2025年12月08日
| 病院名 | 公益社団法人昭和会 | 設立母体 | 民間病院 |
|---|---|---|---|
| エリア | 九州地方 | 病床数 |
| 病院名 | 公益社団法人昭和会 |
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| 設立母体 | 民間病院 |
| エリア | 九州地方 |
| 病床数 | |
| コンサルティング期間 |
| Hospital Management - Consulting Services |
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7割の病院が赤字と言われ、厳しい経営環境が続いています。こうした中、公益社団法人昭和会が運営するいまきいれ総合病院(鹿児島市高麗町、349床=高度急性期31床、急性期318床=)と上町いまきいれ病院(鹿児島市長田町、101床=回復期54床、地域包括ケア47床=)は2024年度、わずか1年で約3億円の改善を実現しました。真面目で優しい職員たちが軸となり、地域医療を支えてきた昭和会。新理事長と新天地での新たな船出は、「コロナ禍」で想定外の苦境に立たされました。同会はどのようにして短時間で経営改善を実現したのか。いまきいれ総合病院、上町いまきいれ病院の関係者に話を聞くと、徹底したデータ経営の活用が活路を見出したようです(関連記事『データとアートで人を動かす病院経営の羅針盤、「病院ダッシュボードχ」を複数部門がフル活用』参照)。

いまきいれ総合病院の外観
いまきいれ総合病院の前身となる今給黎病院は、1938年の外科医開業を経た1947年、鹿児島市下竜尾町に設立(昭和会は1964年設立)。2025年現在で開業87年の歴史を誇り、2021年から急性期医療を担ういまきいれ総合病院(高麗町)、回復期医療を担う上町いまきいれ病院(長田町)の体制で新たなスタートを切りました。
いまきいれ総合病院は地域がん診療連携拠点病院としての発展、救急医療や周産期医療の拡充などを柱に、地域の医療機関と緊密に連携し、ロボット支援下手術など、高度で専門性の高い急性期医療の強化・提供を行っています。さらに複合施設「キラメキテラス」の共同事業として、多世代が互いに支え合い、人が地域・社会と結びつく「ヒューマンライフライン」の構築により地域活性、地方再生にも貢献しています。
2023年度は鹿児島で鹿児島大学病院、鹿児島市立病院に次ぐ地域3番手となる症例数を集め、民間病院としては最大規模の医療を提供する病院となっています(図表1)。

【図表1】大学病院、市立病院に次ぐ鹿児島で3番目の症例数となるいまきいれ総合病院(「病院ダッシュボードχ」の外部環境分析機能「マーケット分析」)
ただ、いまきいれ総合病院と上町いまきいれ病院がそれぞれ新たなスタートを切ることになった2021年1月当時は新型コロナウイルス感染拡大期の真っ最中。想定外の状況の中、2019年7月に理事長へ就任したばかりの今給黎和幸氏の下、経営改善を積極的に推進できる状況ではなく、いわゆる「コロナ補助金」を入れても赤字幅を埋められないほど危機的な経営状況になりました。
ようやくコロナ禍が落ち着き始めた2023年9月。コロナ後の立て直しを目指し、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)へ中期経営計画策定の打診をいただき、GHCのコンサルティングが始まりました。
GHCの中期経営計画策定では、データを駆使し、徹底した外部環境調査と内部環境調査が実施されます。その上で理事長ほか院内のキーマンへのヒアリングなどを踏まえて、組織全体としての目指すべき方向性や重点的に実施する取り組み、予算配分の考え方などについて整理していきます。昭和会のコンサルティングにおいては、「顧客」「財務」「内部プロセス」「学習と成長」の4つの視点から経営ビジョンや戦略を設定する「バランス・スコアカード(BSC)」形式でKPIを設定し、4か年計画の中期経営計画を提案しました。
その内容について今給黎理事長からは「まさしくこういうものを作成したかった」とのお言葉をいただき、院内の関係者も「色々とデータを取っていながら活用できていない部分がたくさんあったことに気づけた」(法人事務局経営企画課課長の山内久法氏)などと評価。この中期経営計画をベースに、2024年6月から1年間の実行支援型のコンサルティングをさせていただくことが決まりました。
コンサルティング開始に伴い、今給黎理事長をトップに据えた「業務改善プロジェクト」の体制を構築(図表2)。昭和会の職員からなる事務局がGHCと各種調整をしつつ、いまきいれ総合病院および上町いまきいれ病院の各コアメンバーと連携しながら、各診療科・各部門の責任者とさまざまな課題について検討、改善推進していくプロジェクト実施体制となりました。

