2026年02月09日
| 病院名 | 公益財団法人 筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院 | 設立母体 | 民間病院 |
|---|---|---|---|
| エリア | 関東地方 | 病床数 | 408 |
| 病院名 | 公益財団法人 筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院 |
|---|---|
| 設立母体 | 民間病院 |
| エリア | 関東地方 |
| 病床数 | 408 |
| コンサルティング期間 |
厳しい経営環境ながら、新型コロナウイルス感染症に伴う受診控えで一度減少した患者数を戻しつつある公益財団法人 筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院(茨城県つくば市、408床)。いわゆるコロナ関連の補助金がなくなった「アフターコロナ」に入ったばかりの2024年8月、戦略的集患などによって整形外科の稼働金額が過去最高を記録しました。地域医療連携課の小林祥子係長は、データを軸にタイムリーな課題の把握と対策を練るための「事務部データドリブン会議」を提案し、「データの見える化」と「仲間が動ける環境づくり」で院内外の医療改革を推進しています。地域連携推進のツールとしてご活用いただいている「病院ダッシュボードχ(カイ)」の導入経緯から活用状況、具体的な事例などについて小林氏にお聞きしました(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン広報担当の島田昇、関連コラム『ずっと誰かの背中を押せる存在になりたかった』参照)。
――「病院ダッシュボードχ」を導入した経緯と背景を教えてください。
当院があるつくば医療圏は、大学病院を除く公的病院が存在しません。そのため、公益財団法人である当院が政策医療的な分野(感染症・成育医療(小児医療))を実質的に担っています。当院の経営を考える上での前提として、急性期医療の提供と政策医療的な分野の両立を図りつつ、公立・国立ではないので公的資金は投入されないため自律的な財政によって運営していくことの難しさ、厳しさがあります。
一方、隣接する医療圏を含めて周囲には競合する急性期病院が多いです。中でも良好な関係維持が欠かせない医師派遣元でもある筑波大学附属病院は、当院から道路を挟んで目の前にあります。さらには東京都方面へアクセスしやすい「つくばエクスプレス」があるため、診療分野によっては東京都方面の沿線へ患者が流出しかねない課題も抱えています。
このような特性がある当院は、戦略的な地域連携の強化が必須です。特に、新型コロナウイルス感染拡大期を経て、▽コロナ以前に戻り切らない紹介件数▽経験や勘に頼った地域連携活動の限界――などの課題が顕在化してきました。そのため、地域連携における患者紹介の「数」ではなく「質」を重視することとしました。具体的には、「救急と紹介からの高単価な集患」を実現するため、データに基づいた前方連携の強化です。
「病院ダッシュボードχ」の導入経緯や決め手については把握していません。ただ、相澤病院が導入しているツールということは知っており、導入時に関連の説明会やGHC主催セミナーなどには参加したので、導入前からその機能に衝撃を覚えたという記憶はあります。
――具体的には「病院ダッシュボードχ」のどのような点に衝撃を受けたのですか。
単なる経営分析ツールではなく、「連携業務の意思決定支援ツール」として有効だと思った点です。具体的には、▽診療科別・紹介元別・疾患別など、前方連携に直結する切り口で即座に可視化できる▽他院とのデータ比較が可能で、「当院の立ち位置」を客観的に把握できる▽経営層・診療科・連携課で共通言語として使えるダッシュボードである――などです。
――どのような体制で「病院ダッシュボードχ」をご活用いただいているのでしょうか。
当院は、病院経営管理士会の会長でもある中山和則副院長兼事務部長、医薬情報担当者(MR)として15年、病院の営業として20年、合計35年の営業経験がある堀田健一事務部専門部長兼地域医療連携課長が在籍する非常に恵まれた環境にあります。この環境は全国から羨ましがられている環境であることを重々承知しています。
この恵まれた環境の中で、自分が経営改善にもっと貢献するには知識と経験が足りないと感じ、2025年に東京科学大学の大学院医歯学総合研究科 病院経営人材養成コースで学ばせていただきました。ここで得た学びを生かすには、よりタイムリーにアウトプットしていかないと間に合わないと感じ、組織横断的に経営改善に向けた検討を行う「事務部データドリブン会議」を提案しました。お二人を中心に、医事入院課・医事外来課・地域医療連携課で分析した内容を持ち寄り、さまざまな経営課題についてどのように深掘りし、どのように改善していくべきかを常に議論している場が「事務部データドリブン会議」です。
