事例紹介

2019年02月19日

【病院事例】地域を巻き込む「全員参加型」改革で20億円増収、静岡済生会総合病院の大改革|静岡済生会総合病院

病院名 静岡済生会総合病院 設立母体 公的病院
エリア 東海地方 病床数 521
病院名 静岡済生会総合病院
設立母体 公的病院
エリア 東海地方
病床数 521
コンサルティング期間 3年間
コンサルティング
  • ・集患・地域連携
  • ・診療科パスアセスメント
  • ・病床管理(ベッドコントロール)
  • ・医療・看護必要度の重症度割合適正化
  • ・診療科パスアセスメント

 静岡県静岡市駿河区で唯一の総合病院である静岡済生会総合病院(521床)が、ここ数年で大幅な経営改善を果たしています。設備増強を行った上で、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)マネジャーの森本陽介の支援のもと、経営戦略の大改革を推進したことで、改革前と比較した増収効果は約20億円。劇的な改善をもたらした背景には、周囲の医療機関や行政機関、地域住民をも巻き込む「全員参加型」の経営方針がありました(写真は右下から時計周りで杉原孝幸事務部長、石山純三病院長、牛之濱千穗子看護部長、GHC森本、岡本好史副院長、武林悟副院長、榛葉俊一副院長、小林亨二事務次長)。

 静岡市には、「静岡市静岡医師会」と「静岡市清水医師会」があります。静岡済生会総合病院は静岡医師会が管轄する駿河区にあり、これまでも静岡医師会との会合には病院から多数の医師が参加して、地域の医師と「顔が見える」関係を築いてきました。

 2018年5月から7月にかけ岡本副院長(外科)は地域のクリニックなど多数の医療機関を訪問し、静岡済生会総合病院が打ち出す診療コンセプトを地域の医師に説明しました。その後、地域医療担当の職員が定期的に情報を届けに訪れています。

 このような取り組みもあり、外科への新規紹介件数は従来の2倍以上に増加しています。

地域交流会に医師28人参加

 「済生会の先生たちがこんなにたくさん」

 訪問は駿河区だけではなく、駿河区の北方向に隣接する葵区(静岡医師会の管轄)や、東方向に隣接する清水区(清水医師会の管轄)の医療機関にも範囲を拡げ、その中で清水医師会の医師から静岡済生会総合病院の医師と清水医師会の交流を兼ねた勉強会開催の提案がありました。

 そして、清水医師会が中心となり2018年11月7日に「地域連携学術講演会in清水」が開催されました。静岡済生会総合病院から総勢28人の医師が参加したことに、清水医師会の医師たちは驚きを隠せませんでした。 医療需要が供給を上回る清水区を担当する医師たちにとって、隣接する駿河区にある唯一の総合病院から、これだけの数の医師たちが参加したことは、大きな意味を持ちます。

 講演会後の懇親会では、清水医師会の担当医師の計らいにより、病院医師一人ひとりの自己紹介の場も設けられました。静岡済生会総合病院で地域連携を担当する岡本副院長は「清水医師会の先生方には、各科とそこに属する先生たちを十分知ってもらえたのではないか」と手応えを感じています。

岡本副院長

 挨拶周りで地域との関係をあたためた上で、医師たち同士の交流会でさらに強固な信頼関係を構築する――。今後、地域連携のさらなる成果が期待できそうです。

 住民向けの広報活動も軌道に乗りつつあります。10月6日に同院が主催した市民公開講座「女性による 女性のための がん講習会」。定員100人の同院北館地下講堂に地域住民たちが続々と集まり、またたく間に満員御礼になりました。同院は定期的にこうした100人規模の市民講座を開催。済生会の健康情報に頼る住民たちは着実に増え続けており、いずれも好評を博しています。

市民公開講座の様子

 地域の医療機関や住民を巻き込んで展開される静岡済生会総合病院の地域連携と広報活動。この推進力となるキーワードについて、石山純三病院長は「参加型」と説明します。

経営のあり方問い直す経営改善委員会と五役会議

 静岡済生会総合病院は、2014年の石山病院長就任後、急激に収益が改善しています。2015年から2017年にかけての増収効果は、20億円を超えています。

 2016年5月に救命救急センターや手術センターを備えた東館がオープン。救急車の受け入れ台数、救命救急センターの受診患者数がいずれも約2割増加しています。休診していた呼吸器内科の再開も収益改善に大きく寄与しています。

 石山病院長はハード面の改革の完了と共に、GHCの森本の支援のもと、ソフト面の改革も矢継ぎ早に打ち出していきました。

 石山病院長がまずテコ入れしたのは、主要な経営会議の見直しです。これまで、月2回実施の最高意思決定機関である「管理運営会議」に、石山病院長は疑問を抱いていました。経営幹部だけが集まり、現場をどう動かすかという議論だけでは、実効性の限界を感じていたためです。そこで打ち出したのが、現場参加型の会議です。

