事例紹介

2025年12月08日

データとアートで人を動かす病院経営の羅針盤、「病院ダッシュボードχ」を複数部門がフル活用|昭和会(いまきいれ総合病院・上町いまきいれ病院)②

病院名 公益社団法人昭和会 設立母体 民間病院
エリア 九州地方 病床数
病院名 公益社団法人昭和会
設立母体 民間病院
エリア 九州地方
病床数
コンサルティング期間

 公益社団法人昭和会が運営するいまきいれ総合病院(鹿児島市高麗町、349床=高度急性期31床、急性期318床=)と上町いまきいれ病院(鹿児島市長田町、101床=回復期54床、地域包括ケア47床=)は2024年度、約3億円の増収を実現しました(関連記事『1年で3億円の改善、データを軸に真面目で優しい病院が見出した活路』参照)。飛躍的な増収の背景にあったのは、「データで語れ」とする徹底したデータドリブン経営による改善推進です。改善推進の一助となった「病院ダッシュボードχ(カイ)」について、昭和会事務局長の堀雅之氏、いまきいれ総合病院事務長の御供田貴之氏、法人事務局経営企画課課長の山内久法氏、法人事務局経営企画課主任の瀬戸山保広氏および日髙亮平氏にお話を伺いました。「病院ダッシュボードχ」は、単なる定量的なデータ確認ツールではなく、院内の関係者を動かすための定性的なアプローチを担う「アート」の側面も支援。結果、院内の複数部門がフル活用する病院経営の羅針盤として機能していました(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン広報担当の島田昇)。


右下から時計回りで堀氏、御供田氏、山内氏、瀬戸山氏、日髙氏

各部門が単独で経営改善を推進

――業務改善を推進する院内体制と、その中で「病院ダッシュボードχ」がどのように活用されているのかを教えて下さい。

堀氏:さらなる経営改善を目指す「業務改善プロジェクト」は、昭和会の法人事務局、いまきいれ総合病院および上町いまきいれ病院からそれぞれ選出されたコアメンバーが推進しています。事務局とコアメンバーが軸となり、GHCのコンサルティングでのアドバイスをもらいながら案件ごとにワーキングチームを設け、日々、改善活動を行っています(「図表1」参照)。

【図表1】業務改善プロジェクトの実施体制。コンサルティングを活用しながら主に事務局やコアメンバーが随所で「病院ダッシュボードχ」を活用する

 「病院ダッシュボードχ」は、主にこうした改善活動を推進する上でのバックデータとして活用しています。事務局やコアメンバーが、さまざまな会議の資料作成、各診療科や各部門に改善提案する際のデータ作成などが主な用途です。それぞれの案件ごとに各部門の責任者を交えて案件を進めるのが基本スタイルになります。各部門の月例会議での基礎資料、半期に一度の理事長・院長と診療科部長との面談などにも活用しています。

 事務局やコアメンバー以外の診療情報管理課、医事課、薬剤課、総務課、広報連携企画室、看護部などでも積極的に活用しています。例えば、総務課は使用薬剤のベンチマーク分析を通じて他の病院がどのような薬を使っているのかを調べたり、広報連携企画室では紹介・逆紹介の状況を可視化できる機能の「地域連携分析」を活用して周辺医療機関の情報を収集したりしています。

――多くの部門でご活用いただきありがとうございます。もう少し具体的な活用事例をお伺いできますか。

山内氏:薬剤課はクリニカルパス委員会でパス修正をする際などにも活用しています。薬剤ベンチマークで自病院と他病院の使用薬剤の違いをデータで可視化し、そのデータを根拠に医師へ薬剤変更を提案したところうまくいったこともあり、それ以来、薬剤課は「病院ダッシュボードχ」をよく活用しています。最近では、我々が同行することもなく、薬剤課が各診療科の課題を発見し、単独で現場を訪問し、医師などと交渉して薬剤変更を提案するということもあります。

【図表2】薬剤ベンチマークのイメージ(「病院ダッシュボードχ」の「パス分析」※データはダミー)。上のグラフが薬剤の平均金額のベンチマーク分析の結果で、横軸に病院が並び、縦軸で各病院の平均金額を示している(真ん中あたりにある青の棒グラフが自病院の値)。中央の表が使用薬剤とその症例数の一覧(左が自病院、右が全国の病院)。下のグラフが後発品使用割合(同)。

 そのほかにも入院患者の平均在院日数が全国平均を上回る「期間II超」の症例比率が高い診療科があったら、診療情報管理士や看護師が「病院ダッシュボードχ」からデータを出して当該診療科へ行って医師と交渉することもあります。やはり「病院ダッシュボードχ」のデータは分かりやすく、説得力もあるので、院内のさまざまな関係者が自発的に利用してくれているという状況になりつつあります。

御供田氏:これだけ使い始めるようになったのは、毎月データが更新されるようになったことが大きいと思います。当院は「病院ダッシュボードχ」の前身である「病院ダッシュボード」(昭和会は2013年導入)の頃から使わせてもらっていますが、当時はデータ更新を3か月ごとにしていたので、どうしても使用頻度が上がらず、使う人も限られていました。やはり医療の現場はリアルタイムでさまざまな課題が発生しているので、データの更新頻度を高めたことは利用頻度の高まりとリンクすると思います。

