2026年03月12日
| 病院名 | 市立大津市民病院 | 設立母体 | 公立病院 |
|---|---|---|---|
| エリア | 近畿地方 | 病床数 | 377 |
| 病院名 | 市立大津市民病院 |
|---|---|
| 設立母体 | 公立病院 |
| エリア | 近畿地方 |
| 病床数 | 377 |
| コンサルティング期間 |
| Hospital Management - Consulting Services |
|---|
2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」。10対1の看護配置で高齢者救急患者などに対応し、リハビリテーションと栄養管理を早期から提供しつつ、日常生活動作(ADL)低下を防ぎながら、最大21日以内での在宅復帰を目指す新たな病棟です。
地方独立行政法人 市立大津市民病院(滋賀県大津市、377床)は2024年10月、46床の「地域包括医療病棟」を新設、稼働させました。結果、大幅な収益増を実現させるとともに、既存病棟である「急性期一般入院料1」の施設基準も維持。院内に改善風土の醸成や率先して新たな取り組みに挑戦する組織文化も根付かせました。
なぜ、先例のない地域包括医療病棟を全国に先駆けて導入する決断をしたのか。導入にあたり、現場スタッフの不安や混乱はなかったのか。また、成功要因は何だったのか――。導入前および導入後の運用でも、データに基づく詳細なシミュレーションがカギを握っていたようです。理事長の河内明宏氏、理事・事務局長の押栗雅則氏、理事・看護局長の須佐美智子氏、新設した地域包括医療病棟の看護師長を務めた入退院センター主査の山﨑富美子氏、栄養部技師長の松本恵子氏、リハビリテーション部技師長の西山直樹氏、経営企画課経営戦略グループ副参事の川勝政範氏、経営戦略室主任の藤川勇介氏にお話をお伺いしました(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)広報担当の島田昇)。

右下から時計回りで押栗氏、河内氏、須佐美氏、藤川氏、山﨑氏、松本氏、川勝氏、中村
――まず、当社のコンサルティング導入までの経緯について教えて下さい。
押栗氏:2022年に医師の大量退職があり、その後、経営の立て直しを推進していたことが、そもそもの背景としてあります。新たに当院の院長に就任した日野明彦(前職は済生会滋賀県病院の院長補佐)を通じて、GHCのことを知りました。

押栗氏
GHCは多くの病院の経営支援でご活躍されているとのことで、滋賀県済生会医療福祉センター総長で済生会滋賀県病院の三木恒治院長からのご紹介もあり、当時の課題だった公立病院経営強化プランの作成をお願いすることにしました。「病院ダッシュボードχ(カイ)」については、コンサルティングをお願いする前の2013年から使い続けています。
――今回の「地域包括医療病棟」導入までの経緯と背景を教えて下さい。
河内氏:診療報酬改定ごとに病院のあり方を検討し、必要であれば変えていかなければならないという大前提があります。2024年度診療報酬改定の動向を追っていた経営戦略室が「地域包括医療病棟」の新設に着目。コンサルティングをお願いしていたGHCコンサルタントの中村(伸太郎)さんに、経営面でメリットがあるかどうか、さまざまな切り口でシミュレーションしてもらいました。

河内氏
また、地域包括医療病棟の病棟としての役割が、当院が目指す役割に近かったということです。当院は高齢者が多い地域に密着した急性期病院。経営面と地域性、当院の役割などから総合的に検討した結果、地域包括医療病棟の導入を本格的に検討するに至りました。
押栗氏:地域包括医療病棟を活用することで、急性期病棟の「急性期一般入院料1」の施設基準、特に「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)を維持したいという狙いもありました。また、地方独立行政法人である当院は、地域包括ケアの拠点になることを市から要請されていたので、高齢者救急を受け入れる狙いの地域包括医療病棟は当院が求めている課題にも合致していました。
須佐美氏:当院の救急搬送の4分の1くらいが高齢者疾患なので、最初から採算性は十分にあるだろうと思っていました。高齢者がまだまだ増える地域でもあるので、当院としても地域としても最適な選択肢であると感じて賛同するに至りました。