 月2回の「管理運営会議」を月1回とし、新たに月1回「経営改善委員会」を行うこととし、この参加者の対象は各部署の代表者にまで拡充。各診療科や部門ごとに課題を見つけ出し、現場から改善案を発表する形式にしました。こうして 現場が主体的に「どうすれば経営改善に貢献できるのか」を考えることで、実効性のある提案を引き出すとともに、「各部署の代表者が病院全体のことを考える仕組みにすることで、 経営改善の取り組みが院内に広まり、改善の風土を釀成させる」(石山病院長)ことを目指しました。

改善風土を釀成する取り組み続々

 院内の意識改革を促す体制に改めるとともに、小林亨二事務次長が中心となって地域連携やメディア広報戦略の立案、患者受け入れフローの整備、業務整理などを推進しました。

 これまでも静岡済生会総合病院は「企画広報室」が積極的な広報を展開していましたが、病院の方向性と広報内容の連動性を強化しました。

 新たに、地域包括ケア病棟を50床整備することで、急性期病床の在院日数短縮や重症患者割合を改善。入院支援センターの運用体制を見直すことで、効率的な入院医療も推進してきました。これら施策により在院日数を短縮するとともに、新入院患者数も増やすという理想的な入院医療へと前進していきました。

 看護部の意識改革も進みました。これまで、静岡済生会総合病院の看護の質に対する評価は高かったものの、スタッフは経営改善のために自分たちが何に取り組んでいくべきかわからないという課題がありま した。看護部長に就任した際、「100円でもいいから、より多くの利益を確保できる看護部にしたい」と決意していた牛之濱千穗子看護部長は、GHC森本のアドバイスも踏まえて、 看護部門の改革に乗り出しました。

牛之濱看護部長

 空床がなく、急患を受け入れられないボトルネックになっていた退院調整については、 入院後3日以内のスクリーニングを徹底。65歳以上の患者で7割算定を徹底することで、空床問題の解消に向けて前進しています。これにより、退院支援加算1の算定率のベンチ マーク結果は、全国トップクラスを誇ります。さらには地域にも足を運び、看護師出身のケアマネジャーとの「看看連携」を構築するいわば「看護師による営業活動」を推進することで、さらなる退院調整の強化に向けて動き出しています。

 入院支援センターの運用も見直し。全診療科の予定入院について、外来時のスクリーニングを徹底することで、予定手術の適切なベッドコントロールが可能になり、期間II超の 症例が大幅に減少しました。

 地域包括ケア病棟については、担当する武林副院長の協力もあり、医師の理解も進んでスムーズな転棟が浸透。これに伴い、一時期は25%を割り込むこともあった重症患者割合が、30%を突破する状況になっています。

地域に住む職員が主体となって情報発信

 診療部門と看護部門の改善が進む中、事務部門も大きく変化していきます。

 静岡県静岡市清水区の有度地区が主催する医師講演会と防災講座。ここに静岡済生会総合病院の医師と看護師が招かれて講演し、それぞれ約70人の地域住民が参加しました。実はこの講演会と講座、有度地区に在住する地域連携室の梅田智之氏が白分の町内で企画した案件です。今後はこのような機会を、市内の他の地区でも作っていこうとしています。

 同院の地域連携室と企画広報室、医事課は今、地域のあらゆる場所に入り込んで、情報発信の機会を見つけては新しい提案をしています。周辺の各地区の地域包括支援センター、生涯学習センター、町内会、大学や専門学校など、あらゆる場所に顔を出しては、住民の声に耳を傾けています。病院のうごきがよくわかると評判の広報誌 「home」は年4回発行し、院内だけではなく、上記のような場所にも求めに応じて配布しています。

 メディアも積極的に活用。静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」では、毎月のように医師が出演し、健康情報を解説しています。行事の都度、『静岡新聞』への取材依頼や、地域のフリーペーパー『リビング静岡』には当院の特徴的な取り組みを記事として掲載してもらうなど、地域のメディアリソースの中に入り込んでいます。同院では、GHC森本のアドバイスを受けて、ブランディング戦略の核として治し、支える「トータルケア」 を打ち出しています。

 9月からは、静岡市のポイント制度「元気静岡マイレージ」を導入。健康づくりや健診、ボランティア活動などを通じてポイントをため、各種特典と交換できるというものです。 静岡済生会総合病院は、市主催行事以外では2番目の導入事例であり、職員のアンテナの高さを物語っています。

 2018年6月に創立70周年を迎えた静岡済生会総合病院。先行して2月に北野大さんを迎えた「70周年記念健康講座&トークショー」第1弾を開催し、6月は同院の済生会フェアの日に「サンプラザ中野くん」さん、9月は羽田美智子さん、2019年3月には赤井英和さんがゲス卜として参加する予定です(詳細はこちら)。

 ハード面とソフト面の両輪による経営改革で、大幅な経営改善を果たし、非常に良い形で再スタートを切った石山病院長が次に目指すものは何か――。病院大再編時代の今、状況が刻々と変化する中においては、中長期的な戦略は流動的にならざるを得ませんが、カギを握るのは、参加型経営が促す職員の当事者意識であることに、変わりはなさそうです。

