事例紹介

2019年02月28日

【病院事例】「地域医療支援病院」認定を決めた「驚異の4か月」舞台裏|京都中部総合医療センター

病院名 京都中部総合医療センター 設立母体 公立病院
エリア 近畿地方 病床数 464
病院名 京都中部総合医療センター
設立母体 公立病院
エリア 近畿地方
病床数 464
コンサルティング期間 3年間(「地域医療支援病院」支援は4か月)
コンサルティング
  • ・集患・地域連携
  • ・地域医療構想下の病床機能戦略
  • ・病床管理(ベッドコントロール)

 人口14万人弱の京都府南丹医療圏を支える急性期病院の京都中部総合医療センター(京都府南丹市、464床)は、地域の医療連携を推進する「地域医療支援病院」の認定を受け、2019年1月から運用を開始しました。認定の背景には、短期間で医療連携を一気に推し進めた「驚異の4か月」があります。その舞台裏をご紹介します(写真は右下から時計回りで地域医療連携室の山本伊佐雄主幹兼係長、辰巳哲也病院長、地域医療連携室の平井久美子副室長、経営管理課企画調整係の中井優志主査、経営管理課の加地弘佳課長、太田)。

今できなければ来年もできない

 「僕はあきらめない人間なので、やると決めたら絶対にやる。今できないという人間は、来年もできない」

 京都中部総合医療センターの辰巳哲也病院長は、地域医療支援病院の認定に向けた取り組みを本格化させた2017年11月当時を、こう振り返ります。

 同センターは、2017年度の目標の一つに「地域医療支援病院の認定に向けた施設基準のクリア」を掲げていました。二次医療圏当たり一つ以上存在することが望ましいとされている「地域医療支援病院」ですが、南丹医療圏は京都府で唯一、地域医療支援病院がない二次医療圏。同センターは、南丹医療圏で唯一、施設基準を満たす200床を超える急性期病院だったのです。

 そのため、辰巳病院長は、地域包括ケア病棟設置による病床機能分化など重点経営課題にメドを付けた2017年度、悲願だった地域医療支援病院の認定を目指しました。ただ、2017年度の半分が過ぎた2017年9月時点で、紹介率は45.7%(目標50%)、逆紹介率は56.5%(同70%)。残された時間は半年もなく、その間にこれまでの遅れを取り返すだけの飛躍が欠かせない――。とても年度内に基準を満たすのは難しい状況と思われました。

 そんな状況下でグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がジョイン。同年11月1日に開催された地域医療支援病院の施設基準クリアに向けたプロジェクトチームのキックオフミーティングで、担当したGHCシニアマネジャーの塚越篤子は「このままではいつまで経っても地域医療支援病院の認定は見込めない」と、辰巳病院長に代わって檄を飛ばしました。

 それから同センターとGHCによるプロジェクトチームのミーティングを隔週で開催。背水の陣とも言えるプロジェクトでしたが、気が付けば初月から目標を大きく突破し、4か月後には見事、紹介率および逆紹介率を含むすべての基準を満たし、2017年度の実績をもって地域医療支援病院の申請をすることができました。

 プロジェクトチームで地域医療連携室の山本伊佐雄主幹兼係長は「『このプロジェクトは厳しい』と当初は戸惑った。ただ、最初の11月から逆紹介率が飛躍的に向上したので、『これは目指せるかもしれない』と、不安が一気に希望に変わった」と当時の心境を語ります。

地域医療連携室の山本伊佐雄主幹兼係長

 この驚異とも言える4か月に何が起こったのか。ポイントは大きく以下の6つになります。

  1. (1)適切な目標設定
  2. (2)実効性ある実行部隊の組成
  3. (3)医師を動かす環境の整備
  4. (4)第三者の有効活用
  5. (5)連携先と患者への情報発信
  6. (6)リーダーシップ

