病院経営コラム

2025年05月09日

財務省「入院患者の室料等を患者負担に」、地域別診療報酬は診療所過剰地域で単価減算


グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の病院経営コンサルタントが、注目のニュースをピックアップします。病院の厳しい経営環境が続く中、財務省が入院基本料における室料や光熱水費を患者の自己負担とする案を示しました。従前からの医師偏在解消に向けた提言の一つである「地域別診療報酬」については、診療所が過剰にある地域の診療単価を引き下げる案も提示しています。

患者数はコロナ禍前に戻っていない

病院経営が危機的な状況にあります【1】。健康保険組合連合会(健保連)の発表によると、2025年2月の医療費総額は2020年2月と比べて9.0%増の4,286億6,080万円で、新型コロナウイルス感染拡大期の「コロナ禍」前に戻っているようにも映ります【2】。ただ、入院日数(図表1)で見ると、医科入院日数は約12.5%減、医科入院外日数も約4.5%減となっており、まだまだ患者はコロナ禍前に戻っているとは言い難いのが現状です。

健保組合医療費(医療保険医療費)最近の動向【令和7年2月診療分】
健保組合医療費(医療保険医療費)最近の動向【令和7年2月診療分】」(健康保険組合連合会)の情報を元に当社作成

【参考記事】
【1】「病院経営の窮状、病院への経営支援の必要性」を国民や国会議員に十分に理解してもらう必要があり、5月中旬に提言公表—日病・相澤会長(2025年4月30日、GemMed)
【2】2025年2月、健保組合加入者に限れば、コロナ流行の影響が小さかった2020年2月と比べて医療費は9.0%の増加—健保連(2025年5月5日、GemMed)


光熱水費・室料は保険給付から除外し、自己負担

こうした中、財務省は入院料の室料を患者負担とする提案を行いました【3】。医療機関の入院患者に係る光熱水費・室料について、介護保険制度も参考にしつつ、患者の負担能力に応じた形で「保険給付から除外し、自己負担」とする方向性を示しています(図表2)。

持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)

【参考記事】
【3】社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審(2025年4月25日、GemMed)


2000年度の診療報酬改定で入院基本料が設けられて以降、このうちの室料は据え置きのままでした。入院基本料の調整は、看護師等の人数に応じた評価である「看護料」で経営環境の変化に対応してきた経緯があります。ただ、目下の厳しい経営環境の中、もはや室料負担は病院の経営努力だけでは成り立たなくなりつつあります。今回の財務省の提案を受けて、どのような議論に発展していくかは注視する必要があるでしょう。

「病院で長く働く」ための議論を

また、財務省が従前から提案する「地域別診療報酬」の議論の行方にも注目です。地域別診療報酬は、医師偏在に対する提案として出てきたものです。一方、今回の財務省資料では、病院のみを経営する医療法人の利益率2.1%、全産業平均利益率3.6%と比較して、無床診療所の利益率が8.6%と高い水準であることを問題視【4】。その上で、診療所が過剰にある地域の診療単価を引き下げる提案をしています(図表3)。

持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)

勤務医から開業医へのシフト傾向は、勤務医不足の要因の一つとして問題視されてきました【5】。財務省が提案する「地域別診療報酬」の議論の行方も気になりますが、「病院で長く働く」という視点において、現状の病院勤務における不満解消、勤務医のキャリアップをより魅力的にするなどの議論が、国を巻き込んで今以上に盛り上がることにも期待しています。

【参考記事】
【4】診療所に照準、財務省「無床の利益率8.6%」、めりはりある診療報酬改定求める(2025年4月23日、CBnewsマネジメント ※会員限定記事)
【5】「病院勤務医から開業医にシフトしない診療報酬体系」など主張、財務省(2025年4月24日、m3.com ※会員限定記事)



湯原 淳平 (ゆはら・じゅんぺい)

コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、GHC入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。日本経済新聞や週刊ダイヤモンドなどメディアの取材協力も多数。総務省 経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー。