お知らせ

2022.08.31

「急性期死守」「今こそビジョン」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催

日本病院会は8月3日、「中小出来高病院経営管理者向け研修会」を開催しました。新型コロナウイルス感染拡大から2年が経過したものの、依然として感染拡大が収まらない状況であるため、引き続きオンラインによるweb形式で開催。92病院、129人の申込みがありました。


テーマは「2022年度診療報酬改定を踏まえ、中小病院の経営を考える」。演者は、日病副会長で診療報酬検討委員会副委員長である北多摩病院(東京都・269床)院長の万代恭嗣氏、社会保険田川病院(福岡県・335床)経営企画室長の小塩誠氏、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)のコンサルタントでアソシエイトマネジャーの佐藤貴彦が務めました。


講演する日本病院会の万代恭嗣副会長

講演する日本病院会の万代恭嗣副会長


講演では、「急性期」を死守するための取り組みや、今後の病院経営の軸となる「ビジョン」策定までの取り組み事例などが紹介されました。


新ツール「JHAs+」のサービス開始


同研修会は、日本病院会の会員病院で、出来高算定病院が対象です。


JHAstisは、出来高算定病院が重要な経営判断を行う際に活用できる経営分析レポートです。JHAstisユーザーは、専用ソフトを用いて、匿名化した診療データを日本病院会へ提供するだけで、経営の改善に資する情報を掲載した以下のレポートを受け取ることができます。

●経営重要指標レポート:毎月把握すべき主要な経営指標
●増収対策レポート:加算等算定強化、増患などの具体的な手法を病院経営の専門家が解説
●エグゼクティブレポート:時間のない院長など病院幹部が改善状況を俯瞰
●病床機能別レポート:個別の病床機能に特化した分析。入棟中の診療状況等を他病院比較
●臨時レポート:診療報酬改定レポートなど随時トレンドを独自視点で分析

一昨年度からレセプトデータのみではなく、より詳しく精度の高いベンチマークデータを示せるDPCデータも活用した経営分析レポート「JHAstis2.0」へとバージョンアップしました。


また、今年度からのJHAstisから経営分析レポートの動画解説や分析用の新ツール「JHAs+(ジャスタス)」の配布(図表)など新サービスも提供しております。



「ダウンサイジングはほぼ必須」


研修会ではまず、万代氏が「今後の医療提供体制と中小病院における診療報酬改定への対応」と題して講演。社会保障制度改革国民会議の論点と2022年度診療報酬改定のポイントを押さえた上で、自病院の取り組みについて紹介しました。


柱となるのは、「急性期一般入院料4」の維持と向上。今回の改定で、「心電図モニターの管理項目の廃止」「注射薬剤3種類以上の管理への変更」などで重症患者割合の充足はますます厳しくなりました。これを受けて、最適な重症患者割合を目指すための医師向けの手引きを医事課と共同で作成しています。救急医療管理加算への対応でも院内のチェックシートを作成。担当医師の認識違いや加算算定漏れを防ぐための取り組みをしています。


また年々厳格化していく診療報酬や主要疾患患者数の将来推計などを考慮し、「200床未満へのダウンサイジングはほぼ必須」と明言。急性期機能の死守に向けて病床再編は免れないとの認識を示しました。


ビジョンに導く5つの問い


続いて、社会保険田川病院の小塩氏が「診療報酬改定と人口減少先端地域の生き残り戦略」と題して講演。多くの医療機関がひしめき合う田川医療圏の中で、中長期的な視点での経営戦略を推進するため、その軸となる「新経営ビジョン」をどのように設定したのかについて紹介しました。


講演する社会保険田川病院の小塩誠経営企画室長


同院の新経営ビジョンは、「ミッション(我々の使命)」「ビジョン(目指す姿)」「バリュー(行動指針・価値基準)」「ドメイン(事業領域)」から成り立ちます。新経営ビジョン策定に向けては、経営陣と新たな経営理念を明文化するため、(1)我々の顧客は誰か(2)顧客にとっての我々の価値は何か(3)顧客の価値を踏まえた我々の使命は何か(4)我々にとっての成果をどのように定義するか(5)我々にとっての計画は何か(ビジョンと戦略は何か)――の主に5つの問いについて、全19回の議論を積み重ねてきました。


円滑な議論を推進するため、「批判はしない」「アイデアを引き出す」「質問する」「参考資料を出す」などビジョン策定の事務局は、課題の指摘や具体策の提案を極力避けて、双方向での対話を重視しながら新経営ビジョンを作り上げてきました。


限られたマンパワーでもできる経営改善とは


佐藤は「限られたマンパワーで経営改善を進める組織になろう」と題して講演。経営幹部は、職員と連携して▽課題抽出▽対策検討▽対策実践▽モニタリング――のサイクルを回し続けて経営改善を推進していくことが理想的です。ただ、職員数が少ない中小病院であれば、モニタリングと課題抽出の部分だけでもJHAstisのような経営分析レポートを活用し、限られたマンパワーでもできる経営改善の手法を模索すべきだとしました。


閉会の挨拶をしたJHAstisの担当役員で日本病院会の大道道大副会長は、「自病院は何ができるのか、地域のニーズは何なのか、その辺が理解できていない先生方が多いのではないか。厳しい経営環境の今だからこそ、JHAstisのような経営分析レポートを活用し、データに基づいた経営を実践していただきたい」として研修会を締めくくりました。


佐藤 貴彦(さとう・たかひこ)

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門コンサルタント。慶應義塾大学文学部卒。医療介護系ニュースサイトを経て、GHCに入社。診療報酬改定対応、集患・地域連携強化、病床戦略立案などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「日本経済新聞」などメディアの取材対応や、医療ビッグデータ分析を軸としたメディア向け情報発信を担当。日本病院会と展開する出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」を担当する。