【院長インタビュー】「全員が経営の当事者」の意識で病院は変わる

 院内の意識改革を指揮し、大幅な経営改善に導いた石山院長にお話を伺いました。

――救命救急センターを新設したハード面、経営戦略を一新したソフト面のいずれでも、 院長就任から大胆なトップマネジメントを断行されてきました。特に後者のソフト面についてお聞きしたいのですが、なぜ主要な経営会議のあり方を見直したのでしょうか。

 「このままでは立ち行かなくなる」と危機感を抱いたことがきっかけです。

石山院長

 院長就任当時、収益の伸びが芳しくない一方で、费用も増大していました。こうした状況でまず、何を具体的に改善するのかを考えた結果、導き出されたのは「院内の全員に『経営改善が必要』と感じてもらうことが最優先」ということでした。

 上からの命令だけでは、現場は動きません。トップダウンで何かを変えることには、必ず限界があります。ですから、各診療科や部門ごとに課題を見つけ出し、主体的に改善していけるようになることが欠かせません。キーワードは、「参加型」です。

 これまで月2回だった管理運営会議の1回を、経営改善委員会に改めました。そこでは参加者の対象を各部署の代表者にまで拡げ、各部署が「どうすれば経営改善に貢献できるのか」を発表してもらう形式にしました。各部署の代表者が病院全体のことを考える仕組みにすることで、経営改善の取り組みが院内に広まり、改善の風土を釀成させることが狙いです。

 発表内容は必ず数字で示し、改善の結果がどうなったかを報告することを徹底させています。これにより、うまくいかなければ、なぜうまくいかなかったのかを探り、自ら改善していくということができるようになります。参加者は開始当初こそ苦労して発表していましたが、2巡目に入った頃には、自らの取り組みがどういう結果に結びついたのかが明確になり、その結果をベースに次の展開を考えるという、一段上のレベルを目指せるようになってきました。

――経営会議でもう一つ特徴的なのが、院長、副院長、看護部長、事務部長、事務次長が参加する「五役会議」です。経営幹部が週に3回集まって情報共有するという頻度は、あまり聞いたことがありません。

 非公式の会議ですが、院長の決定を補佐する場として機能しています。よく「週3回は多すぎる」と言われます(笑)。ただ、これにより問題の対処が早くなり、情報共有の遅れもほとんどなくなるというメリットがあります。事務部長から直近の患者数や稼働額などの経営指標や新たな問題が報告され、その後院内外のあらゆる課題を討議し、私から対応の指示を出します。

 電子カルテの画面にも、常に入院患者数などの主要経営指標を出しています。私自身も毎日、主要経営指標を確認し、それを頭に入れた上での指示を出したり、行動したりすることが刷り込まれています。経営者として必要な情報を把握し、それを日々更新し続けることは欠かせません。

――経営幹部層の密なコミュニケーションと、現状をしっかりと数字で示し、共有していることは、大幅な経営改善の重要な要素だったと思います。病院広報にも注力されています。地域を巻き込むスタイルの広報も非常にユニークな取り組みだと感じています。

 広報の強化はずっと前からやらないといけないと思っていました。院長があいさつだけするのと、現場の診療科の医師や看護師がアピールすべきポイントを伝えるのとでは、全く意味が違います。

 地域連携室の頑張りで地域のコミュニティに入り込み、そこへ岡本先生が中心になり、医師や看護師を講師として派遣する流れが定着しつつあります。これは集患対策に効果がありますし、「済生会は病院の外にも出てくる」というブランディングにもつながります。

――広報活動では「がんトータルケア」というキャッチコピーも打ち出しています。周囲の反応は変わってきましたか。

 最近になって、周囲から「済生会はがんに対して積極的なアピールをしている」という声が届くようになりました。メディアを介しての情報発信強化が受け入れられているという感触もあります。

――最後に今後の抱負を教えてください。

 ここ最近、管理部門の職員は非常によく頑張っていると感じています。単に与えられた仕事をしているだけではなく、「自分自身がどうすればいいのか」と主体的な動きが増えているからです。看護部門も、特に看護部長は「病院全体の利益」をいつも考えて行動し、部内にそのことを広めてくれています。

 こうした改善風土をさらに醸成させていくことに加えて、「いかに現戦力でできることをすべきか」ということをさらに研ぎ澄ませていきたい。そのためには、得意分野を伸ばし、弱点を補うということに尽きます。一つひとつの論点ごとに、細かく戦略を個別に立てて、少しずつ調整していくしかないでしょう。

 当院の良さは、「スタッフの優しさ」だと自負しています。特に、「看護師が優しい」ということは、周辺のいくつかの病院に入院した患者のほぼ共通のイメージです。「がんトータルケア」を構成する「治す」と「支える」のうち、特に「支える」の部分にあたる人間性やあたたかさを、当院のさらなるアピールポイントにしていければと考えています。

――本日はありがとうございました。