2025.10.29
日本病院会は9月4日、「中小出来高病院経営管理者向け研修会」をオンラインによるweb形式で開催。110施設を超える病院からの申し込みがあり、当日リアルタイムで96人が参加しました(後日オンデマンド配信あり)。
演者は、国際医療福祉大学 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部医療マネジメント学科大学院医学研究科教授の石川ベンジャミン光一氏、社会医療法人若弘会 若草第一病院 健康情報部部長の井上寛氏、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)のコンサルタントでシニアマネジャーの中村伸太郎が務めました。
医療・介護需要の急増と医療従事者の不足がピークを迎えると見られている2040年に向けて、中小病院が走り出す方向を見誤らないために必要なことについて、石川氏(以下写真)がさまざまなデータを用いながら見解を述べました。

石川氏は「日病データのご紹介とデータから見える中小病院の経営課題について」と題して講演。日病と国際医療福祉大学が共同研究し、日病の会員に向けて提供する「日病データ」(人口・患者数・診療件数等の外部環境に関する情報を各種統計調査・オープンデータ等に基づいて整備・提供するもの)を紹介した上で、「2040年に向けた長期展望~走り出す方向を見誤らないために~」をテーマに、(1)地域類型に基づく制約~人口減少と高齢化のスピードを正しく理解する~(2)医師数を中心とした職員数の制約~診療規模と病床機能の着地点を定める~(3)医療機関機能を見定める~傷病・病床機能・診療圏に基づいて役割を明確化する――の3つの論点について解説しました。
(1)の「地域類型に基づく制約」については、100万人以上が居住する二次医療圏の「大都市」と居住者が20万人を下回る「過疎地域」、その間に位置する「地方都市」の3つの地域類型ごとに中小病院の役割が異なります。例えば、大都市では何十万人という規模の急激な高齢化にどう対応するか、過疎地域では労働人口が減る中で医療従事者をどう確保するかなどです。中小病院は2026年度から始まる「新たな地域医療構想」に向けた長期展望を描く前に、まずは「日病データ」などを用いて、地域における医療提供のグランドデザインの中で、自院のポジションを確保することが重要であるとしました。
続いて、井上氏(以下写真)が「社会医療法人 若弘会 わかくさ竜間リハビリテーション病院 JHAstis活用事例報告」と題して講演。500床(回復期168床:4病棟、療養254床:5病棟、障害者78床:2病棟)の病床規模、主な経営指標や病棟転換の実施状況などを紹介した上で、JHAstis活用事例を報告しました。

わかくさ竜間リハビリテーション病院では、(1)算定漏れの発見(2)ハイリスク薬の薬剤管理指導料の算定(3)退院時診療状況添付加算の算定(4)療養病棟への入院経路比較(5)渉外活動の成果を示す――の大きく5つ場面で活用していました。例えば、(1)の「算定漏れの発見」では、JHAstisの「病床機能別レポート」で、障害者病棟の「手技料他院の算定率TOP50」を見ると、「調剤料(入院)」と「CRP」の実施率がいずれも「0%」になっており、他院と比較して明らかに低い(調剤料「84.2%」、CRP「63.0%」)ことが判明。確認したところいずれもシステム的な対応に問題があり、これらを修正して無事、算定率を正常化し、増収に貢献しました。
井上氏はJHAstisの特長について、▼算定情報のベンチマークから実際に収益の改善に繋がった▼問題点が効率的に把握できたことで、取り組む時間が確保しやすかった▼定期的に「レポート」が送られてくるので忘れることなく確認することができた▼「レポート」は問題点の有無に関わらず、経営陣にも転送して情報発信した▼ベンチマークは、病棟の運用内容によって単純比較できないことがあった▼JHAstisを継続活用することで、前年度比較ができたので、他病院とのベンチマークができない場合に活用できた――などを挙げて講演を締めくくりました。
中村は「JHAstisを活用した経営改善の取り組み」と題して講演。中小出来高病院を取り巻く環境の変化について、在宅医療の需要が増加する中、それを支える医療機関の役割や機能の充実が期待されている一方、関連する加算の算定状況は決して多くないと指摘。介護保険施設等と平時から連携体制を構築した上での入院を評価する「協力対象施設入所者入院加算」、容態が急変した在宅患者の入院を円滑に行い、継続的に患者の意向を踏まえた医療を提供することを評価する「在宅患者緊急入院診療加算」などを取り上げ、JHAstisの経営分析レポートを活用した改善活動の進め方などを紹介しました。
同研修会は、日本病院会の会員病院で、出来高算定病院が対象です。
JHAstisは、出来高算定病院が重要な経営判断を行う際に活用できる経営分析レポートです。JHAstisユーザーは、専用ソフトを用いて、匿名化した診療データを日本病院会へ提供するだけで、経営の改善に資する情報を掲載した以下のレポートを受け取ることができます。
●経営重要指標レポート:毎月把握すべき主要な経営指標
●病床機能別レポート:個別の病床機能に特化した分析。入棟中の診療状況等を他病院比較
●増収対策レポート:加算等算定強化、増患などの具体的な手法を病院経営の専門家が解説
●エグゼクティブレポート:時間のない院長など病院幹部が改善状況を俯瞰
●診療報酬改定レポート:診療報酬改定に必要な情報を提供
レセプトデータのみではなく、より詳しく精度の高いベンチマークデータを示せるDPCデータも活用。経営分析レポートの動画解説や、分析用の新ツール「JHAs+(ジャスタス)」も提供しています。

| 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう) | |
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コンサルティング部門シニアマネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「JHAstis」の社内プロジェクトリーダーも務める。 |
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