――着実に目に見える成果となっているようで良かったです。今後の課題などについてはいかがでしょうか。

事務長:ここまでの取り組みで、「データに基づいて行動すれば、病院の収益は上がる」ということが、院内全体に知れ渡ったのではないでしょうか。そのことは事務方も含めて、非常に大きな気付きになったと思っています。

短期的には、今後の病床戦略の中身をどう具体化していくかというところが課題です。

当院は2023年度からダウンサイジングして療養病棟から地域包括ケア病棟へ機能変更する計画です。そのための根回し、石川県も巻き込んだ市本体と議会とのやり取りは概ね終わっています。あとは、ゴールに向けて病床数も含めた具体的な中身です。

市立輪島病院の外観
市立輪島病院の外観

少なくとも、病床数は年度内に決めておかなければならない。それを決めるには、新たな病棟で働く看護師の確保も重要です。そこをきっちりと現実的な計画に落とし込むことが、院長や私はじめ、病院幹部のまずクリアすべき重点課題であると考えています。

林:コロナ禍も補助金のおかげで全国の病院は軒並み黒字ですが、この状況がいつまで続くかは分かりません。実際の患者数については、外来も入院もかなり減っているので、何も手を打たなければこの先、経営的に難しい状況になると考えています。

また、当院は病院建設から20年以上が経過していますが、これまで大きな改修をしていませんでした。そのため、近く大規模改修が必要と考えています。そうしたことを現場の医療に影響しないように進めなければならないので、そのための財源確保も含めて、今後、どのように進めていくべきかは大きな課題になると思っています。

改善活動の原動力は信頼関係

――最後に経営改善活動を通じて感じるやりがいなどあれば教えていただけますか。

事務長:当院に配属されてから最初の3年間は、診療報酬の返還をなくすことに苦心していました。最初の1年目は何も分からず、大きな損失が出ました。過去にはその時の倍以上の損失もあったとのことでしたので、この状況は何とか食い止めたいと思ったんです。それで施設基準の数字の管理を徹底的に行ったことで、その翌年、翌々年と返還による損失は当院始まって以来の大幅減になりました。現場の医療従事者たちの頑張りを、このような形でサポートできたことは一つのやりがいにつながりました。

3年前に事務長になってからは、必要な医師の確保がいつも大きな課題です。院長と一緒になって、長い時間をかけて大学病院の教授との関係を作り、必要な医師を獲得できたときは、自治体病院としてたくさんある経営目標のうちの一つを達成できたという達成感を得られました。

それとやりがいとは少し違うかもしれませんが、毎日、朝8時15分ぐらいから必ず院長(写真右)と2人でミーティングをしています。最初は行ってなかったのですが、始めてからもう3年くらい経つでしょうか。5分で終わるときもありますが、長いときは1時間近くになることもあります。経営のことはもちろん、そうではないことも含めて談笑も交えて言葉を交わすことで、徐々に信頼関係を深めてきているのではないかと感じています。

品川院長(右)と河崎事務長
品川院長(右)と河崎事務長

林:事務長とやり方は違いますが、やはり信頼関係というのは大切にしています。私はよく院内を回って、さまざまな職種の職員の話を聞くように心掛けています。各部門のお悩みや仕事の愚痴などを聞いたりして、そういうところから距離を縮めて、現在はコロナの影響でなかなかできませんが、食事や飲み会などを通じながら信頼関係を作っていっています。こうして作った関係があってこその立ち回りができたときは、やはり嬉しいです。

――信頼関係あっての経営改善ですからね。本日はありがとうございました。

岩瀬 英一郎(いわせ・えいいちろう)
eiwase株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。病床戦略、財務分析、地域連携支援などを得意とし、全国の医療機関で複数の経営改善プロジェクトに従事する。入退院支援センター開設支援(PFM:Patient Flow Management)のプロジェクトではリーダーを務める。主な執筆記事『退院支援の要はスクリーニング後の「後追い」、注目の上都賀総合病院PFMセンターのキーマンに聞く