不安が希望に変わった瞬間

 まず、目標設定が適切だったことがあります。

 地域医療支援病院の施設基準で重要な紹介率と逆紹介率は、(1)紹介率80%を上回っていること(2)紹介率が65%を超え、かつ、逆紹介率が40%を超えること(3)紹介率が50%を超え、かつ、逆紹介率が70%を超えること――のいずれかを選択できます。目標設定について辰巳病院長は「当医療圏は開業医数が133人と少ない。紹介率80%は無理だが、逆紹介率は職員の意識改革、特に医師の意識改革で70%は目指せると判断した」と説明します。

 次に最も大きなポイントになったのは、実効性ある実行部隊となったプロジェクトチームの粘り強さです。

 キックオフミーティング後の帰途、塚越は本プロジェクトへの不安を拭いきれないでいました。かなりチャレンジングなプロジェクトであり、これから隔週で開催するミーティングでこなすべき課題が山のようにあったためです。キックオフでは、「過去の診療情報提供書の内容精査」や「各診療科部長への説明」など、どれも次回ミーティングまでにこなすには負荷の高い課題ばかりを提示せざるをえませんでした。

 残りわずかな時間の中で、カギを握るプロジェクトチームが、どれだけスケジュール通りに課題をこなし、どこまで医師たちを動かすことができるのか――。

 キックオフから2週間後の2回目のミーティングで、そんな塚越の不安は消え去りました。地域医療連携室、経営管理課、医事課を中心に構成されるプロジェクトチームは、すべての課題を完璧にこなしてきたためです。塚越と一緒に本プロジェクトを担当したGHCコンサルタントの太田衛は、「病院の本気度が伝わってきた瞬間だった。その後も毎回、チームは完璧に課題をこなしていただけた。我々も全力でその気持ちに応えなければならないと、決意を新たにした」と振り返ります。

変わり始めた院内

 プロジェクトチームの努力の結果、次のポイントとなる医師たちが協力しやすい環境を用意することができました。医師の協力を促しやすい環境については、GHCがコンサルティングをした過去の事例などを共有。過去の事例から学べる点を抽出し、それらをいかに自病院にカスタマイズしていくべきかを、プロジェクトチームで議論しつくしました。プロジェクトチームで経営管理課の加地弘佳課長は、「医師にしっかりと診療情報提供書を書いてもらうため、必要な情報はどこまで準備すべきか、事務側でできることを徹底的に洗い出した」と述べています。

経営管理課の加地弘佳課長

 第三者であるコンサルタントの存在を有効活用したこともポイントの一つです。今回のプロジェクトでは、短期間ながら講演会や勉強会などを複数実施。そこでは塚越や太田が前面に出て、プロジェクトの意義の説明や具体的な進め方を繰り返し述べてきました。辰巳病院長は、「院内を動かすには、外部の第三者の意見を活用することが有効であると実感した」と院内の行動変容の様子を説明します。

 周辺の医療機関や患者への理解を得られたことも重要です。円滑な連携を推進する上で、開業医の高齢化は難しい問題の一つです。手のかかる重症度の高い患者を大病院に紹介した後、できることならそのまま大病院で面倒をみてもらいたいと考える高齢の開業医は少なくありません。この問題について同センターは、患者の了承を得た上で、患者にはかかりつけ医が必要であること、引き続き連携先として支援をしていくことなどを丁寧に記した手紙を開業医へ送るなどし、粘り強く理解を求めていきました。患者に対しても、かかりつけ医の必要性を院内で大々的に掲示するなど積極的なPR活動にも努めました。

 最後の欠かせないポイントは、リーダーシップです。辰巳病院長は、診療情報提供書の書き方について率先して学び、実践していきました。これについて太田は「医師向けにコンサルタントが指導することを躊躇する経営層が多くいる中、基本中の基本とも言える『お手紙の書き方』に真剣に向き合い、医師たちにもそれを促していただけたことは大きい」と指摘します。また、プロジェクトの終盤、地域医療支援病院の施設基準に含まれる登録医の登録数が予定していた数に対して遅延気味でした。その時のことを地域医療連携室の平井久美子副室長は「院長、副院長を含む院内スタッフが手分けして周辺の医療機関を訪れました」としており、院長自らの行動が院内を動かす原動力の一つになっていたことを物語っています。