【図表2】業務改善プロジェクトの実施体制。コンサルティングを活用しながら主に事務局やコアメンバーが随所で「病院ダッシュボードχ」を活用する
GHCの本プロジェクト担当コンサルタントでシニアマネジャーの中村 伸太郎が現場に入って最初に感じたのは、全般的に患者対応が非常に丁寧であるにもかかわらず、算定要件を厳しく考えすぎてさまざまな診療報酬の算定が消極的になっているということです。例えば、経営に大きな影響を与える「薬剤管理指導料」。ある薬剤師は、認知症患者に対して服薬指導や副作用確認など必要な薬学的管理指導をした際、「指導内容を理解しているようではあったが、認知症患者なので薬剤管理指導料は算定してはいけないのではないか」と、算定を躊躇するというような事例がありました。
こうした職員の真面目で優しい対応について、コンサルティングの現場では診療報酬制度の適切な理解を促すとともに、全国1000病院超の医療ビッグデータに基づくベンチマーク分析の結果を共有していきました。「当院では算定していなかった条件に該当する患者においても他の病院は算定している」などのデータを確認していくうちに、加算・指導料等の算定最適化が進み、そのための業務効率化なども進みました。例えば、薬剤師2人体制で行っていたがん化学療法の薬剤チェックについて、投与量計算機を導入して一人の薬剤師がチェックし、もう一人の薬剤師をほかの業務に充てるなどの業務の見直しが、院内のさまざまな現場に広まっていきました。
これらの取り組みにより、薬剤課は2400万円の改善、そのほかの部門でも飛躍的に改善が進みました(図表3)。

【図表3】いまきいれ総合病院の部門別改善金額
最も大きかった改善は病床管理。特に個室料収益については、患者を第一に考えるあまり、個室料を病院が負担しているというケースが散見されました。これについては濱崎秀一院長が自ら動き、適切な個室料徴収に向けて院内周知を徹底しました。濱崎院長は、GHCのコンサルティングについて、「理屈ばかりでメッセージを投げかけるだけではなく、我々と同じ目線で一緒に動いてくれるところが良かった」と振り返ります。

濱崎院長
次いで大きな改善金額となったリハビリテーションについては、岩川純副院長が軸となって動きました。リハビリ介入のタイミングについて、全症例で一日も早く介入するよう大号令をかけたのです。「コンサルティングが始まってからも、我々の診療スタイルはほぼ変わっていません。『患者のため』にすべての医療職種が向かっていくことよりも大事なことはない。ですから、『入院したときよりも改善して帰す』を何よりも優先すべきで、そのためには1日でも早くリハビリ介入することがとてつもなく大事。ですから、それができていない症例すべてに早期リハ介入を徹底するよう周知したのです」(岩川副院長)。

岩川副院長
院長自らが動くフットワークの軽さ、「患者のため」という思いを医療の質向上とともに収益向上にも結び付ける副院長の機転も加わり、日に日に経営改善が進んでいきました。
上町いまきいれ病院も同じく急速に経営改善が進みました。病院の質を評価する「病院機能評価」の審査中だったコンサルティング開始当時について、同院副院長の林茂昭氏は「担当コンサルタントの中村さんから病院機能評価に関するアドバイスを受け、この病院に何が足りないかが浮き彫りにされ、そこを埋める努力をしたことで経営改善の土台が作られたと感じています」と述べます。

