事例紹介

2018年10月01日

再建断念された赤字病院をわずか3か月で黒字転換、公的・公立病院の再編・統合の舞台裏

病院名 済生会滋賀県病院 設立母体 公的病院
エリア 近畿地方 病床数 393床
コンサルティング期間 1年9か月
病院名 済生会滋賀県病院
設立母体 公的病院
エリア 近畿地方
病床数 393床
コンサルティング期間 1年9か月

 公的病院と公立病院の再編・統合の成功事例になりつつある済生会滋賀県病院(滋賀県栗東市、393床)と済生会守山市民病院(滋賀県守山市、199床)。再出発からわずか3か月で、赤字病院だった守山市民病院は単月黒字化を果たしました。母体が異なる病院の再編・統合をまとめあげ、早々に成果も出したキーマン、滋賀県済生会医療福祉センター総長で済生会滋賀県病院の三木恒治院長(中央が三木院長、左が湯原で右が中村)は、どのようにして改革を進めてきたのでしょうか。

重要な判断に不可欠な信頼できるシミュレーション

 「済生会として話を聞いてもらえないか」――。

 2016年12月。済生会滋賀県病院の三木院長の下に、同じ湖南医療圏に位置する守山市民病院の経営再建に関する打診がありました。守山市民病院は厳しい経営状況が続いており、守山市は済生会に経営権を委ねたいという内容です。

 三木院長は、2015年4月の院長着任後、主に救急医療とがん医療に主眼を置き、さらなる経営改善を推進してきました。ただ、後方連携先が不足しており、退院調整も不十分であることが常に気がかりでした。

左が済生会滋賀県病院、右が済生会守山市民病院

 こうした中で、経営再建を条件に舞い込んできた守山市民病院は、主に回復期・慢性期医療を提供しています。済生会滋賀県病院からわずか5キロメートルに位置する守山市民病院の経営権を手に入れ、経営再建を果たすことができれば、課題だった後方連携や他院調整の改善にもつながり、地域全体の医療の質を向上することができる――。三木院長の頭に、このようなイメージが浮かびました。

 ただ、経営の安定化が図れるかどうかは、十二分にシミュレーションした上での総合的な判断が必要になります。こうした中で三木院長が選んだのは、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)への支援依頼でした。

最適な再編・統合を実現する3つの強み

 GHCは三木院長からの依頼を受けて分析し、こう結論付けました。

 「済生会滋賀県病院と守山市民病院の医療機能を明確に分担・分化した上で、急性期医療の充実と回復期病床を増設し、地域医療連携を推進することで、Win-Winの関係が成立する」

 GHCがこのように結論付け、提案できるのは、(1)米国の「IDS(Integrated Delivery System)」の知識やノウハウをベースに、国内での再編・統合に関するコンサルティング案件を多数行ってきた実績(2)ベンチマーク分析に基づくデータでさまざまな判断をサポートできる(3)医療現場を知るコンサルタントが「診療統合(Clinical Integration)」を軸とした再編・統合を提案できる――の大きく3つの強みがあるからです。

 IDSは約20年前に米国の各地で発生した病院の再編・統合を支援してきたサービスメニューの総称です。GHCは、米国で最も多くのIDS案件を手がけてきた医療経営コンサルタントのマーティー・マイケル氏、米国のトップ病院であるメイヨー・クリニックなどからIDSの知識やノウハウを学び、国内向けのカスタマイズを繰り返し、サービスメニューを洗練させてきました(関連記事『手掛けた病院統合は50件、米国のプロが語る日本の病院大再編の未来』『【対談】「IDS」と「包括払い」は医療の質を高めるか―ロバート・K・スモルト×鈴木康裕』)。

 ベンチマーク分析は、本家であるGHCの独壇場です。全国トップレベルのDPC病院のさまざまなデータと比較して、現状を正確に把握し、最適な解に向けた戦略へと導くことができます。

 文化も診療方針も異なる2つ以上の病院が一つになる際、必ず課題としてあがるのが、診療統合です。病院の再編・統合は、母体や設備を一元化することではありません。単に「1+1=2」にするのではなく、この「2」を「3」にも「4」にもすることで、始めて価値を生むのです。

 例えば、事務部門の統合など組織をどう再編するのか、医療材料の購入などをどう効率化するのかなど、再編・統合の際の論点は無数にあります。この論点の中で最も重要で、一番難しいのが診療統合です。GHCはこの診療統合を、現場を知るコンサルタントが、米国のIDSの知識とノウハウをベースに、データを駆使しながら、本当の診療統合を実現させることができます。

困難を乗り越えるにはデータは欠かせない

 済生会滋賀県病院にご提案させていただいた具体的な分析や改革プランをご紹介することはできませんが、再編・統合に向けて年間146回もの会議を精力的にこなし続けた三木院長を都度、GHCは支え続けてきました。「グローバルヘルスコンサルティングで当院を担当してくれた湯原さんと中村さんは、どんなに細かな分析や改革プランも、依頼したらすぐに出してくれる。守山市や済生会本部との議論を円滑に進める上で、彼らの存在は欠かせなかった」(三木院長)。