須佐美氏
――プロジェクトを進めるに当たってご苦労された点やエピソードがあれば教えて下さい。
河内氏:現場の理解を得るまでが大変でした。歴史もある公立病院なので、新しい変化を受け入れづらい土壌があったのかもしれません。70人くらいの関係者を集めた大規模の会議を5回開催し、さまざまな不安な声に直接、丁寧に答えていきました。
須佐美氏:看護師は病棟ごとに専門が決まっているので、一つの病棟で専門外の患者も対応したり、逆に専門の患者が別の病棟に転棟したりするところに混乱の原因がありました。診療科によっては「自分たちの診療科の収益が下がるのでは」などの声もありました。
河内氏:本当にさまざまな声がありました。一個一個の不安をしっかりと聞いて、そのすべての不安に対する回答を出していきました。大変なことではありましたが、それが我々の最も重要な仕事です。個々の不安にしっかりと耳を傾けていくと、いくつかのポイントに整理できることも分かってきました。そういう姿勢を見せ続けたことで、徐々に不安の声もなくなっていきました。
押栗氏:スタッフを増員して欲しいという声もありました。特にリハビリテーションは平日のみでしたが、土日対応も必要になります。中村さんに適正な採用人数などについて助言をいただきながら、適宜、必要な採用も進めていきました。
院内に溢れた不安解消の突破口になったのも、データに基づく詳細なシミュレーション結果です。中村さんと経営戦略室、医事課がかなり密に連携し、「この場合はどうなのか」「このような事態があったらどうなのか」などさまざま場面を想定し、一つひとつ丁寧にアドバイスもらいながら、何度もキャッチボールを重ねてもらえたことは本当に助かりました。
川勝氏:どの病気のどの状態の患者を入棟すべきか、平均在院日数や看護必要度、在宅復帰率などどのような指標に着目して分析を進めていけばいいのかなど、分析の当初からシミュレーションすべき方向性が示されていたので、効率的に効果的なシミュレーションができたと感じています。

川勝氏
――プロジェクトが軌道に乗り始めたと感じたエピソードなどあれば教えて下さい。
河内氏:6月下旬の最後の大きな会議が転換点だったのではないでしょうか。その頃には不安も出し尽くして、皆、腹くくってプロジェクトを推進しようという雰囲気になりました。
須佐美氏:かなり綿密にシミュレーションをしていただいていただので、2024年10月に新病棟を開設しようと決めてから、一気に走り出していきました。その後も季節での違いや最悪の状況を想定するなどさまざまなパターンも加味し、週に何回もシミュレーションを出してもらっていたので、軌道修正しながら走り続けることができました。
当初は看護配置が7対1から10対1になることが一番不安でしたが、徐々に改善しながら移行していくことができました。何より、病棟のスタッフたちに恵まれていたということに尽きます。地域包括医療病棟は、院内だけの連携ではなく、地域連携マネジメント、近隣の後方支援病院へどう繋ぐか、繋ぐ内容に合わせて看護内容を変える、入院期間も21日までという難しさがあるのですが、病棟スタッフたちが自発的に知恵を絞り、創意工夫しながら進めてくれました。
以前からこの病棟はモチベーションが高く、風通しも良かったので、信頼して任せることができました。最終的にこの病棟を選択したというところが、今回のプロジェクト成功につながった大きな転換点だったと思っています。
――「地域包括医療病棟」がどのような体制でスタートし、現状どうなっているのか教えて下さい。
藤川氏:まず、経営会議の場で地域包括医療病棟の導入が決定され、その後に組成されたプロジェクト会議で理事長と院長が初期のプロジェクトメンバーを選出しました。当初は25人くらいでしたが、そこから実際にかかわる医療スタッフなどが加わっていき、最終的には直接的な関係者は70人くらいなりました。

藤川氏
山﨑氏:対象病棟を検討した結果、2024年4月頃から整形外科の患者が多い私が担当する6B病棟がいいのではないかということになったので、プロジェクトメンバーには途中から合流しました。検討資料を拝見すると、すでにさまざまなシミュレーションがなされており、すぐに前向きな検討ができました。シミュレーションのデータはとても役に立っていて、今でもなくてはならない情報です。地域包括医療病棟だけではなく、急性期病棟の看護必要度や重症患者割合などの状況も横目に調整しなければならないので。

