お知らせ

2023.10.02

治療効果高い「分子標的薬」、概ね利用浸透も病院間でバラツキ、GHCとA4LCが共同セミナー開催

※2023年10月4日更新

グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)および肺がんの患者団体である一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサー(A4LC=代表:長谷川一男)は9月29日、従来の抗がん剤よりも治療効果が高い傾向にある「分子標的薬」について、薬剤の使用に必要な検査の実態をテーマにしたセミナーを開催。検査の実態をデータ分析した結果をまとめた白書(詳細はこちら)を解説した上で、専門家を交えたパネルディスカッションを行いました。「分子標的薬」の使用に必要な検査は「概ね浸透している」と言える一方、病院間で検査内容にバラツキがあるなど課題があることも分かりました。

パネルディスカッションの様子(左から神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科医長の池田慧氏、近畿大学病院がんセンター長の中川和彦氏、A4LC代表の長谷川氏、GHCアソシエイトマネジャーの榎本有祐)

パネルディスカッションの様子(左から神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科医長の池田慧氏、近畿大学病院がんセンター長の中川和彦氏、A4LC代表の長谷川氏、GHCアソシエイトマネジャーの榎本有祐)

セミナー名称は「非小細胞肺癌患者におけるドライバー遺伝子検査実態調査、全国200病院のDPCデータ予備的解析結果~もしも効果のある治療の可能性を知らずにいたら。肺がんの遺伝子検査の実態調査からみえてきた課題~」。製薬企業やマスコミを対象に開催したもので、都内の会場とオンライン配信のハイブリット型で実施。184人が参加しました。

セミナーのテーマである分子標的薬は、がんの原因となる遺伝子変異(ドライバー遺伝子)に直接作用する薬剤です。非小細胞肺がんは、9種類のドライバー遺伝子と、これらに対応する18の薬剤の保険適用が承認されています。分子標的薬は従来の殺細胞性の抗がん剤と比して、効果も高い傾向にあります。ただ、これら薬剤を使用するためには「コンパニオン診断検査」にて、対応したドライバー遺伝子変異の検出が不可欠となります。

コンパニオン診断検査は、数年前までは1種類の遺伝子しか検査できなかったのですが、この2年間ほどで1回の検査で複数種類の遺伝子を調べることができるようになり(マルチプレックス)、これらが保険適用されています。過去に受けた遺伝子検査で自分に適合する分子標的薬が見つからなかった患者も、マルチプレックスを受けたら、自分に適する薬が見つかるかもしれません。もしも、効果のある治療の可能性を知らずにいたら――。このような疑問を出発点に、データ分析の結果を白書にまとめ、その内容の解説と専門家でディスカッションを行うことが、今回のセミナー開催の趣旨です。データ分析はGHCが所有する大規模病院の診療内容が分かる「DPCデータ」を用いました。分析対象データ数は約200病院です。

白書によると、マルチプレックスは2022年に入ってから急増(図表)。患者ごとに適合する薬剤を見つけやすい検査が一気に浸透している状況が分かりました(白書の詳細はこちら)。一方、検査内容を病院間で細かく見ていくと、中にはまだマルチプレックスを積極的に行っていないと見られる病院があることも分かりました。また、今回のデータ分析に用いたDPCデータは、比較的大規模な病院のデータであるため、中小病院でもしっかりとマルチプレックス検査が浸透しているかまでは分からず、その検証も必要であることが指摘されました。

コンパニオン診断検査の推移。2021年11月から検査項目が5種類以上のマルチプレックス(水色部分)が急増している

コンパニオン診断検査の推移。2021年11月から検査項目が5種類以上のマルチプレックス(水色部分)が急増している

パネルディスカッションの議論では、国内の病院は数が多く、そのため医師や患者などが分散し、必要な治験規模を担保できないという大きな課題も指摘されました(医療従事者の分散については『コロナ禍のデータが暴いた医療資源の「分散」』参照)。今回の白書を起点に、数々の論点が議論されましたが、その詳細については改めてレポートします。

また、セミナー参加者から多数の熱いメッセージをいただいているので、以下にその一部をご紹介させていただきます。

肺癌ドライバー遺伝子変異の検査に関する現状を分析し広く発信するということは、患者様、医療従事者様、製薬企業・検査薬企業の意識を改革し、より良い医療に繋がることだと感じました(製薬企業関係者)
検査の広がりや年齢格差などがわかり、大変勉強になりました(マスコミ関係者)
病院で知り合った同じ肺がんで同じステージの方が遺伝子変異のことをあまりお知りにならないようでした。ステージが早いので標準治療で問題なく今は知らなくても良いのかもしれませんがその時にふとステージが進んでいて治療方法を選択するような状況だったら、持っている情報や知識量の違いで納得できる治療を受けられるかどうかに関わるのではないかと思っていました(中略)遺伝子検査が普及してきた今だからこそ必要な現状分析で、医療者患者どちらにも有意義だったと感じたので、とても良かったと思いました(患者)
がん患者が自らが働きかける団体を立ち上げて、問題提起をして、医師団体、企業を巻き込む中心となれるようになっていただければ、大きく変わると思います(製薬企業関係者)
今回の分析結果の裏に隠れている部分、例えば今回のサンプルとしての200病院以外の遺伝子検査の実態がどうなっているのか、また今回の200病院でも実際に的確な治療薬の選択がなされているのかどうかを示していただけた事が大変勉強になった。 また、マルチプレックスが出る前に、シングルプレックスの時代に治療を始め、現在も存命の方の今後の治療に向けての検査の可否、治療の選択肢などの議論も非常に勉強になりました(製薬企業関係者)

白書に興味がある方は、こちらより必要項目をご入力いただき、ダウンロードしてください。

解説を担当したコンサルタント
榎本 有祐(えのもと・ゆうすけ)
enomoto 大阪府立大学看護学部看護学科卒業、神戸大学大学院経営学研究科修了。大阪府済生会千里病院救命救急センターの看護師を経て、GHC入社。看護師、経営学修士(MBA)。DPC分析、PFM、病床戦略などを担当し、公的病院(関東地方400床台)の病床戦略策定支援、公的病院(九州地方200床台)のPFMセンター開設支援、公的病院(近畿地方400床台)の経営改善支援などを手掛ける。企業プロジェクトチームリーダー。
解説を担当したコンサルタント
川島 真由美(かわしま・まゆみ)
kawashima 東京理科大学薬学部薬学科卒業。薬剤師。製薬企業のMRや、調剤薬局での薬剤師を経てGHC入社。薬剤師の経験を活かし、地域連携に関する分析や、DPC分析などに携わる。