病院経営コラム

2021年03月18日

続く感染症患者の半減、がん受診抑制に注視を|データが示す「新型コロナ第3波」の教訓(4)

医療ビッグデータが新型コロナウイルス第3波の「教訓」を示す連載の4回目のテーマは、コロナ禍でのコロナ以外の症例、特に「患者が消えた」とも言えるほどの減少になった「感染症」と、受診抑制されるべきではない「がん」への影響に着目します。外来では風邪や喘息の初診患者が5~6割減、入院では肺炎の緊急入院が4割減とほぼ半減が続いている状況が分かりました。一方、早期治療が必要ながんの一部で1割程度の減少が続いており、受診抑制ががんの発見を遅らせている可能性がないか注視する必要がありそうです。

経営危機の稼働率に変化なし

グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)はこのほど、「第3波(2020年11~12月)」の医療ビッグデータを分析。分析条件は以下の通り。全国の急性期病院(DPC対象病院)の約3割のデータという計算になります。急性期病床の機能を持たない病院は分析対象に含まれておらず、急性期病床に特化した分析であるという点に留意ください。

◆使用データ:DPCデータ
◆データ期間:2020年3-12月退院患者
◆病院数(症例数)※以下は最大数で分析内容によってはそれ以下もある
 —連続データ:410病院(24,764症例)
 —非連続データ:523病院(30,425症例)
◆重症度の定義
 —軽症:酸素吸入なし
 —中等症:酸素吸入あり
 —重症:人工呼吸器あり
 —超重症:ECMO(体外式膜型人工肺)あり

前回までの連載の中で、新型コロナ患者のうち軽症患者の入院症例、一病院あたりの受け入れキャパシティーと医療連携についてそれぞれ詳細データを見てきました(各記事へのリンク)。今回は病院全体およびコロナ以外の症例への影響を見ていきます。

まず、「第3波」の入院患者(退院症例)は月4~12%減。どの病床規模においても「第1波」の状況からは大きく回復しているものの、「第2波」と同程度という状況で、新型コロナ感染拡大の「波」に比例して、患者全体が大きく落ち込むという構造が続いています。

退院症例数前年比減少率(病院規模別)

急性期患者を受け入れる一般病棟の病床稼働率は、現状の診療報酬制度では「少なくとも8割以上ないと経営が成り立ちません」(GHC代表取締役社長の渡辺幸子)が、依然として低空飛行が続いています。

以下の分析では、感染拡大期の「波」だけではなく、その狭間の回復状況も併せて確認するため、(1)Beginning:2~3月(2)第1波:4~5月(3)Rebound:6~7月(4)第2波:8月(5)Rebound:9~10月(6)第3波:11~12月――の6つの期間に区切ってデータ確認していきます。

一般病棟の病床稼働率を新型コロナ患者の受け入れありなしで比較したところ、受け入れ病院は稼働率が大きく落ち込んだ「第1波」では中央値70.1%(コロナ受け入れあり)、72.3%(コロナ受入れなし)を底に、その後回復傾向を示すものの、「第3波」でも中央値76.6%(コロナ受け入れあり)、78.5%(コロナ受入れなし)と経営的にかなり厳しい状況が続いています。もっとも、「病床稼働率を上げないと病院経営が成り立たないという診療報酬の体系に課題があることは言うまでもありません」(渡辺)。

コロナ患者受入有無別(施設単位)DPC一般病棟稼働率

「消えた」感染症患者、コロナ禍で出生率過去最低も

続いて具体的にどのような症例が落ち込んでいるのかを見ていきます。

緊急入院の症例数トップ20(2019年2-12月の症例)で確認すると、「第3波」における症例数トップの肺炎は前年同期比44.5%減とほぼ半減の状況に変化なし。同じく小児の風邪が大半を占める急性気管支炎等73.2%減、下痢などのウイルス性腸炎44.0%減、喘息39.6%減、インフルエンザ95.4%減となっており、肺炎を含む感染症あるいは感染症によって悪化する疾患の「患者が消えた」とも言える症例激が続いています。
 これは、手洗い・マスク・三密回避による感染症の減少で、国民にとっては非常に望ましいことです。

