コンサルに聞く(GHCコラム)

2021年09月15日

成果を出す経営企画のプレゼンテーション術|コンサル講座「DPC病院の経営」(3)


病院の経営企画部門において、院内に向けて経営の改善提案を行い、改善に向けて「院内を動かす」ことは重要な業務の一つです。ただ、医療専門職である医師や看護師たちを前にして足がすくんでしまう方もいるでしょう。一方、医療専門職を目の前にしても立派にプレゼンテーションし、しっかりと成果を出している病院の経営企画部門があることも確かです。今回はこうした病院の経営企画に共通するプレゼンテーションの考え方や具体的な手法のポイントについて、事例も踏まえて解説します。

プレゼンテーションとは

「自分は人前で話すのが苦手なので、上手なプレゼンテーションはできない」

そう考えている人がいたら、それは大きな間違いです。確かに、人前で話すことに苦手意識がないにこしたことはありませんが、それは上手なプレゼンテーションの絶対条件ではありません。

米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏による数々の伝説的なプレゼンテーションを解説した『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』によると、「一番大事な問いに答える」ことが、プレゼンテーションにおける最も重要なポイントの一つとして紹介されています。

プレゼンテーションの聞き手は、「なぜ、このプレゼンテーションを聞く必要があるのか」を自問しながら聞いています。この問いに答えるように話をすれば、「この話は聞く必要あり」と判断されて聞き手をどんどん話に引き込むことができます。逆に、この問いかけに答えることなく、聞く必要性が感じられなければ、どんなに堂々と自信満々に話していても、話を聞いてもらうことはできないのです。

プレゼンテーションの語源が「プレゼント」であることからも、「一番大事な問いに答える」というプレゼントなしに、プレゼンテーションは成り立たないのです。極論、話の上手い下手や、人前でも緊張せずに話せるなどの要素は、二の次三の次と筆者は考えています。

このことを踏まえた上で、本稿では病院経営の現場でのプレゼンテーションにおいて、どうすれば「一番大事な問いに答える」プレゼンテーションができるかを考えたいと思います。

プレゼンテーションの目的

病院経営の現場におけるプレゼンテーションの目的は、経営の改善活動に向けて「院内を動かす」ことです。そのためには、プレゼンテーションする改善提案の必要性を理解してもらい、「なるほど!素晴らしい!ぜひみんなで取り組もう!」と思ってもらう必要があります(図表)。そう思ってもらうためには、図表の通り適切に考え、適切に伝える必要があります。このどちらが欠けていても、日々忙しく診療を行う医療の現場は動きません。

適切な考え方については、前回の「経営企画に欠かせない『データ分析』の基礎」で述べました。考え方については前回の記事を見ていただくとして、以下ではプレゼンテーションの目的である「院内を動かす」に必要なもう一つのポイント、適切な伝え方について順を追って見ていきます。

適切な伝え方3つの型

適切に考えられた提案であっても、それを伝えるための「論理性」が欠けていると、納得してもらえません。論理性を伴う伝え方は、いくつか共通の型を伴っていることが多いです。例えば、三段論法という型は有名です。三段論法は「大前提」「小前提」および「結論」からなる間接推理による推論式で、例えば、「人間は死ぬ」(大前提)、「ソクラテスは人間である」(小前提)、従って「ソクラテスは死ぬ」(結論)という順序で、最後の結論に説得力をもたせる型です。

このように、病院経営の現場においても、おすすめしたい論理性を担保する伝え方の型があります。それは、(1)課題・原因・提案・効果の4要素をセットにする(2)各要素を根拠(データ)と結論のセットにする(3)「やるしかない」提案にする――の3つです。

課題・原因・提案・効果の4要素をセットにする

適切な伝え方に必要な4要素に関しては、前回の「経営企画に欠かせない『データ分析』の基礎」のおさらいとも言えるものです。

前回の記事では、データ分析の業務内容と流れを解説するパートで、(1)現状把握(2)改善点のあぶり出し(3)提案――という流れのストーリーにすると、論理性を伴う提案になると説明しました。データ分析の業務としてはここまででいいのですが、そこで導き出された提案を伝えるとなると、4つ目の要素として、その提案を実施した際の「効果」を示すことが必要です(図表)。

まず、「課題」提示に対して「なぜ」という問いが発生し、その問いに対する答えとして「原因」を示します。次に出てくる問いは「だからどうする?」で、この問いへの答えがデータ分析までの業務で導き出した「提案」になります。ただ、提案の先にはもう一つ大事な問いが発生します。それは、「するとどうなる?」という問いです。そこで効果を加えた4要素にするとことで、この問いに「効果」までをしっかりと示して答えることでき、より論理性を伴って提案内容を伝えることができるのです。