例えば、地域医療連携課で紹介受付の電話内容を聞いていると、「特定の疾患をお断りしている」など「現場でないとすぐにキャッチアップできない課題」を把握できます。このような特定の現場だけが把握している情報をこの会議で提示することで、医事外来課も救急も同様のお断りが増えていると気づく。そこから「なぜ特定の疾患のみ断っているのか」「それは病院経営にどれくらいのインパクトを与えるのか」など近い将来の課題を先回りして検討できるのです。やはり現場が一番キャッチアップは早いので、それを最大限いかす形で経営分析を行うための会議体が「事務部データドリブン会議」なのです。
「事務部データドリブン会議」での分析や対策は、経営会議や診療科面談で提示して、経営改善に繋がるよう医師に行動変容を促しています。その有用性が院内でも認知されつつあり、最近では購買管理課、人事課も交えて開催しています。
――病院経営の学びを生かすため、よりタイムリーなアウトプットが必要と感じたきっかけとなるエピソードがあれば教えて下さい。
「医療とリーダーシップ」の講義を通じて、医療機関の変革には「データの見える化」と「仲間が動ける環境づくり」が不可欠であると強く感じました。講義を担当された東京科学大学附属病院の藤井靖久病院長は、病床稼働率90%を目標に外来予約、入院運用、地域連携、広報を同時に改善し、組織全体を同じ方向へ動かすことを重視していました。この姿勢は理念にとどまらない、再現性のある実践手法として大いに参考になりました。
特に印象的だったのは、「リアルタイムのデータ共有が組織の行動を変える」という指摘です。その指摘があった講義の直後から、自院でも病棟ごとのベッド利用率・緊急紹介応需数(お断り理由含む)・救急搬送応需数を事務で毎日集計し、電子カルテのトップ画面や院内のイントラネットを通じて、それら情報を全部署に共有する取り組みを開始しました。高価なシステムを利用しない「ゼロ予算」での取り組みでしたが、職員が日々の状況を正確に把握できるようになり、能動的な動きが明らかに増加。結果、病床利用率は導入前の約75%から90%(1月末現在)へと大幅に改善しました。これは「情報の見える化は行動を変える」というリーダーシップの力を実感した象徴的な出来事です。
この講義と当院での実践を通して、医療リーダーシップとは「方向性を示し、データを共有し、現場が動きやすい環境を整えること」であると学びました。大規模投資ではなく、仕組みと意識の変革によって組織は確実に動き始めます。このことこそが、医療現場で最も求められるリーダーシップだと実感しています。
――「病院ダッシュボードχ」の利用人数や利用頻度、よく使う機能などを教えて下さい。
ほぼ毎日、日常的に使っています。主利用は医事入院課、地域医療連携課で、経営層も共有される分析結果を活用しています。主な活用指標としては、▽紹介元別分析▽診療科別稼働・収益▽疾患別・地域別患者動向▽他院ベンチマーク――です。
――地域医療連携課ではどのようにご活用いただいているのでしょうか。また、課の役割やミッション、具体的な業務内容や課題なども合わせて教えて下さい。
地域医療連携課のミッションは、「顧客に選ばれる病院になるための医療連携と広報機能の強化・収益性を意識した医療連携・分野別連携の深化」です。具体的には、▽正確でタイムリーな情報を地域の医療者に届けること▽必要なときに必要な患者に適切な医療が繋がる体制の構築▽紹介・逆紹介の質の向上▽診療科と連携した集患戦略の企画・設計▽データに基づく集患施策と訪問先の優先順位付け▽ステークホルダー別広報連携活動――を担っています。「病院ダッシュボードχ」は、その判断材料として中核をなしています。
これまでは堀田事務部専門部長の暗黙知、経験と勘に大きく依存する状況でした。また連携先の訪問頻度や範囲を広げるには、属人的な体制からデータドリブンによる標準化がベースの体制移行は不可欠です。ただ、標準化に向けてのデータ抽出、加工の手間が大きく、しばらくはあれこれ試行錯誤を繰り返していました。
それが「病院ダッシュボードχ」を導入したことで、データ加工の必要はなく、抽出も最小限で、連携先と当院の関係の欲しい情報を詳細に把握できるようになりました。どの連携先からどの診療科にどれくらいの患者がどのような推移で紹介されていて、その紹介がどれくらい入院に移行しているのかまで、タイムリーに把握できています。
――「病院ダッシュボードχ」のご活用による成果、印象に残っていることを教えて下さい。
まず、当院の整形外科が2024年8月に過去最高の稼働金額を記録したことです。その背景には、「病院ダッシュボードχ」を用いた戦略的な活動があります。
整形外科の診療科面談で、脊椎・側弯症の専門医が翌年度着任予定であることが判明しました。これを機に、「病院ダッシュボードχ」を駆使して地域の疾患動向を分析した結果、茨城県内の側弯症症例は極めて少なく、県外流出が多い実態が判明しました。調査・分析の中で、あるクリニックの医師が「体力的に自身の手術を減らしたい」と表明していたことも分かりました。そこで、過去に脊椎疾患を紹介したクリニックや潜在的に患者を抱えるクリニックを抽出。それをベースに訪問計画を立案し、50件以上のクリニックを効率よく訪問しました。
脊椎専門医の同行訪問が奏功し、当院への紹介が急増。結果的に4年間で5,000万円超の増収をもたらしました。この活動の鍵は、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールである「病院ダッシュボードχ」による地域の潜在需要分析などを駆使することで医師の行動変容を引き出したことにあります。
