事例紹介

2025年10月30日

人財育成研修で「術前浣腸処置」「冠動脈ステント留置術」改善事例多数、市立砺波総合病院

病院名 市立砺波総合病院 設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方 病床数 396
病院名 市立砺波総合病院
設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方
病床数 396
コンサルティング期間 2017年度~

 市立砺波総合病院(富山県砺波市、396床)が、経営改善に取り組む「人財」の育成に取り組み、次々と経営改善を推進しています。地元富山で開催された「第25回日本クリニカルパス学会学術集会」では、術前浣腸処置および冠動脈ステント留置術の改善事例が紹介されました(市立砺波総合病院の関連事例は『KPIマネジメントの導入で増収効果1億円、成果につながる「ツール」「組織」「人財育成」活用方法』『年額換算1億円増収の市立砺波総合病院、病床管理の徹底と加算算定の適正化で』参照)。


医療と経営の質を向上させる「人財」

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、医療の質向上と経営改善を両立できる病院職員を「人財」と呼び、その人財を育成する研修プログラムを提供しています。人財育成研修では、GHCが独自に開発・提供する経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」の活用方法を学んだ上で、コンサルタントのノウハウ・スキルに基づく医療現場を動かすための資料作成方法、プレゼンテーション術などを学びます(詳細はこちら)。

 市立砺波総合病院では、病院の運営方針や経営戦略の企画立案、経営課題の分析と解決などについて、多職種で総合的に取り組むための院長直属部署「総合企画室」を2020年に設置。設置と並行し、院内職員を対象とした人財育成研修がスタートしました。これにより、経営改善の知識やノウハウを身に付けた人財が、院内の各部門で活躍するという流れができてきました。

浣腸見直しで90時間以上の業務削減

 この人財育成研修の卒業生である同院看護部師長代理の間野由紀子氏(写真)が、「第25回日本クリニカルパス学会学術集会」の「医療の質・効率化・タスクシェア/シフト2」の「口演」において、「クリニカルパス見直しによる術前浣腸処置削減の取り組みと効果」と題して発表しました。



 間野氏は人財育成研修の第2期生。看護師(2名)・薬剤師・診療情報管理士で構成されるプロジェクトチーム(第2期生でのチーム編成)に所属し、「後発医薬品の導入(循環器科)」「蜂巣炎パス新規作成(皮膚科)」などをテーマに実践を重ねていきました。その後、3つ目のテーマの選定についてチーム内で議論していたところ、「術前に浣腸しているけれど、大変なんだよね…」という声があがり、手術前に浣腸している病院がどれくらいあるのか、「病院ダッシュボードχ」を用いてデータで確認し、クリニカルパスを見直して術前浣腸を削減できないか検討を始めました。

 浣腸をテーマにあげた背景の1つとして、手術前の忙しい時間帯に浣腸実施のため20分程度の時間を要することで、浣腸はもちろん、そのほかの業務にも影響が出て、手術前のバタバタに拍車をかける状況が常態化していました(以下画像参照:市立砺波総合病院提供)。そこで、しっかりとデータに基づいた改善提案資料を作成し、関係する診療科へ相談したところ、泌尿器科の「ロボット支援下前立腺全摘除術」以外のすべての術式でこの提案を受け入れました。結果、年間で約3万円のコスト削減、90時間以上の業務時間削減につながりました。

 間野氏は「ほかのケアに集中できるようになりました。これまでは排便のあった患者にもルーティンで手術当日浣腸を実施していたため、患者から浣腸の必要性を問われる場面もありましたがそれが不要となり、『患者さんの納得感が向上した』との現場からの声もあがっています。『やらなくてもいい処置』を減らすことで、質の高い医療提供につながっています」と話しています。

PCIの改善提案が他の術式にも波及

 また、ポスター・クリニカルパス展示会場の「パス分析・改訂・データ活用2」においては、同院人財育成第3期生・臨床検査科検体検査係長の蟹谷智勝氏(写真)が「人財育成プロジェクト介入による冠動脈ステント留置術パスの改善」と題して発表しました(ポスター展示は以下写真)。



 蟹谷氏がデータを他病院と比較したところ、冠動脈ステント留置術(PCI)パスに対して、(1)在院日数(2)投薬(3)注射(4)検査――の4つの課題が見えてきました。循環器内科医師にこれらの課題を説明したところ、在院日数の短縮と血糖測定検査の削減については検討が難しそうでしたが、投薬と注射の見直しについては検討できそう、とのリアクションでした。

 投薬はセフゾン(セフジニルカプセル)の実施率が自院は100%である一方、他院は0.7%だったことから、「セフゾンをパスから外せないか」と提案したところ、冠動脈ステント留置術パスだけでなく、冠動脈造影検査(CAG)パスと下肢PTA(血管拡張術)パスからもセフゾンを外してもらえることになりました。また、注射はヘパリンの実施率について、自院が100%だった一方、他院は12.7%だったため「ヘパリンの使用が多い」と伝えると、医師から「他院ではヘパリン点滴をカテ室でしている」と指摘を受け、DPCで包括されるヘパリン点滴をカテ室で実施し、出来高請求できるよう変更を依頼しました。

 これにより、PCIで年間8460円の経費削減、CAGで年間9600円の経費削減、ヘパリン点滴のカテ室請求で年間3万1770円の増収となり、合計で年間4万9830円の経費削減および増収となりました。

 市立砺波総合病院では、自立(自律)的な経営改善の推進体制をより強固なものにするため、引き続き人財育成研修受講者を中心に改善活動を継続するとともに、次世代の改善を担う人財の育成を継続していく方針です。


冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。

神尾 康介(かみお・こうすけ)

コンサルティング部門アシスタントマネジャー。金沢大学医薬保健学総合研究科保健学博士前期課程卒業。理学療法士、医療経営士。訪問看護の経験からマーケット分析・地域連携支援などを得意とし、リハビリテーション経験を活かしたリハビリテーション室の改善提案などを行う。