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2024.02.05

「Early Human Development」誌に当社西田が筆頭著者の論文「Impact of comprehensive quality improvement program on outcomes in very-low-birth-weight infants: A cluster-randomized controlled trial in Japan」が掲載されました

 当社コンサルタントで小児科医の西田俊彦が筆頭著者を務めた論文「Impact of comprehensive quality improvement program on outcomes in very-low-birth-weight infants: A cluster-randomized controlled trial in Japan」(邦題:極低出生体重児のアウトカムに対する包括的医療の質向上プログラムのインパクト-日本におけるクラスターランダム化比較試験-)が、蘭エルゼビアが発行するヒトの早期発達を扱う学術専門誌「Early Human Development」に掲載されました。


 掲載された論文は、日本の周産期母子医療センター・新生児集中治療室(NICU)を舞台に、医師・看護師を対象とした包括的な医療の質向上プログラムを提供することで、極低出生体重児(出生体重1500g未満)の3歳時の予後が改善するかどうかを検証した多施設共同研究の結果を報告したものです。介入群か対照群かという振り分けが症例単位ではなく、施設単位に決められるため、クラスターランダム化比較試験とも呼ばれます。2011年から開始された研究で、多くの施設、臨床医、研究者の協力の下で実施されたため、プロジェクトの略称「INTACT(インタクト)」の知名度は高く、話題となりました。


 プロジェクト開始以前より同様の対象症例を登録するレジストリー、それを元にしたデータベース研究は国内でも行われていました。ただ、施設により死亡率等の診療成績が大きく異なること、またこれまでの研究から諸外国よりも極低出生体重児の死亡率は低いものの、退院後の発達に関するフォローアップ情報が乏しいことが指摘されていました。これに対するアプローチとして、今回のプロジェクトでは(1)診療ガイドラインの活用(2)現地でのワークショップ開催(3)ローカルリーダーの育成(4)監査とフィードバック等の要素を組み合わせた医療の質向上プログラムを開発――を介入群施設に提供しました(対照群は(1)の診療ガイドラインの提供のみ)。


 結果として、いくつかの臨床上の指標(敗血症や副腎不全の発症低下、輸血回避、経腸栄養確立までの日数短縮、等)で介入の効果を認めたものの、「3歳時の神経学的異常なし・生存」という指標では有意差を認めませんでした。他方、フォローアップという点では9割近いフォローアップ率を実現しました。これは、研究を通じて発達評価のための心理士を確保し、標準的な検査である「新版K式発達検査」もしくは「ベイリー乳幼児発達検査」を実施することをプロトコールで定め、実施を支援したからこそ成し得たことです。


 NICUの診療において、従来のデータベース以上の粒度で診療プロセスや診療チームの情報を患者情報とセットで収集したため、二次研究としてさまざまな切り口でのアウトカムへの寄与を検討できるデータセットを確立したという面もあります。今後の二次研究が期待されます。


 今回の研究について西田は、「この研究は、全国の周産期センター、学会の協力体制があったからこそ実現したもので、研究グループの意欲だけでは成立しなかった。介入群施設では施設単位に『患者アウトカムを改善するには診療のどの部分をどのように変えるべきか』を真摯に議論し、答えを導き出し、実行するというプロセスを踏んでいただいた。主要評価という意味で有意な差は検出できなかったものの、介入による組織の変化は実感したし、個人的には『またやってほしい』という意見もいただいた。自分の現在の業務(コンサルティング)にも通ずる部分が多いと感じている」とコメントしています。