各要素を根拠(データ)と結論のセットにする

適切な伝え方に必要な論理性を高めるための4要素には、もう一つ重要な視点があります。それは、各要素のすべての結論が、根拠となるデータに基づいているということです。

例えば、「急性期らしさ」の一つの指標となる「機能評価係数II」を改善するプレゼンテーションをするとします。図表は課題・原因・提案・効果の4要素ごとに、機能評価係数IIを改善するための結論がデータとともに示されています。赤(ネガティブ情報)あるいは青(ポジティブ情報)で記載されているのがデータ部分です。

具体的に見ていきます。最初の課題の結論では、機能評価係数IIの中でも特に効率性係数が低いことを伝えたいのですが、その際の一番大事な問いは「どれくらい低いのか」ということでしょう。であれば、その問いに具体的なデータを加えて「III群平均値の半分しかない」と答えることができれば、論理性は飛躍的に高まります。

ほかの項目もすべて同じで、必ず根拠となるデータがセットで結論が導かれています。「課題・原因・提案・効果の結論はデータとセットが必須」と覚えておきましょう。

「やるしかない」提案にする

適切な伝え方でもう一つ重要なことは、「やるしかない」提案にするということです。論理性を伴う伝え方であったとしても、「今それをやる必要があるの?」と思われてしまえば、その提案は前に進みません。

「やるしかない」と思わせるにはどうすればいいのか――。病院経営の改善においては、(1)病院の理念に合致する(2)改善効果が大きく優先順位が高い(3)実現可能性が高い――の3つを抑えていることが必要です(図表)。

病院の理念に合致する

まずは自病院の理念に合致する提案であるかどうかです。

先ほどの機能評価係数IIの改善提案であれば、「当院は地域の急性期機能を担う」という理念がある病院であれば響く提案ですが、急性期の後方支援に重きを置く病院であれば、全く響かない提案になります。そのため、経営企画の担当者は現状分析の段階から常に、プレゼンテーションの最後に「当院の理念とも合致します」と言い切れるかどうかを意識しておきましょう。

改善効果が大きく優先順位が高い

もう一つは改善効果が大きいということに加えて、優先順位が高いことです。

データ分析していくと、改善効果も大きな改善点が次々と見えてきます。当然、それらすべてに対応できないことを考えると、優先順位を付けざるを得ません。今まさに提案しようとしている内容が、ほかの経営改善項目と比べて、明らかに優先順位が高いかどうかも、常に意識してください。こちらについてもデータとセットで優先順位の高さを示せれば、誰もそれに異議を唱えない「やるしかない」提案になります。

実現可能性が高い

最後に意識していただきたいのが、その提案の実現可能性が高いかどうかです。

どんなに自病院の理念に合致し、優先順位が高い改善提案であったとしても、すぐに実践するのは難しそうだったり、やったところで実現の可能性が怪しそうだったりすると、院内は動きません。提案しようとしている内容のリソースが足りているかどうか、医療現場への負荷はどれくらいか、近隣の競合病院と比較して現状はどうかなど、こちらも必ずデータと照らし合わせて実現性を吟味し、「それならできる!」と思わせる提案であるかどうかを常にチェックしてください。

分かりやすい資料3つの条件

適切な伝え方の「型」を身に付けたら、早速、資料作りです。プレゼンテーションは、この資料作りで伝わるか否かのほとんどが決まってしまいます。

この資料作りで最も重要なことは「分かりやすさ」です。その条件を以下で見ていきましょう。大きく3つあります。

情報を削ぎ落とす

最初の条件が最も重要です。それは徹底的に情報を削ぎ落とすということです。

我々コンサルタントは病院の職員の方々のプレゼンテーションをこれまでに何度も見てきましたが、うまくいかないプレゼンテーションのほとんどは、ある共通点があります。それは、伝えたい一番大事なことと直接的には関係のない情報に疑問を持たれ、その問いに答えられなかったり、データの信憑性に疑問を持たれたりするなどして、議論が前に進まず、時間オーバーになってしまうというパターンです。

つまり、聞き手が関係のないところでひっかかってしまい、伝えるべきことが伝わらないというとても残念な状況が散見されるのです。

これを防ぐには一つしかありません。伝えたい情報を議論に必要な情報だけに仕分けながら、徹底的に情報を削ぎ落としていくのです。こう言うと、「情報を隠すのですか?」「用意していない情報を聞かれたらどうするんですか?」と心配される方もいるでしょう。ただ、徹底的に情報を削ぎ落とすのは、別に隠すことではありませんし、持っている情報は「別添(Appendix)」としてメインスライドとは別に用意しておけばいいだけですので、心配はいりません。