左上から時計回りに医事課の東貴史課長、濵田敏彦事務長、林茂昭副院長、視能矯正課の川畑真澄技師長、リハビリテーション課の前迫篤療法士長、地域医療支援センターの吉満実副室長、看護部の山下真理恵副看護部長
その土台を強固にする突破口となったのはデータです。上町いまきいれ病院でも外部・内部環境調査に基づいた4か年計画の中期経営計画を作成。中でも重点施策に据えたのが、回復期リハビリテーション病棟の入院料を2026年度までに「入院料2」から「入院料1」へ変更することでした。ただ、そのカギとなるリハビリテーション実績指数は2024年度で25~30。「入院料1」の施設基準では40以上の実績指数が必要となるため、当初は遠い道のりのようにも映りました。
しかし、コンサルティングで現場のヒアリングを行うと、現場リハスタッフの日常生活動作の自立度を評価する「FIM評価」が厳しすぎたことが大きな要因であることが分かってきました。そこで入退院時FIMやFIM利得(入院から退院までに改善した患者の機能的自立度を示す指標)のデータを他院と比較。その上で評価の実態について現場スタッフにも共有するとともに、退院時FIM評価はリーダークラスのスタッフ2人体制で実施する体制に見直しました。すると元々のポテンシャルもあったことで、コンサルティング開始わずか半年の2024年12月から「入院料1」の届け出を開始しました(図表4)。

【図表4】いまきいれ総合病院の部門別改善金額
地域包括ケア病棟の病床稼働向上においては、10床あった眼科の病床を6床までに絞り込み、残り4床を他の診療科で活用することで、眼科の手術件数や病床利用を大きく下げることなく、地域包括ケア病棟全体の病床利用数の目標をクリアすることになりました。並行して進めた集患・転院受入強化が極めて好調だったことも奏功しました。特にいまきいれ総合病院以外からの紹介・転院が好調で、2025年度は2年前と比較して倍以上の紹介患者という状況になっています。
上町いまきいれ病院の改善プロジェクトにおける大きな特徴は、診療科や部門の垣根を超えた連携によるチーム医療の実践。コンサルティング導入前から風通しの良い環境でチーム医療を推進してきましたが、コンサルティング導入による毎月の主要経営指標のデータ確認や振り返りを経て、やるべきことが明確になったことでチーム力をさらに高めています。林副院長は「モチベーションの高いスタッフにやるべきことが集中している状況を分散させていくことが今後の課題」と気を引き締め、さらなる改善に目線の先を向けます。

上町いまきいれ病院の外観
職員の高いポテンシャルがあってこそ大きな改善を実現できたいまきいれ総合病院と上町いまきいれ病院。いまきいれ総合病院の岩川副院長は、7割の病院が赤字という医療界を見渡した上で、「患者のため」の基本理念に立ち「真面目で優しい病院こそ生き残るべき。今回のコンサルティングでそのための知恵を得ることができた」と振り返ります。その一方で、「これからは鹿児島の中でのベンチマーク結果に満足していてはいけない。全国レベルで比べていかないと2040年、2050年に向けて生き残ることはできない」(岩川副院長)と決意を新たにしています。
昭和会の今給黎和幸理事長に今回のコンサルティングについて振り返っていただきました(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン広報担当の島田昇)。
――当社のコンサルティングを導入された背景について教えて下さい。
2019年7月に理事長に就任しました。それまでは普通の臨床医だったので、視野は専門の消化器内科のことばかり。理事長という立場になってはじめて、病院を俯瞰的に見て、「自病院の強みや弱みがどこにあるのか」「どうすれば少子高齢化で病院経営が年々厳しくなる時代を生き抜くことができるのか」などについて考えるようになりました。