山﨑氏
この病棟ではすでに骨折の高齢患者が多く、リハビリテーションや転倒防止、在宅復帰などにも力を入れていました。近隣の療養型病院と看護師同士の交換留学を行ったりもしていたので、副師長たちからの賛同も受け、当病棟は今回の地域包括医療病棟の趣旨に合致しているのではないかとなりました。看護局長に風通しが良い病棟と感じていただけていたことはとてもありがたいです。何事にも協力し合えるスタッフに恵まれていることに感謝します。
2024年10月からスタートした地域包括医療病棟は、これまでの50床から46床に変更。看護配置は7対1から10対1へと徐々に移行していきました。看護師は5人減となりましたが、看護補助者を配置してもらえたことを含めると3人減となります。
西山氏:最初に思ったのはリハビリテーション提供割合の平日休日比8割をどう保つか、そのために365日のリハビリテーション人員体制をどう組むかです。とにかくスタッフ全員で回すというところからのスタートになりました。

西山氏
当院はリハスタッフが31人(2026年1月時点)いるのですが、スタッフからも意見を募った上で、基本的には4人で1チームを5グループに分けて、地域包括医療病棟入所者の代診をローテーションで回していくことにしました。ただ、地域包括医療病棟に関われるスタッフは21人であり、専従2人が要件、かつ病欠中のスタッフが1人いるため18人でローテーションを回すことになり、2人足りません。現在その空き枠は残ったまま運用しています。さらには土日出勤になると平日に代休を取ることでの調整も課題になっています。
松本氏:地域包括医療病棟の施設基準に管理栄養士の専任配置も入っているので、この話を耳にした時から初期のプロジェクトメンバーに入ることは予想していました。特に抵抗感もなく、担当の管理栄養士をどうするかをすぐ考え始めました。管理栄養士の配置基準は1人ですが、当初は手厚く1.5人で配置。その後、徐々に1人配置としました。