地域医療連携室の平井久美子副室長

増収効果5000万円

 こうして地域医療支援病院の施設基準クリアにメドが立った2018年2月22日、同センターは地域医療支援病院承認意向確認書を京都府へ提出。数々の審議や調査を経た9か月後の11月20日、京都府から地域医療支援病院の名称承認を得ました。2019年1月から地域医療支援病院として運用を開始することで、入院収益の包括部分の収益が3%上がる「地域医療支援病院入院診療加算」の算定を開始。増収効果は年間約5000万円になる見通しです。

 辰巳病院長は、今回のプロジェクトを通じた感想を次のように述べています。

 「診療情報提供書をしっかりと書くことで、患者はもちろん、かかりつけ医の考えもより分かるようになった。当初は『地域のために地域医療支援病院を取らなければ』という思いで取り組んでいたが、いつの間にか『目の前の患者のため』と思って書くようになっている自分がいた」

 京都中部総合医療センターが短期間で地域医療支援病院を取得するに至った最大の原動力は、医療の原点ともいえる「目の前の患者のため」だったようです。

【病院長インタビュー】「患者のため」に勝る原動力はない

 辰巳病院長に、地域医療支援病院の認定に向けた取り組みや、GHCのコンサルティングへの感想などをお聞きしました。

辰巳哲也病院長

――GHCのコンサルティングをご活用するようになったきっかけを教えてください。

 2014年5月に病院長を拝命しました。いきなり、経営の効率化と医療の質向上の両方を喉元に突き付けられたような状況の中で考えていたのは「経営の可視化」です。副院長時代からさまざまな経営指標を可視化し、院内の全員がその情報を共有することの重要性を訴え続けてきました。自病院の強みと弱みを明確にし、強みを伸ばし、弱みを補うということをしっかりとやるためには、情報の可視化こそが唯一の突破口になり得ると、常々思っていたからです。

 病院長就任から約1年後の2015年6月に大阪市内で開催された「第17回日本医療マネジメント学術総会」のランチョンセミナーで、渡辺社長の講演を聞きました(参考記事『病院大再編促す地域医療構想を乗り切る3つの条件、医療マネ学会でGHCが講演』)。とてもインパクトのある講演で、切れ味鋭く、素晴らしい内容だったと今でも鮮明に覚えています。それからGHCに対して興味を持ち、同学術総会の会長で、以前からGHCを活用されている松下記念病院の山根哲郎院長にもご相談させていただき、まずは「病院ダッシュボードχ(カイ※当時は「病院ダッシュボード」)」を導入しました。

院内動かす可視化と第三者の声

――病院ダッシュボードχ、GHCのコンサルティングについてはどのような感想をお持ちでしょうか。

 病院ダッシュボードχは、やりたかった経営指標の可視化を、青、黄、赤のシグナル表示で実現することができます。自病院のクリニカルパスのベンチマーク分析や、加算・指導料がしっかりと取れているかなどもすぐに把握できます。質の良い医療を提供するには、経営状態も良くなくてはいけません。医療の質と経営の効率化は表裏一体で、そのことを院内全体で理解する必要があります。そのきっかけになるツールだったと思っています。

 コンサルティングは地域医療支援病院の認定の前に、病床機能分化で地域包括ケア病棟の開設などをお願いしました。ここで思ったのは、院内のスタッフは外部の意見だとよく聞くんだなと思ったことです。それこそ僕が同じことを10回言うより効果がある(笑)。

――急性期病院が病床機能分化する際、院内の抵抗などご苦労されることが多いとよく耳にします。

 当初は戸惑いがあったと思います。ただ、2025年以降を見据えた医療提供体制の構築が求められている今、現状と将来予測をしっかりとした上で、勇気ある決断をすることが経営者には求められています。地域包括ケア病棟のプロジェクトを始める際には、キーパーソンとなる中堅クラスの看護師たちが集まる看護師長会に初めて出席し、看護師長らを目の前にして「ご協力をお願いします」と頭を下げました。あのようなことをしたのは、後にも先にも、あのとき一回しかないのではないでしょうか。