理事長の今給黎和幸氏
当会のいまきいれ総合病院と上町いまきいれ病院は2021年1月に新築移転することが決まっていたのですが、全くの想定外だった新型コロナウイルス感染拡大期と重なりました。経営を学ぶ中でデータを軸にしたデータ経営を目指していましたが、コロナ禍の現場は大混乱の状況で、当然、それだけに集中できない。一方で銀行からは新築移転費の返済に向けた中長期の経営計画の提出を求められている。とても院内のリソースでそれらに対応できる状況ではありませんでした。そうした中で外部のコンサルティングを活用することになったわけです。
――データ経営を目指そうと考えられたのはなぜですか。
我々医師は日々、エビデンスに基づいた診療行為を行っています。それと同じく、経営改善するにしても、根拠がなければ経営判断できません。現場の医師も納得せず、経営改善は進まないでしょう。経営改善を進めるすべての関係者が納得できる根拠が必要だったのです。
当会は「協力」(全職員の協力体制)、「貢献」(地域社会への貢献)、「向上」(自己研鑽と向上心)を基本理念に掲げており、私が新たに「教育」(人材育成と教育)を加えて4本柱になりました。この基本理念は院内に浸透しつつあり、職員も真面目なので、いくつか病院の方向性を示したら、ほとんどの職員がその方向に向いてくれる状況にあります。ただ、それらに納得性が足りなかったのですが、今回のコンサルを通じて良くなってきました。
GHCのコンサルティングや「病院ダッシュボードχ」では、他病院の状況と比較したベンチマーク分析に基づくデータが常に示されます。このデータがあることで、毎月など定期的に自病院の立ち位置やポジショニングを確認し、次に生かすことができます。今ではデータを起点に経営判断し、行動するというスタイルが院内に定着してきたと感じています。
―なぜ基本理念に人を軸とした「教育」を加えたのですか。
医療は労働集約型産業で、人があってこそ成り立つものです。何をするにしても人の存在が欠かせず、そのレベルアップが病院の未来を担っています。
当会の職員の特徴は、真面目すぎるほど真面目なところと、それぞれのポテンシャルが非常に高いところにあります。とても良い人材に恵まれているので、「当事者意識を持ち、皆で理想とする組織を目指そう」と常に言っています。ただ、人材不足は常にあり、人口あたり急性期病床が多い鹿児島は特に、看護師が不足しがち。今は病院大再編の過渡期で耐える時期だと思っています。やがて人は集まるべきところに集まり、当院は大学病院、市立病院に次ぐ「生き残れる病院」です。職員のモチベーションを維持し続けるのが難しいタイミングではありますが、恵まれた人材をより高みへと育てつつ、皆で理想とする組織を目指していきたいです。
データに基づき多職種で数々の改善活動を推進していき、院内に改善風土が高まってきました。「病院ダッシュボードχ」の成績表の評価も、下位25%タイルの赤から上位25%タイルの青へと徐々に変わっていき、とてもきれいな色になってきました。これを職員間で確認し、それぞれの頑張りを共有し合っています。ようやく根付き始めたデータ経営の文化を、将来的には外部のコンサルティングに頼らずとも、院内のリソースだけで自走できる組織にまで高めていきたいと考えています。
――中村のコンサルティングはいかがでしたでしょうか。
結果を出してもらっているので、「良かった」というのが結論です。DPCそのものが「見える化」「標準化」と言われているので、それに合わせた改善手法が良かったのではないでしょうか。
中村さんは現場に入り込み、さまざまなことに伴走して取り組んでいただけました。職員たちとの信頼関係もしっかりと構築できているので、安心して任せられます。また、職員をやる気にさせるのもうまい。私は褒め上手ではないので、職員たちを労う言動はとてもありがたいです(笑)。

今給黎理事長。後ろの絵画は移転前の「今給黎総合病院」
少し努力するとクリアできるところに目標を定めるなど、優先順位の付け方もうまかった。加算・指導料等の算定基準の解釈についても、職員たちに気づきを与えながら解釈の仕方を変えるよう促していってもらえました。
いつも院内に発信しているメッセージは持続可能性を目指すことです。今回のコンサルティングで改善プロジェクトの進め方を理解できたので、我々で自走できるところまで精度を高めていくことが当面の目標です。新人の職員も常に入ってくるので、次の世代にしっかりと繋ぐことも念頭に、長期的な人材育成を含めて改善し続ける組織を目指していきたいです。
――本日はありがとうございました。
連載◆昭和会(いまきいれ総合病院・上町いまきいれ病院)
(1)1年で3億円の改善、データを軸に真面目で優しい病院が見出した活路
(2)データとアートで人を動かす病院経営の羅針盤、「病院ダッシュボードχ」を複数部門がフル活用
| 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう) | |
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コンサルティング部門シニアマネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「JHAstis」の社内プロジェクトリーダーも務める。 |
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