松本氏
シミュレーションはとても役に立っていて、使い続けています。これまで、嚥下機能が低下した患者の在院日数が長かったですが、これをどう短縮するかと院内の認識が変わり、病院全体で考えるようになり、アクションしやすくなりました。
――実際の運用で特に苦労した点などあれば教えて下さい。
山﨑氏:外科系病棟から内科系病棟になったことで、スタッフのモチベーションが下がりぎみになったこともありましたが、スタッフの要望や意見に耳を傾け、不安や悩みをタイムリーに解決できるように試みたことで、持ち直すことができました。やはり、モチベーションの維持に大切なことはコミュニケーションです。特に、スタッフのプライベートが充実していないと仕事にも身が入らないので、スタッフの希望をできるだけ叶えるための勤務表作りには苦心しました。また、他の病棟が導入している「誕生日休暇」なども活用しました。
病院全体がさまざまな形でバックアップしてくれたことにも感謝しています。例えば、病棟から手術室へ患者さんを送り出す業務を他の病棟のスタッフが対応してくれるなど、新病棟に対する特別感はモチベーションの維持に大きく影響しました。院内の募集型功労賞を受賞させていただき、その際、大いに盛り上げていただけたことにも大きな達成感を味わうことができました。さまざまな病棟、職種の人たちが新病棟の運営について一緒に考えてくれたことで、「みんなでやっている」という一体感を得ることができました。
西山氏:やはりモチベーションの維持は課題になります。新病棟は基本的に慢性期のリハビリテーションになるので、急性期と比較すると、高度な知識や技術を使う機会が減ります。ただ、患者をいかに在宅へ戻そうと考えることや、他のスタッフとのコミュニケーションは増えます。
現状では土日をしっかりと対応する、それによって生じる平日の空きをどうするかなどシフトをどう組むかに苦心していますが、経営改善に寄与できて良かったです。病棟の定期ミーティングに参加できることも多職種連携を習慣付ける機会と捉えています。
松本氏:栄養部は急性期病棟での勤務を希望する勤続年数が短いスタッフが多いです。ただ、ちょうど回復期リハビリテーション病棟での勤務経験があるスタッフが入ってきたので、今回の新病棟を担当してもらいました。このスタッフが完璧にやってくれたので、まずは一安心することができました。
ただ、今後はもっとこの病棟を盛り上げていきたいので、複数のスタッフで対応できるようにしていきたいです。今の担当スタッフが欠勤したら成り立たなくなりますので。後方支援をしっかりと確保しつつ、ICUにおける早期栄養介入管理加算などさまざまなことをマルチにこなせる管理栄養士がそろってきています。将来的には在宅対応も強化していきたいので、今回のプロジェクトを良い機会と捉えてさまざまなことに取り組んでいきたいです。
川勝氏:準備段階のシミュレーションから実際の運営状況を見ての振り返りや調整、ベッドコントロールの管理表などデータを通じてかかわってきました。常に密なコミュニケーションを取りながら進めてきて思ったのは、コミュニケーションはその時だけではなく、日頃からのコミュニケーションが一番大切ということです。
――今回のプロジェクトを振り返っていかがでしたでしょうか。導入を迷っている病院幹部へのアドバイスなどもあればお願いします。
須佐美氏:プロジェクトという形で色々と進めてきた結果、「プロジェクトが始まった」と院内が一つの方向に向かってすぐに動けるようになりました。「プロジェクト」は当院にとってとても良い共通言語になったと思っています。
今回のプロジェクトで何よりも重要だったことは、「どの病棟に白羽の矢を立てるか」ということだったと思います。つまり、ピンチをチャンスにできる突破口になれる人や風通しが良い病棟をいかに選び出せるかです。プロジェクトには、数字だけではなく、それ以上に「人」の力が必要なので、普段からの雰囲気にしっかりと目を向けることです。新型コロナウイルスのパンデミックの時も、この病棟は乗り越えられた病棟の一つで、常にバタつかずに、協力し合って乗り越えていました。
押栗氏:近畿地方の急性期病院で地域包括医療病棟を導入した病院は当院を含めてごくわずかだったと聞いています。ほかの急性期病院の導入事例では急性期病棟の看護必要度を維持することが主目的で、それ以外のリハビリ系の病院は収益増加が主目的だったそうです。地域包括医療病棟は、病院の立ち位置によって目的も目指す方向性も難易度も異なってきます。当院は結果的に急性期病棟の看護必要度の維持と収益増加の両方をやったので、かなり難易度は高かったですが、その後の振り返りのシミュレーションで、今回の取り組みをしなければ「急性期一般入院料1」を維持できなかったことも分かっています。険しい取り組みではありましたが、決断して良かったと実感しています。
河内氏:最初に導入した中でも当院は最も導入規模が大きかったので、どこにもアドバイスを聞けず、ずっと手探りで、どのような患者を入れるべきかというディスカッションを経て、急性期病棟と地域包括医療病棟の両病棟を見ながら常に振り返りと調整をしてきました。かかわってきたすべてのスタッフに心から感謝します。結果、急性期一般入院料1を維持し、地域包括医療病棟も収益を出し、地域の医療需要にも対応することができました。
数字で分かる結果だけではなく、「変わることを恐れない文化」が根付いたことにも大きな価値を感じています。特に、医師の大量退職もあったので、院内のネガティブな空気を払拭できない状況が続いていました。ただ、今回の取り組みを通じて、院内全体が一つの方向に向かって取り組むことはできるという一つの成功体験になって、そのほかの院内プロジェクトにも前向きに取り組めるようになりました。
経営陣は、「何があってもやり通す」という覚悟が必要と改めて感じます。そして同じく必要なことは、現場のさまざまな質問や不安に耳を傾け、その一つひとつに時間をかけて丁寧に納得してもらえるまで対話を重ねていくことです。それが私たち経営陣の欠かせない役割だと思います。
――本日はありがとうございました。

市立大津市民病院の外観
| 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう) | |
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コンサルティング部門シニアマネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「JHAstis」の社内プロジェクトリーダーも務める。 |
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