――それだけ重要と思われていたということですね。

 そうです。外部の意見とデータに裏付けされたアドバイスもいただけたので、院内の理解も進みました。結果、プロジェクトは成功し、医業収益もプラスになりました。職員のたゆまぬ努力に感謝しています。

地域に愛され、信頼される病院へ

――地域医療支援病院の認定については、かなりの短期間で実現させました。

 地域医療支援病院が各医療圏に一つ以上とされているのは、「地域の中核病院となる地域医療支援病院は、地域の診療所やクリニックでは対応困難な専門的な治療や高度な検査、手術、および救急医療を行って、地域完結型医療の役割を担う」という役割が期待されているからだと認識しています。当院の理念も「地域の拠点病院として患者さん中心の良質な医療を行い、地域に愛され、信頼される病院を目指す」です。この医療圏でその役割を担えるのは我々だけだったので、分かってはいたのですが、なかなか踏み込めずにいました。

 地域医療支援病院は病院長就任後3年くらいで着手したいと考えていたので、2017年の病院運営重点目標の一つに加えました。ただ、一番ネックになるのが紹介率と逆紹介率。紹介率はまだなんとかなりそうでしたが、逆紹介率が基準値の6~7割という状態で、相当に厳しい状況でした。その状況の中で僕が「4月に地域医療支援病院を目指しますよ」と言ったので、現場は本当に戸惑ったと思います。それから半年間待ちましたが、紹介率も逆紹介率も動きませんでした。

 残り半年で地域医療支援病院の承認実現を考えた時に、支援実績のあるGHCに協力していただこうということになったのです。

――実質的に半年を過ぎた11月スタートになったので、目標を1年後ろ倒しにすることは考えなかったのですか。

 それはなかったんです。僕自身はあきらめない人間なので。やると決めたら、絶対にやります。今できない人間が来年できるとは思いませんから。GHCと契約すれば契約金も発生しますし、うまくいかなければお金を失うことになります。ただ、努力は次につながるでしょうし、何より目標をあきらめず、間に合うようにみんなで必死で頑張るという姿勢や気持ちを大切にしたいと思いました。

 実際、僕自身もかなりの負荷をかけて、逆紹介を必死でやりました。診療情報提供書をしっかりと書くようになってから、「これは患者のためだ」ということを痛感させられました。患者はもちろん、地域のかかりつけ医の考えもより分かるようになりますし、無駄な検査なども減らすことができます。当初は「地域のために地域医療支援病院を取らなければ」という思いで取り組んでいましたが、いつの間にか『目の前の患者のため』と思って診療情報提供書を書くようになっている自分がいました。結局、『医者としての良心』に突き動かされたと感じています。積極的に協力してくれたほかのドクターたちも、同じ気持ちだったのではないかと思っています。

目指すは「人を活かす経営」

――最後に今後の経営課題について教えてください。

 診療報酬制度という枠組みの中で、我々のような自治体病院が経営基盤を安定化させるためには、病院ダッシュボードχのような経営分析ツールの活用は欠かせません。重要な経営指標を定期的かつ継続的に可視化することで、院内のみんなが同じ気持ちで、部署ごとに各人が頑張るという状況になることが必要だと思っています。病院ダッシュボードχの導入を機に、会議のやり方が変わり、院内の改善意識は日に日に向上していきました。

 おかげさまで、急性期医療の指標である「機能評価係数II」は、京都府のDPC標準病院群の中でもトップクラスとなりました。今後は各部署が責任を持って、自分自身でその経営改善をしていくという「人を活かす経営基盤」へ向けてさらに進化してもらいたいと思っています。

――本日はありがとうございました。


塚越 篤子(つかごし・あつこ)

コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、助産師、経営学修士(MBA)。10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、GHC入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。全国の病院改善事例多数。若手の育成や人事担当なども務める。「LEAP JOURNAL」編集長。

太田 衛(おおた・まもる)

Multi Disciplinary マネジャー。診療放射線技師。大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学修士課程修了。大阪大学医学部発バイオベンチャー企業、クリニック事務長兼放射線・臨床検査部長を経て、GHC入社。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「病院ダッシュボードχ」の開発を統括する。マーケティング活動にも従事。新聞や雑誌の取材・執筆多数。