山内氏:2019年7月に今給黎和幸理事長が就任したことも大きいと思います。「どんなことでもデータで語れ」という方なので、院内の状況をすぐにデータで確認できる「病院ダッシュボードχ」がさまざまな部署で重宝される状況を後押ししたのではないでしょうか(理事長インタビューは『1年で3億円の改善、データを軸に真面目で優しい病院が見出した活路』参照)。

単なる報告書ではなく「行動計画の起点」

――「病院ダッシュボードχ」を使いこなしていただきありがとうございます。ユーザーの皆様が使いこなせるようになるため、弊社ではさまざまな情報発信やセミナーを提供させていただいています。どのようなサービスをご活用されましたか。

山内氏:ここにGHCが提供する情報発信サービスの受講記録(図表3参照)があるのですが、これを見ると、2022年以降に「GHC病院経営データ分析塾」(「病院ダッシュボードχ」ユーザー向けセミナー)、「スタートアップ研修」(「病院ダッシュボードχ」の使い方や資料作成・プレゼン方法の研修会)、「無料ミニウェビナー」(病院経営関係者であれば誰でも受講できる無料セミナー)を多数受講しています(GHC主催セミナーの詳細はこちら)。

 そのほかにも「診療報酬改定セミナー」、「GemMed塾」(GHCが運営する医療行政ニュースサイト『GemMed』の記者が講師を務めるセミナー)、「LEAP JOURNAL」(当社コンサルティング、「病院ダッシュボードχ」およびDPC分析ソフト「EVE」のユーザーが購読できる月刊ベンチマーク・レポート)、「GHCプレミアムセミナー」(外部講師を招いて開催する有料の不定期セミナー)なども利用しています。「LEAP JOURNAL」はテーマによって薬剤課も見ているなど、ほとんどのGHCの情報発信サービスを院内の誰かが活用しているという状況です。

【図表3】昭和会の職員が2022年以降に受講したGHC情報発信サービスの一部

御供田氏:年2回発行の「病院ダッシュボードχ経営分析レポート(夏・冬)」(図表4参照)も毎回、現場へのフィードバック資料として活用しています。特に、症例数、期間II超率、手術症例数、1日単価を月次推移で確認し、現状の強みや課題を明確化できるところが良いと思っています。この分析結果をベースに半期に一度の理事長・院長と診療科部長との面談で「どの領域を伸ばすか」を議論。このレポートは単なる報告書ではなく、我々の「行動計画の起点」にもなっています。

【図表4】年に2回発行する「病院ダッシュボードχ経営分析レポート」のイメージ(※データはダミー)。経営重要指標の月次推移とベンチマーク結果などが確認できる

堀氏:先ほども触れましたが、理事長交代のタイミングで院内に「データで語る」という機運が高まってきたことも影響しています。定期的に情報発信していただき、しかもそのほとんどが無料ということもあるので、院内の多くの関係者が使わない手はないと考えています。

院内を巻き込む「人を動かすツール」

――ご活用いただきありがとうございます。みなさまは個別にそれぞれ、「病院ダッシュボードχ」をどのような場面でご活用いただいていますか。

瀬戸山氏:各部門責任者との月例会議、診療科部長面談で使う資料を作成する際に「病院ダッシュボードχ」を活用しています。「病院ダッシュボードχ」で抽出したデータはすでにコアな情報なので、その情報をいかに医師など医療現場の関係者に伝わる資料にするかがチャレンジポイントです。具体的にはどのテキストを目立たせるか、文字配置や色・フォントを変えるなど細かなことではありますが、伝わった時の反応は明らかに違うので、常にプレゼン時の現場の反応を注視しています。例えば、「この数字はどういう意味があるの?」など逆質問されることがよくありますが、こういう時は大体うまく伝わっています。そういう状況を再現し続けることをイメージした資料作成を心がけています。

日髙氏:同じく月例会議と診療科部長面談の資料作成をしていますが、「病院ダッシュボードχ」のTOP画面にある各KPIをまとめた「急性期病床の成績表」(図表5参照)が非常に見やすいこともあって、これを起点とした流れで情報を見せるようにしています。導入としてはTOP画面の各KPIで十分に伝わるかと思うので、例えば「期間II超率」や平均在院日数などのKPIに「どうしてこの数値が低いのか?」などの反応があった際に、ここからさらにデータを掘り下げて、一緒に要因を追求していける仕組みが良いと思っています。

【図表5】「病院ダッシュボードχ」TOP画面(画像は「急性期」タブを表示 ※データはダミー)。重要経営指標の数値とベンチマーク結果が一目で分かる

御供田氏:「病院ダッシュボードχ」から入手できる各種重要経営指標の月次数値は、執行部が必ず毎月見ています。中でも「期間II超率」は毎月かなり改善している実感がありますが、「病院ダッシュボードχ」は全国の病院と病床規模別でベンチマークした結果を示しているので、上に行くほど簡単に順位は上がらない。つまり、「何となく良くなっている」ではなく、常に「全国平均比でどうか」を判断できるところがありがたいと思っています。

