コンサルに聞く(GHCコラム)

2021年02月12日

成果報酬の時代に向けて「医療の絶対権力者は医師」はもうやめよう―鈴木康裕・前厚生労働省医務技監(下)

前厚生労働省の「コロナ対策司令官」が語る医療崩壊の真実。新型コロナウイルスが暴いた医療提供体制の課題について、今後は治療成績(アウトカム)に基づく成果報酬での診療報酬が必要と指摘する。そのカギを握るのは、「医療の絶対権力者は医師」との認識との決別だ(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン社長の渡辺さちこ)。

なぜ情報公開で地域格差

――医療提供体制の役割分担について伺いましたが、その見直しは地域医療構想の調整会議が主な役割を担っています。一方、「総論賛成、各論反対」で議論が前に進んでいません。

鈴木氏
鈴木氏

医療には「待てる医療」と「待てない医療」があります。予定手術で対応する待てる医療は、例えば各県庁所在地などにあればいいかもしれません。ただ、産科や救急などの待てない医療は、すぐにアクセスが可能な一定の間隔で医療機関が必要です。待てない医療が、現状の仕組みだけではペイできないのであれば、設立母体を問わずその果たした機能に応じて、しっかりと公的資金を充てるような新たな仕組みが必要になるでしょう。

――情報公開についてはどうでしょうか。例えば、東京と大阪ではコロナ患者の状況についての情報公開のレベルや仕組み、医療機関がその情報を活用する上での使い勝手に大きな差があると聞いています。

そうした中、2020年1月からコロナ対策がメインの仕事になり、8月に退任するまで、怒涛の7か月間が始まりました。

今回のコロナ禍においては当初、コロナ患者の受け入れ有無を一般公開してしまうと、受け入れを公表した病院に患者が集中してしまうなどの理由から、情報公開には消極的だったということはあると思います。

ただ、第3波のような医療逼迫と呼ばれる中で、目一杯コロナ患者を受け入れて青息吐息の病院がある一方、まだ余力がある病院があるというような状況では、不公平感があります。少なくとも医療機関の間においては、情報公開は必要でしょう。

都道府県の違いも大きいと思います。例えば、大阪府と大阪市の首長は、同じ政党ということもあり、比較的連携はしやすいでしょう。ただ、東京都は都と23区の関係という問題があります。特別区の23区の権限は政令指定都市とほぼ同じで、都道府県と同列と言えます。そのため区で発生した患者は区で基本的には責任を持つのですが、緊急時における情報公開は東京都であるという、組織の仕組みという課題があるかもしれません。

後方連携に慢性期病院の活用を

――「コロナ患者を受け入れたくない」など後方連携がうまく進んでいないという課題も指摘されています。

一つはPCR検査が完全ではないという問題があるでしょう。ただ、それではいつまで経っても退院先が見つからず、入院が必要な患者を受け入れられないということにもつながるので、連携の仕組みを行政が後押しするべきです。

もう一つは、陰性ではないが症状がかなり治まっている患者は、慢性期病院でも対応できます。急性期病院にいるこうした患者は慢性期病院も含めて連携して転院を促し、急性期病院が中等症以上の患者をもっと受け入れられるような仕組みを地域全体で考えていくべきでしょう。

――今後のコロナ禍ではワクチン接種に関心が移ります。どう見ていますか。

デリバリーと接種管理の2つのフェーズがあり、後者は課題が山積みだと見ています。

高齢者は生年月日が分かりますが、血圧や糖尿病の症状をどこで区切るのかなど「基礎疾患を持っている人」の判断は難しい。ワクチンは2回接種ですが、ワクチンごとに2回目接種までの間隔が異なります。初めて使うワクチンなので、誰にアナフィラキシーショックが出る可能性があるかも十分には分かっていません。おそらく全国の自治体は、この接種事業に今年の前半のほとんどの時間を割かなければならないでしょう。

ただ、これを進めないと季節性インフルエンザの致死率に近づけることは難しいので、接種証明書をもらったら、何らかのイベントに行けたり、外食できる時間を延ばしたりなどのインセンティブを付与するようなことを考えてもいいかもしれません。