一生懸命に分析したデータに大きな価値があることは間違いないのですが、資料作成においては、そのデータをしっかりと仕分け、いらない情報を与えないことが最も難しいのです。必要な情報をただ与えることは、誰にでもできることなので、この情報の仕分けこそが、資料作成者の腕の見せ所と心得ましょう。

筆者の感覚では、しっかりと情報を仕分ければ、用意した情報の8、9割が別添情報になります。つまり、プレゼンテーションで一番大事な問いに答えるためには、用意した情報の1、2割で事足りると最初から意識しておくことが重要です。特に、病院の職員は集められる情報はすべて集めて、その情報をメインスライドへ詰め込もうとしがちと、筆者は感じています。そうすることで関係のないところで不要な指摘を受け、時間もかかり必要な議論もできないことにつながりがちなので、資料作成の際はまずこの点に注意しましょう。

伝えるメッセージを1つに絞る

次の条件も「情報を削ぎ落とす」に通じる視点です。プレゼンテーションの際に使用するメインスタイドは、「1スライド1メッセージ」を徹底し、伝えるメッセージを1つに絞り込みます。

例えば、上昇している経費を抑えたいという提案をしたいとします。この場合、院内で以下のようなスライドを見かけたことはありませんか。1年間の収益のグラフと数字の図表をすべて掲載しています。しかもグラフは複数項目あるにもかかわらず同じメモリです。提案しているメッセージも長く、ポイントが掴みづらいと思いませんか。

これに対して以下のスライドならどうでしょうか。左半分で経費のデータのみに絞り込み、メモリも経費の推移が分かりやすいように調整し、一番上昇した月は色を変えて強調しています。右半分では経費がどれだけ上昇したかを一番上昇した月と同じ色で強調して示し、コスト削減が必要であることをデータと結論をセットで提案しています。

最初の仕分け前のスライドでは、「どうして医業収益が上昇しているのか」「人件費の上昇も気になる」など、議論があちこちに飛ぶことが容易に想像できるのではないでしょうか。そうならないためにも、論点を絞り込み、伝えたいメッセージを一つに絞り込む。関連情報は別添で用意しておき、聞かれたら答えるというスタンスで十分なのです。

伝わりやすい形に整える

分かりやすい資料の最後の条件は、仕分けられ、メッセージも絞り込まれた情報を、伝わりやすい形に整えることです。

我々コンサルタントがおすすめする伝わりやすい形は、(1)表紙(2)ブリッジスライド(3)本編(4)別添資料―の構成です(図表)。ブリッジスライドは目次のような役割のスライドで、例えば、課題や原因などの情報から成る「現状認識」を本編の前に示すことで、これから「現状認識を説明します」とプレゼンターと聞き手の認識合わせをする役割があります。

本編スライドは提案する内容によって枚数が異なりますが、可能な限り少なくすべきです。多くても数枚、ベストは「現状認識」「改善提案」の2枚でしょう。

最後の別添資料は何枚あっても構いません。質問される可能性のある情報は詰め込めるだけ詰め込みましょう。ただ、その際に「重要なデータだから…」と本編スライドに格上げしたくなるデータもあるかもしれませんが、ここは我慢。本編は仕分けられ、メッセージも絞り込まれた数枚のみを徹底してください。

伝わるプレゼンテーション3つの条件

資料ができたらいよいよ本番のプレゼンテーションです。この記事の冒頭でも指摘しましたが、筆者は人前で話すのが得意不得意でプレゼンテーションの成否が分かれるとは思っていません。なぜなら、成否を分けるほとんどの要素は、事前の準備だからです。順に見ていきましょう。

キーパーソンの特定

プレゼンテーションで最も重要なことは、そのプレゼンテーションにおけるキーマンが誰かを特定しておくことです。

プレゼンテーションですべての聞き手に耳を傾けてもらえればベストですが、どんなに分かりやすい資料を用意し、一番大事な問いに答えようとしても、どうしても聞いてくれない人はいます。これはある程度は限界として割り切りが必要なのですが、そのプレゼンテーションで「院内を動かす」ためのキーマンにだけは聞いていただかなくてはなりません。聞いていないどころか、そのプレゼンテーションにキーマンが欠席していたというような状況になると、プレゼンテーションすること自体に意味がなくなります。

