2025.07.24
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)は7月24日から開催の第75回日本病院学会のランチョンセミナーで、「カイゼンを超えたLeap (飛翔) を実現する~不確実性の時代における病院経営のポイント~」と題して講演しました(当日の配布資料はこちら)。演者はGHCマネジャーの中村伸太郎(写真上)、座長はGHCアソシエイトマネジャーの水野孝一(写真下)が務めました。
賃上げ、物価高騰、診療報酬改定などの影響で、病院経営を取り巻く環境は厳しい現状です。中村はこれからの病院経営について、「経営改善、医療の質向上」と「働き方改革」を両立し続けることが必須であると指摘。その上で、(1)戦略的な「集患対策」と「病床管理」(2)多職種協働による「医療連携・チーム医療推進」(3)全体最適を推進する「生産性向上」――のアジェンダにそって、具体的な事例やデータ分析を交えながら経営改善の手順を解説しました。本稿では戦略的な「集患対策」の一部についてご紹介します。
データ分析にはGHCが開発・販売する病院経営支援システム「(カイ)」あるいは完全無料の経営分析ツール「病院ダッシュボードχ ZERO」を用いました。GHCは1000病院超のDPCデータを保有しており、極めて精度が高いベンチマーク分析が可能です。「」の基本機能である地域連携の状況を分析する「地域連携分析」はDPCデータのほか紹介データも用いることで、紹介患者の状況を可視化できます。中村は「」について、「分析ツールではあるが、単なるデータ分析ではなく、課題解決を前提とした改善ツールとして使っていただきたい」と紹介した上で、具体的な集患対策を解説しました。
集患対策はまず、「紹介患者がどの程度入院しているのか」「自院の目指すべきポジション」について検討します(以下図表参照)。一般的には紹介患者の入院が多く、手術が多いほど収益が増えます。そのため、紹介件数と入院移行率のバランスが重要です。収益のみを考えた場合、件数が多く入院移行率も多いことがベストではありますが、医師のマンパワーを考えると、件数は標準だが入院移行率が高いことを選択することも戦略の一つになります。
「」を用いれば、紹介元施設ごとに数字を確認できるので、イメージと現状のギャップを埋めていくことができます。以下の図表は横軸に病院の個々のデータが並んでいます。左の縦軸が紹介件数で、棒グラフの紹介件数のうち「入院・手術あり」「入院・手術なし」「入院なし」を色別に表記。右の縦軸では入院移行率(丸で表示)を見ています。このようにデータ紹介元施設からの紹介患者の詳細を確認することで、「優良先と考えていた病院は、イメージ通りの件数・入院移行率か?」「想定以上に紹介してくれている施設はないか?」などの重要な改善ポイントをデータで確認できます。
診療科別や疾患別の紹介患者が、どこの医療機関経由で増減しているのかなども分かります。以下の図表左は整形外科の紹介患者のうち、疾患別(手術有無でも分類)に入院件数が多い順で並べました。図表右は地図上に周辺医療機関からの紹介貢献度をスコア化(「地域連携分析」ではスコア算出の基準を自由に設定できます)してプロットしたものです。こうすることで、疾患別にどこの医療機関から紹介患者を増やすべきか、どこの医療機関へ症状が落ち着いた患者を戻すべきか(逆紹介)を、明確な数字でしっかりと把握できます。こうすることで、想像ではなく、明確な事実に基づいた実効性のある戦略的な集患対策を立てられます。
中村は集患対策が重要になる背景の一つとして、次期診療報酬改定に向けた厚生労働省の動向を紹介。7月3日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」では、「入院期間IIについて、実態を踏まえてより短く設定してはどうか」との意見が出ています(詳細はこちら)。入院期間IIは全国の平均在院日数を基準とした期間で、この期間内に入院患者が退院すれば、病院が得られる1日あたりの報酬が大きく下がらない設計です。一方、より早期に退院できる患者の入院を入院期間IIぎりぎりまで継続させるインセンティブにもなっていると問題視されています。厚労省の動向を踏まえて中村は、「入院期間IIが短くなり、各病院の平均在院日数が今よりも短くなれば、収益を左右する病床稼働を維持するため、今まで以上に新規患者を増やさないと病院経営が成り立たなくなる。こうした厚労省の動向を注視しつつ、院内でどう対策すべきか、常に早め早めの議論をすることが大切」と訴えました。
また今回のランチョンセミナーでは、先日開催された「第27回日本医療マネジメント学会学術総会」でのランチョンセミナー(詳細はこちら)と同じく、参加施設限定特典として「財務・生産性分析レポート」を無償提供されました。DPCデータ、財務データ、人員配置データを用いてベンチマーク分析し、財務状況や職員の生産性の課題を可視化するというものです。
なお、DPC分析ソフト「」や「」、「病院ダッシュボードχ ZERO」を利用する病院は、毎月発行する経営分析レポート「」を無料で購読することが可能です。ご購読がまだの方はこちらよりお申し込みください。「病院ダッシュボードχ ZERO」のお申し込みはこちら。
中村 伸太郎(なかむら・しんたろう) | |
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コンサルティング部門マネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「」の社内プロジェクトリーダーも務める。 |
水野 孝一(みずの・こういち) | |
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コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。 |
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