真のチーム医療を目指して

新型コロナ感染拡大が過去最高を更新し続け、病床逼迫が指摘される一方、欧米と比べて桁違いに感染者数が少なく、桁違いに急性期病床が多い日本でなぜ病床逼迫なのか――。その疑問に切り込んだ著者の新刊『医療崩壊の真実』(エムディエヌコーポレーション刊)

――今後のキャリアプランについて教えて下さい。

(1)AIなど異分野の技術を医療に活用した新技術の導入(2)さまざまな職種とチームで医療をするための人作り(3)国際的な見地での医療の発展――の3つをテーマに活動していこうと考えています。

新技術の導入については例えば、AIで何かをしようと考えている企業の悩みは、規制との関係です。常に新しいデータをインプットして改善し続ける技術がAIの特徴ですが、医薬品や医療機器の承認は、申請時の有効性や安全性で承認されたら、原則的にその後の変更を認めないという決まりになっています。そのことは、AIの特徴である「常に改善」を止めることを意味します。

そのため、申請時に有効性や安全性が申請時よりも下回ることはないというアルゴリズムも含めて承認を得る必要があります。こうしたポイントを押さえた上で、企業と一緒にアカデミックに新技術の導入を検討していきたいと考えています。

人作りにおいては、日本の医療は医師の権限が強すぎて、医療経営も医療の中身も、医師がいないと回らないという問題意識が前提にあります。医師法の中では医師が絶対権力者ではありますが、医師も万能ではないので、他の職種も含めてもう少しお互いを助け合える関係が必要だと考えています。

また,現在、診療報酬が行為ベースで支払われていますが、必ずしも質を担保するものではありません。もう少しアウトカムべースの支払いを増やせないでしょうか。例えば、糖尿病であればヘモグロビンA1cを3か月間でこのレベルで抑えられれば、成果報酬でいくら支払うというような仕組みを用意し、やり方も問いません。そうすれば、医師との間に保健師や栄養士、薬剤師としっかりと連携したチーム医療も進みやすくなり、治療成績も上がるのではないかと考えています。

最後の国際的見地では、日本のワクチン懐疑派の影響を懸念しています。子宮頸がんについては、積極的勧奨の中止が影響してワクチン接種率が激減し、5、10年後は子宮頸がんでの死亡者が、先進国で最も増える可能性を危惧しています。こういうことが起こらない仕組みを国際的に考えていきたいと思っています。

もう一つ、医薬品や医療機器産業は、これからの日本の産業を大きく支える柱の一つになると考えています。日本国内のことだけに目を向けるのではなく、アジアという視点で人づくりや承認審査の仕組みづくりをやっていきたいのです。

――最後に当社顧問としての期待をお願いします。

渡辺さんと知り合い、約10年間、この会社を見てきましたが、「医療の価値向上」を掲げた素晴らしい取り組みをされており、尊敬もしています。一民間企業にそこまで望むのもどうかと思いますが、全国の医療機関に発信している情報を、引き続き国にも政策面で提言していって、正直者や志高い人が得をするような仕組み作りに貢献してもらいたい。私もその一助ができれば幸いです。

――本日はありがとうございました。

鈴木氏と渡辺
鈴木氏と渡辺

連載◆識者が語る「医療崩壊の真実」(2)―鈴木康裕・前厚生労働省医務技監
(上)「若者に声、届かなかった」 元厚労省コロナ対策司令官、怒涛の7か月
(下)「成果報酬の時代に向けて「医療の絶対権力者は医師」はもうやめよう

渡辺 幸子(わたなべ・さちこ)

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの代表取締役社長。慶應義塾大学経済学部卒業。米国ミシガン大学で医療経営学、応用経済学の修士号を取得。帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社コンサルティング事業部などを経て、2003年より米国グローバルヘルスコンサルティングのパートナーに就任。2004年3月、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン設立。これまで、全国800病院以上の経営指標となるデータの分析を行っている。近著に『医療崩壊の真実』(エムディーエムコーポレーション)など。