入院症例数 緊急 前年同期比(症例数降順)

一方、腸閉塞やてんかん、妊娠期間短縮・低体重による障害を除くそのほかの症例については、小幅ながら回復傾向にあります。ただ、回復傾向にない妊娠期間短縮等による障害については、「第3波」が最も大きな減少となっており、減少幅はこれだけ全期間で最大。GHCコンサルタントの佐藤貴彦は「コロナ禍で2020年は出生率過去最低(前年比2.9%減の87万2683人)という状況を改めて明示しています」としています(詳細は『人口動態統計速報』)。

医療供給不備と合わせて「医師誘発需要」の検証も必要

次に同じく感染症の激減が見て取れる外来の状況を確認します。

初診に限ってみると、緊急入院と同じ傾向で、かぜや下痢、喘息が5~6割の減少。そのほかの症例でも1~3割と大幅減の症例が目立ちます。

外来症例数 初診 前年同期比(症例数降順)

一方、再診では喘息、狭心症、アレルギー性鼻炎、脳梗塞、統合失調症以外は初診と比べて減少幅が1桁台と小幅。初診は「衛生行動の向上や受診抑制が影響し減少幅が大きい」(渡辺)ことや、そもそも再診は継続治療が必要なことから受診抑制できないため、初診の減少幅は再診と比較して目立って大きい印象ですが、「減少幅こそ小幅だが、再診も減少が続いており、必要な治療が受けられていない可能性を注視する必要があります」(佐藤)。

その一方、渡辺は「コロナ禍以前から再診は受診回数を必要以上に増やしてしまう『医師誘発需要』の可能性が指摘されています。必要な医療が提供できているか否かに加えて、コロナ禍からの回復過程においては、その回復の中に医師誘発需要が含まれていないかの検証も必要です」と指摘しています。

外来症例数 再診 前年同期比(症例数降順)

受診控えで春先までがん症例減が続く可能性も

最後に予定入院の状況を確認していきます。「第3波」では、直前に大きく回復を見せた白内障の手術など「遅らせることが可能な疾患」の大半が前年同期比1~2割減。遅らせることが可能な疾患は新型コロナ感染拡大の「波」の影響を大きく受けることが「第3波」でも確認されました。

入院症例数 予定 前年同期比(症例数降順)

一方、トップ20症例のうち6症例(肺がん、前立腺がん、胃がん、肝がん、乳がん、子宮がん)のがんで減少傾向が見られました。渡辺は「第3波でもこのうちの多くの症例で1割程度減っています。さらに第3波の間の受診控えにより、これらがん症例減が春先まで続く恐れもありえます。治療を遅らせることができないがんは特に、必要な医療が受けられていない可能性を注視する必要があります」としています。

連載◆データが示す「新型コロナ第3波」の教訓
(1)入院期間10日超の軽症患者が44%
(2)軽症患者の半数が「重症化リスク低い」
(3)大病院の入院上限10人未満が多半
(4)続く感染症患者の半減、がん受診抑制に注視を

渡辺 幸子(わたなべ・さちこ)
swatanabe

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの代表取締役社長。慶應義塾大学経済学部卒業。米国ミシガン大学で医療経営学、応用経済学の修士号を取得。帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社コンサルティング事業部などを経て、2003年より米国グローバルヘルスコンサルティングのパートナーに就任。2004年3月、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン設立。これまで、全国800病院以上の経営指標となるデータの分析を行っている。近著に『医療崩壊の真実』(エムディーエムコーポレーション)など。

佐藤 貴彦(さとう・たかひこ)
tsato

株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門コンサルタント。慶應義塾大学文学部卒。医療介護系ニュースサイトを経て、GHCに入社。診療報酬改定対応、集患・地域連携強化、病床戦略立案などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「日本経済新聞」などメディアの取材対応や、医療ビッグデータ分析を軸としたメディア向け情報発信を担当。日本病院会と展開する出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」を担当する。