お知らせ

2019.04.23

激戦区でも患者3割増の大原綜合、強み明確化で上昇気流の名古屋掖済会―GHCが地域連携の特別講座開催

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)は3月15日、急性期病院が患者数の増加を目指し、周辺地域の医療機関との連携を強化するための特別講座「事例から学ぶ!“増患”のための地域連携活用術!!」を開催。全国から42病院、62人が参加しました。

 地域連携の成功事例として、いずれも急性期病院の激戦区である2病院が講演。福島県福島市にある大原綜合病院(353床)は、周辺の医療機関からの患者紹介データの分析を軸とした各種取り組みで、紹介件数が3割増加しました。愛知県名古屋市の名古屋掖済会病院(602床)は、自病院の強みとPRポイントを明確にした上で、周辺医療機関との関係構築をデータ分析に基づき効率的に推進。紹介件数が上昇気流に乗り始めました。



特別講座の様子。参加病院は自病院のデータを提出することで、GHCが開発・提供する【地域連携分析】(病院ダッシュボードχの機能)を自病院のデータで確認することができる。


「入院移行率の概念が斬新」


 大原綜合病院の事例紹介は、総合患者支援センター地域連携相談室長の菅野雅博氏が講演。室長就任の5年前と比較して、2018年度の月平均紹介件数は30.8%増の1165件、月平均紹介率は18.6ポイント増の85.1%になっています。


菅野氏


 患者紹介の件数・率を大幅に向上させる要になったのは、データ分析です。現状の紹介患者データを把握し、紹介件数が大きく増加あるいは減少した医療機関などを訪問し、増加した医療機関へは引き続き紹介してもらえるよう、減少し
た医療機関へは減少の理由をヒアリングし、再び紹介してもらえるようになるための各種施策を実践してきました。


 ただ、データ分析はこれまで、菅野氏が中心となり、定期的に2、3日かけてデータを収集、整理、分析する手間がかかっていました。しかし、DPC分析ソフトをベースにした次世代型病院経営支援システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」に、紹介データとDPCデータを組み合わせて分析できる【地域連携分析】が搭載された2018年11月以降、「データ分析の手間が大幅に減り、周辺医療機関との関係強化に向けた企画や戦略に時間をかけられるようになった」(菅野氏)としています。


 【地域連携分析】の活用でもう一つ大きかったことは、「入院移行率という概念が斬新だった」(菅野氏)ということです。紹介件数をいくら増やしても、急性期病院であれば、その紹介が入院や手術につながらなければ、外来診療が忙しくなり、そのために入院医療がおろそかになるようなことになれば、本末転倒です。そのため、医療機関ごとに紹介患者のどれくらいが入院や手術につながっているかが分かる「入院移行率」や「手術移行率」という概念でデータを見える化することで、データ分析の手間が省けることはもちろん、優先して関係を強化すべき医療機関を瞬時に判別することができるようになります。





【地域連携分析】のイメージ。入院移行率など前方連携に必要な情報がひと目で分かる(上図が周辺の医療機関ごとに紹介件数や入院移行率(上図上)、疾患別に紹介件数や症例単価(上図下)を確認できる画面。下図が収益貢献度で周辺の医療機関を色分けすることで、関係強化の優先順位をひと目で把握できる「スコアリングマッピング」(下図右)と、紹介件数の変化を医療機関ごとに経年比較できる画面(下図左))


 菅野氏は、「データ分析ソフトを用いて、会議資料や医師へのヒアリング資料を作成することは一般化してきた。これからは、収益増、紹介増、職員のモチベーション維持などの明確な成果を目的に、データ分析ソフトを活用する姿勢が欠かせない」と指摘しました(大原綜合病院の地域連携の取り組み詳細については『データ加工なしで効率的な地域連携を推進、右肩上がりの集患戦略に弾み』をご覧ください)。


病院の進むべき方向性を明確に


 名古屋掖済会病院の事例は、医療連携室長の太田雅博氏が登壇し、これまでの前方連携強化の取り組みを紹介しました。


太田氏


 名古屋掖済会病院においても、紹介患者数は増加傾向にあり、4年前と比較して2018年の年間紹介患者数は10.4%増の1万9929人。ただ、全国的に入院患者が減少しつつある中、この現状に満足していない経営幹部は、太田氏にさらなる患者の紹介件数を増やすよう指示したことで、GHCがコンサルティングに入ることになりました。


 GHCの支援で大きな転換となったのは、「自病院の強みは何か」ということを再確認したことです。「救急が強い」など同院の明確な強みがある一方で、入院につながる紹介件数を増やすための強みが何かということを考えると、すぐには答えが出てきませんでした。そこで現状の紹介患者のデータを分析し、しっかりと現状と課題を踏まえた上で考えていくと、安定した予定入院かつ手術有りの患者を増やすことが重要であるということが見えてきました。具体的には、がんの手術につながる消化器内科を自病院の強みにすべきであり、それが増患(集患)対策のターゲットであることが見えてきました。


 次に大きかったことは、周辺医療機関へ渡す魅力的な診療科案内のパンフレットを作成したことです。消化器内科の紹介件数を増やすと決め、【地域連携分析】を活用することで優先して関係強化を目指すべき医療機関も分かりましたが、その医療機関を訪問するきっかけが見えてきません。そこで、該当する院内の医師へヒアリングした上で、診療科案内のパンフレットを作成することになりました。実際に医師へ耳を傾けると、普段は聞けない診療科の強みや弱み、特徴を多数引き出すことができました。



診療科ごとに「3つのポイント」など共通のフォーマットで分かりやすくデザインした


 パンフレットを作成したことで、周辺医療機関へ訪問するきっかけができ、それ以降、紹介件数も前年同月比で着実に増加しつつあります。


 太田氏は「データ分析に基づく戦略的な医療機関への訪問は有効。収益確保のためには、病院の進むべき方向性を明確にし、増患を促すための前方連携強化は欠かせない」としました。


地域連携は「競合に負けたらそれまで」


 また、今回の特別講座の特徴の一つとして、「参加病院は病院ダッシュボードχを用いて自病院のデータを分析できる」点があげられます(病院ダッシュボードχの未導入病院も事前にデータ提出することで確認することができます。データ未提出病院はダミーデータを活用し、どのようなデータに着目すべきかを確認しました)。参加病院はそれぞれ、自病院のデータが反映された病院ダッシュボードχを操作し、周辺の医療機関からどのような患者がどれくらい紹介されているのか、現状を確認しました。


 さらに、グループワークも実施。各病院で使っている診療科案内のパンフレットを閲覧し合い、それぞれの強みや特徴を説明し合った上で、周囲の医療機関に伝わるパンフレットの条件などについてディスカッションしました。


各病院が持ち寄った診療科案内などの周辺医療機関に向けた広報用パンフレット


 【地域連携分析】の開発者で、今回の特別講座の司会を担当したGHCコンサルタントの太田衛は、「病院経営におけるデータ分析は、クリティカルパスの見直しやコスト削減などさまざまあるが、どれも院内の取り組みで改善し、結果を残せるものばかり。ただし、地域連携に関しては、必ず競合の存在があり、どれだけ院内で頑張って改善しても、競合に負けたらそれまでで、成果にはつながらない」と指摘。その上で「やるべきことは、しっかりとPDCAを回すという当たり前なことだが、前提や判断を適切かつ的確なタイミングで質高く実施することが欠かせない。そのためには、データ分析が必須であり、ライバル病院より1日でも早く、自病院の現状を可視化してもらいたい」として特別講座を締めくくりました。