 2018年4月から始まった済生会滋賀県病院と済生会守山市民病院の再出発ですが、すでに守山市民病院の業績は回復軌道に乗り、単月黒字転換を果たして7月、8月と単月黒字を更新し続けています。

 単月黒字化に寄与した具体的なポジティブデータも複数確認されています。

 まず、一桁台だった滋賀県病院から守山市民病院への転院数が、2018年6月には20件超と劇的に増加。この影響で滋賀県病院の重症患者割合も向上し、高水準を維持しています。続いて、守山市民病院の救急体制を強化したことで、救急車の受け入れ件数が倍増し、守山市民病院の病床稼働率の向上につながっています。入退院支援(PFM:Patient Flow Management)センター(PFM)の機能強化により、複数の関連加算の算定増で年換算850万円の収益増に貢献しています。

 再出発からわずか3か月で守山市民病院の単月黒字化を果たした三木院長。滋賀県病院のさらなる急性期機能の強化、守山市民病院のブランディングなど、まだまだ課題は山積みです。ただその一方で、三木院長はすでに次の展開を視野に入れています。

 医師や看護師などの職員がより働きやすい環境を整備するとともに、医療にとどまらない社会保障の環境整備の乗り出す計画です。

 病院の再編・統合の先にあるのは、病院を中心とした街づくり――。三木院長が考える医療の現場を起点にした街づくりは、まだ始まったばかりです。

【インタビュー】病院の再編・統合の先にあるのは、「病院を中心とした街づくり」

 三木院長に今回の再編・統合の経緯や今後の課題などをお聞きしました。再編・統合の先に見据えているのは、「病院を中心とした街づくり」です。

――GHCへコンサルティング依頼をされるまでの経緯を教えてください。

 ある先生を通じて、「済生会として話を聞いてもらえないか」と打診を受けたのが最初です。それから実際に守山市民病院の関係者と会って話を聞き、経営状況や再編・統合案をまとめた資料とデータをもらいました

三木院長

 最初に頭に浮かんだのが、「この話を受けるなら、この統合計画のデータを整理し、本部を説得できるだけの数字をどう示すか」でした。ただ、多忙な院内の職員がデータを整理し、精査することはほぼ不可能。事務長などと対応を検討していたところ、GHCへ依頼するという選択肢が浮かんできました。

 GHCとはこれまで、コンサルティングを依頼した実績もあり、病院経営セミナーでGHCのコンサルタントの講演もよく聞いていました。ですから、「GHCなら多角的な視点で検討し、最善策を導いてくれるだろう」と思ったのです。当初、統合案件ということもあり、かなり高額なのではと心配していましたが、提案内容と価格をお聞きしたところ、非常にリーズナブルでしたので(笑)、実際に話を前に進めるという運びになりました。

――GHCのコンサルティングはいかがでしたか。

 守山市民病院の状況をしっかりと分析してもらい、状況がよく分りました。しかも、当初から考えていた方向性を出してくれたので、自分の考えに間違えがないことを確認することもできました。

 分析については、例えば回復期の経営をどうすれば改善できるのか、かなり細かい注文やデータについても、しっかりと出してもらえました。しかも、言ったことはすぐにやってもらえる。そのおかげで、守山市の市長や済生会の本部とも堂々と話ができますし、そもそも行政関係者はしっかりとした数字を出さないと、耳を傾けてくれません。我々が見落としていた数字なども先回りして出してくれたので、今回の再編・統合を進めていくには、湯原さんと中村さんの存在は欠かせませんでした。

 今回の再編・統合に限らず、私は滋賀県の特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)のあり方を考える会議などにも顔を出しています。そうした場で思うのは、データをしっかりと出して、関係者全員が自分たちの利益を考えるのではなく、「この地域をどうしていくべきか」という視点で話し合うことが必要で、また話をまとめあげる存在が必要不可欠です。そういう意味で言うと、この地域全体のことを考える上で、今回の再編・統合案件は、ちょうどいいタイミングでした。

――今後の課題についてはいかがでしょうか。

 さまざまな改革プランを実行し、守山市民病院の収益は回復してきました。回復期や慢性期の患者をしっかりと取り込み、容態が悪化した患者を滋賀県病院へ送るという流れも加速させていきたいです。引き続き、その辺の知恵をお借りしつつ、実現させていきたいと思っています。

 中長期的な視点では、急性期をどうするのかという、次のビジョンもあります。また、医療介護に限らず、社会保障全般に寄与するような取り組みも進めていきたいという構想もあります。

――まるで「街づくり」のようですね。

 そう、「病院を中心とした街づくり」ですね。そうすることで、「済生会で働きたい」という流れを作ることもできます。人材の確保は医療界において常に課題ですので、その辺も視野に入れつつ、医療・介護にとどまらない展開へと発展させていければと考えています。

――本日はありがとうございました。