 例えば、最も「期間II超率」や平均在院日数を短縮できたのは整形外科。2年前に30日くらいだった平均在院日数が現状は20日を下回っています。「病院ダッシュボードχ」は「地域連携分析」の機能もあるので、これを活用しながらどういう後方連携先があるのかも合わせて調べられるのは良いです。

 平均在院日数短縮の背景には、隣接するキラメキテラスヘルスケアホスピタル(鹿児島市高麗町、198床=回復期リハビリテーション病棟92床、地域包括ケア病棟45床、地域一般病棟9床、医療療養病床52床=)との連携もあります。具体的には同院の職員が朝のカンファレンスに毎日参加いただき、そこで両院のベッドの空き状況を見て、調整する連携をしています。少し離れていますがグループの上町いまきいれ病院も週1回、朝のカンファレンスに参加し、同じように連携しています。

堀氏:私自身が頻繁に使っているわけではないですが、「病院ダッシュボードχ」で作成された資料を定期的に見ています。個人での活用においては、「係数分析」をよく見ています。先ほども「期間II超率」が改善してきた話がありましたが、これに伴っていつも成績が悪かった「効率性係数」が良くなってきました。これをもっと良くしていくためには、新患者数と単価をもっと上げないといけないと思っています。

――最後に今後の目標やご要望等などあれば教えて下さい。

山内氏:さらなら紹介患者の確保、「期間II超率」減少を目指し、「地域連携分析」をもっと活用して前方・後方連携の両方を強化したいと考えています。また、毎回のコンサルティングでGHCから提出される資料がとても見やすく分かりやすいので、我々もコンサルタントの資料作成術の技を盗みつつ、より良い資料を作成していきたいです。

瀬戸山氏:我々が作成する資料を通じて、幹部の行動変容のみならず、現場のスタッフ層の行動変容も促していきたいと思っています。理事長からも「何が課題なのかが職員全体に浸透するような資料を作ってもらいたい」と言われているので、期待に応えられるよう、見せ方、伝え方をよりブラッシュアップしていきたいです。

いまきいれ総合病院の外観

日髙氏:「病院ダッシュボードχ」のすごいところはデータの可視化です。常にデータを気にする現場の医師たちが、そのデータの変化にすぐ気付いて注目する機会が増えれば、そこを深掘って一緒に課題を確認できます。そういう機会をもっと増やしていきたいと思います。実名で周辺医療機関の状況を確認して比較できる「マーケット分析」も使い勝手が良く、今後もこうしたさまざまな機能を幅広く活用していきたいです。

御供田氏:鹿児島の急性期病院としてのあるべき姿、立ち位置を確認するためには「病院ダッシュボードχ」が必要です。「病院ダッシュボードχ」は「病院経営の羅針盤」であり、さらなる魅力はデータの見える化のみならず、院内の関係者を巻き込むための「人を動かすツール」であるところだと思います。今後もこの「病院ダッシュボードχ」で示される成績をより良いものにできるようにしていきたいと思います。

 当院はコンサルティングを活用して10以上の部署と連携して改善活動を推進しており、私はその橋渡しとなるファシリテーターの役割があります。今後は事務局の我々が見て動くだけではなく、いかに院内全体で各自が自発的に動けるように促すかが重要です。その結果をしっかりとデータで見ていきながら随時、修正し、より良い改善活動を推進できるようにしていきたいと考えています。コンサルタントは全国の病院の経営状況を知っていますが、医療現場にはそれぞれの現場の意見があります。私はその調整役として、「ほかのところはこうしているからまずはここからやってみよう」などの落とし所を探りながら、コンサルタントの知見も活用させていただきながらより良いファシリテーションを目指していきたいと思います。

上町いまきいれ病院の外観

堀氏:「病院ダッシュボードχ」に期待するところは皆が言ってくれた通りで、可視化においては「病院ダッシュボードχ」の右に出るシステムはないと感じます。業務改善プロジェクトを推進していて思うのは、人はデータだけでは動かないということです。データをいかに分かりやすく可視化するかはもちろん、各現場が我々事務局の取り組みを理解してもらえるよう、日々の医療現場での努力を尊重しつつ、しっかりと現場との信頼関係を作っていくことも重要です。むしろ、データとこの信頼関係がマッチしないと、人は動きません。人を動かすには「データとアート」の両方が必要で、定量的な部分と定性的な部分の融合が欠かせないと感じています。病院の経営改善における人を動かすためのデータとアート、GHCはこの先駆者だと思っていますし、その強みをさらに研ぎ澄まさせていってもらいたいし、我々もそうありたいと願っています。

――本日はありがとうございました。

連載◆昭和会(いまきいれ総合病院・上町いまきいれ病院)
(1)1年で3億円の改善、データを軸に真面目で優しい病院が見出した活路
(2)データとアートで人を動かす病院経営の羅針盤、「病院ダッシュボードχ」を複数部門がフル活用  


中村 伸太郎(なかむら・しんたろう)

コンサルティング部門シニアマネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「JHAstis」の社内プロジェクトリーダーも務める。