次いで婦人科における逆紹介の推進です。婦人科では外来患者数が多く、逆紹介を進めたいものの、どのクリニックにどのタイミングで逆紹介するかが課題でした。
そこで「病院ダッシュボードχ」を用いて分析したところ、同規模病院に比べて逆紹介の比率が低いことが判明。潜在的に逆紹介の可能性が高いクリニックを抽出し、訪問活動を行いました。訪問活動の中では、当院に産科がないことから登録医にはなっていないある不妊治療専門クリニックから「実は紹介したい症例が多い」などの隠れていた需要も顕在化してきました。医師同士のLINE活用や当院のアクセス地図の作成、外来アシスタントへの周知など細やかな対応が功を奏し、逆紹介活動開始後のわずか4か月で逆紹介件数が増加し、同時に紹介件数も増加、その結果、稼働率が向上。入院収益が増加し、病院経営に大きく寄与しました。一般的に逆紹介を推進すると紹介が増加すると言われていますが、まさにその効果が短期で出て、結果的に逆紹介を推進した良性疾患だけではなく悪性腫瘍の紹介も増加しました。
2024~2025年度には循環器内科の集患強化を目指し、医師同行訪問を100件計画しました。活動開始直後から症例数は増加しましたが、医師の業務が逼迫したため、途中から連携室の単独訪問へ移行。単独訪問でも医師同行に匹敵する成果を挙げることができました。
最後にウェブ予約による連携進化です。当院は予約率が患者数の28%にとどまり、看護師や受付事務の負担、患者のクレームが課題になっていました。そこで2024年7月にウェブ予約システムを導入。「病院ダッシュボードχ」と地域連携の生データを活用して、200件を超える訪問活動における紹介収益と予約率をクリニック別に抽出し、各クリニックの診療体制や患者層に応じた予約チャネルを提案しました。これにより予約システム導入3か月で業務効率化効果(総予約数に占めるWEB予約数)は19.6%から31.8%に、集患効果(WEB予約に占める営業時間外のWEB予約割合)は32.1%から38.1%へ増加しました。さらには単なる予約システム周知に留まらず、現場の不満や改善要望の抽出につながり、今後の連携強化に向けた貴重な示唆をもたらしたことも特筆すべき点です。
――データでは見えない定性的な成果などはありましたでしょうか。
院内全体のデータを見える化したことで、「感覚論」ではなく「データで話す」文化が院内に浸透したと感じています。例えば、電子カルテのトップ画面やイントラネットで主要な経営指標などの情報を随時公開するなどしました。また、データドリブンでさまざまなことを検討する改善スタイルも定着し、医師と事務の議論が建設的になりました。さらには「病院ダッシュボードχ」を用いることで、実施した施策がなぜうまくいったのか、逆になぜうまくいかなかったのかなどの振り返りが容易になりました。浮いた時間を新たな施策の立案や実行に充てることができるので、効率的でスピード感もある改善活動を推進できています。
――「病院ダッシュボードχ」に期待することはありますか。
「事務部データドリブン会議」のメンバーでよく話しているのは、事務の現場担当者たちでタイムリーに情報交換できるプラットフォームが欲しいということです。例えば、病床稼働率や診療科別の医師一人あたり収益、診療科別の疾患構成などについて、同じような環境にある病院はどのような状況で、具体的にどのような対策を講じ、どれくらいの成果を出しているのか、現場の生の情報を交換し合って参考にさせていただきたいです。まずは当院から声がけして5~6件の病院間で始めてみようと考えています。
――経営改善を行う上で大切にしていることがあれば教えて下さい。
多様な立場の視点を行き来しながら課題を捉え、データを共通言語として現場と経営をつなぐことを大切にしています。
病院経営人材養成コースでの学びは、知識だけではなく、考え方や人的ネットワークなど非常に大きな糧を得ました。ここでの学びを院内に持ち帰り、理論を実務に翻訳し、現場が動ける形に落とし込み、持続的な経営改善につなげる努力をしています。自分はとても恵まれた環境で働けていることは重々承知しているので、実践して有効だった経営手法は全国の仲間へ共有して、情報交換に努めています。最近、地域連携についての講演やご質問をいただく機会も増えたので、近く文書にまとめて「Kindle」や「note」で情報発信する予定です。
また、リスキニングは資格取得という形でも継続し、ここ1年間でITパスポート(2025年1月)・AIパスポート(2025年10月)・情報セキュリティマネジメント(2026年1月)を取得ました。資格も活かさなければ意味がないので、「令和8年度診療報酬改定を筑波メディカルセンター病院の経営戦略に翻訳するAI」(診療報酬改定を当院の経営視点で問答するためのボット)を作りました。事務部データドリブン会議メンバーや病院経営層に共有して、厚生労働省から発信される情報をタイムリーにキャッチアップし、膨大な量の短冊から必要箇所を抽出するなど、院内の業務軽減に努めています。
――本日はありがとうございました。
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