そうならないためには、事前にキーマンを特定し、最低限、出席してもらうような事前の根回しが必須です。キーマンの特定はシンプルに診療科の部長だったり、実は看護師長だったりなど、病院によってさまざまかと思います。「この内容ならこの人」とさまざまなテーマのキーマンを把握している人はその情報を生かし、把握していない人は院内のさまざまな部署とのコミュニケーションを通じて、院内の情報収集に務めましょう。

事前のすり合わせ

キーマンを特定できたら、さらに踏み込んで事前にプレゼンテーション予定の資料をそのキーマンに見てもらったり、どんな提案をする予定なのかなどを事前にすり合わさせてもらったりしましょう。これができるとプレゼンテーションの成功率が大きく高まります。

この記事の前半で「やるしかない」と思わせる提案の一つとして「実現可能性」が重要と指摘しましたが、この事前のすり合わせがうまくいけば、ほぼクリアにできます。現場のリソースで対応できるのか、患者目線でやるべきなのかなど、もし問題を指摘されたらすぐに検討して方向修正すればいいのです。

前提条件をそろえる

伝わるプレゼンテーション最後の条件は、本論に入る前の前提条件をそろえることです。これも人前で話すのが得意不得意とは全く関係のないポイントだと思っています。なぜなら、プレゼンテーションで伝わらない場合のほとんどが、事務部門が診療フローを知らないなどの「事務部門の不理解」や、診療部門が診療報酬や事務のことをよく理解していないなどの「診療部門の勘違い」がほとんどだからです。筆者の感覚では、プレゼンテーションがうまくいかない場合の半分くらいが前提条件の勘違いと考えています。

そのため、プレゼンテーションの当日は、診療報酬の点数や算定要件など提案内容の前提となる情報を丁寧に説明するように心がけましょう。思っている以上に医療現場のスタッフたちは、診療報酬に関する知識や院内の経営状況には無頓着であることが多いです。この辺をしっかりと説明せず、聞き手に知識がない状況のままでは、本論に行き着く前に脱落してしまいます。

逆に本論部分の説明については、できるだけ簡潔に、素早く説明するようにしましょう。繰り返しになりますが、話が上手下手は関係がないので、聞こえればいい程度の気持ちでプレゼンテーションしましょう。聞こえない、聞こえづらいは大きなマイナス要素になるので、この点だけは注意してください。

成果を出すプレゼンテーションの事例

最後に、実際の病院経営におけるプレゼンテーションの成功事例をご紹介します。経営幹部が医療現場の行動変容を促していく事例と、経営企画を担う担当者の事例です。

PL病院

PL病院がわずか1年で収益を大幅改善した背景の一つに、医師ならではの「ネガティブ情報」の上手な伝え方がありました。現場にとっては耳の痛い情報をどう伝えれば現場は動くのか――。

「全員野球」促す仕組み化で収益大幅改善のPL病院、コンサルタントを有効活用

佐賀県医療センター好生館

「病院ダッシュボード」導入からわずか1年で、院内を動かして改善成果を示した同院。短期間で円滑な改善活動を推進できた背景には、大きく6つの戦術がありました。

わずか1年で改善成果、好生館の院内を動かし加速させる6つの戦術|佐賀県医療センター好生館

成果を出すプレゼンテーションのまとめ

いかがでしたでしょうか。プレゼンテーションで大切なことは、「一番大事な問いに答える」ことです。そのためには、適切な伝え方をするための型に則り、分かりやすい資料を作成し、伝えるべきキーマンにしっかりと事前に相談しておくことです。繰り返しますが、話の上手い下手は二の次です。確かに、医師たちの前でのプレゼンテーションは、かなりのプレッシャーが伴います。ただ、最後の難関であるプレゼンテーションがうまくいけば、「院内を動かす」ことも、その先にある病院の経営改善も、もう目の前です。

連載◆コンサル講座「DPC病院の経営」
(1) 1から学ぶ「経営企画」入門
(2) 経営企画に欠かせない「データ分析」の基礎
(3) 成果を出す経営企画のプレゼンテーション術
(特別編) 検索で勝てる・勝てないホームページ、病院経営者が知るべき5つのポイント

太田 衛(おおた・まもる)

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師。大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学修士課程を修了し、大阪大学医学部発バイオベンチャー企業、クリニック事務長兼放射線・臨床検査部長を経て、GHCに入社。地域連携、病床戦略、DPC分析を得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードχ」の設計、マーケティング、カスタマーサポートを担当。新聞や雑誌の取材・執筆多数。