お知らせ

2019.06.21

「データは病院を変え、地域での価値・存在感を高める」、DPC特定病院群に昇格させた前田・製鉄記念室蘭病院長が講演

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)は6月15日、急性期病院の幹部向け勉強会「地域医療構想下『病床利用率』低下の今、集患のバイタルサインとは?」を開催しました。


 特別講演として、2018年度から大学病院に準ずる高い診療機能を持つ「DPC特定病院群」(旧DPCII群)に昇格した製鉄記念室蘭病院(北海道室蘭市、347床、19診療科)の前田征洋病院長が登壇。「地域医療構想下で、病院経営にデータをどう活かすか?」と題して、データを活用した同院の経営改革のポイントを解説しました。


 また、地域医療構想を推進する協議会において、地域の医療提供体制にかかわる自病院のデータを根拠として、果たしている役割・価値を積極的に示すことで、同院が当該医療圏における地域医療構想の中でも、しっかりと存在感を示している状況についても報告。医療ビッグデータは病院を大きく変えるだけにとどまらず、関係者との調整が難しい地域での議論にもきわめて重要であることが示されました。



前田病院長


病院を変えた3つの取組み


 製鉄記念室蘭病院は2014年当時、病床利用率が98.8%にもかかわらず、約2億円の赤字という状況にあり、診療内容の効率化が必須と考えました。そこで導入したのが、高度急性期を追求するために開発された多機能型経営支援システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」(当時は「病院ダッシュボード」)です。


 導入から4年。約2億円の赤字が3億円近い黒字に転換するなど、同院の主要経営指標は、以下の通り驚異的な勢いで改善していきました。

◆病院医業収益
 102.1億円(2015年度)→109.5億円(2017年度)
◆平均在院日数
 13.6日(同)→11.8日(同)
◆標準治療期間(DPC期間Ⅱ)超率
 33.1%(同)→25.7%(同)
◆月平均の新入院数
 655件(同)→694件(同)


 前田病院長が「病院ダッシュボードχ」を活用し、具体的に実践してきたことは、大きく3つあります(図表1)。


(図表1)前田病院長は3つの取り組みで経営状況を激変させた


 1つ目が診療内容の見える化です。「病院ダッシュボードχ」などから抽出した院内の経営にかかわるデータを院内に共有するため、院内LANや電子カルテから容易にデータへアクセスできる環境を整備しました。データは、病院全体の主要な経営指標だけではなく、全診療科や部門の経営指標を示すデータです。


 2つ目が、診療の標準化・効率化です。同院では、経営の見直しを図る重要な会議として、院長や各部門長など約10人の経営幹部で構成される「管理会議」(図表2)があります。ここではこれまで、各科や各部門が現況報告を行っていたのですが、「病院ダッシュボードχ」導入後、前田病院長によるフィードバックの時間を新たに設けました。この時間では、前田病院長自らから「病院ダッシュボードχ」を用いた資料が配布されて、「この部分は素晴らしいが、この部分は課題がある」などデータを軸に前田病院長がフィードバックするとともに、各科の責任者を含めた幹部たちによるディスカッションが行われています。



(図表2)病院長自らが各科や各部門の資料を作成することは、飛躍的な経営改善の原動力になる


 例えば、心臓血管外科における全麻手術症例の肺血栓塞栓予防管理料算定率は、2016年度時点で数%でしたが、他病院のデータとも比較して目標値を設定することで、2018年度は80%超へと劇的な改善を果たしました。医療材料においても、2018年度の心臓血管外科の医療材料費は、前年度と比べて一診療科だけで1億円近いコスト削減を実現しています。前田病院長は、「医師は具体的な指示ではないと動かないため、改善余地を正確なデータで示すことが最も有効」と振り返ります。


 最後が、集患対策です。製鉄記念室蘭病院は、地域の高度急性期医療を担う病院として、前述の通り診療の標準化・効率化を推進することで、医療の質も向上。その上で、周辺医療機関との地域連携データを院内でリアルタイムに確認しながら、連携が不足している医療機関へのアプローチを強化していきました。各診療科の強みを丁寧に説明したパンフレット(図表3)、市民向けの診療ガイドブックも発行することで、周辺医療機関はもちろん、住民への理解も促していきました。


(図表3)各診療科の強みを丁寧に説明したパンフレットで地域連携を推進していった


 こうしたことなどで、同院の紹介件数は急上昇。2015年に7000件弱だった紹介件数は、2018年には8000件強になりました。

 主に以上の3つの施策を同時に進行し、「急性期らしさ」を追求していったことで、「狙ったわけではなかったが、気がついたらDPC特定病院群になっていた」と前田病院長は説明しました(より詳細は経営改革の内容については、前田病院長へのインタビュー記事『気がついたらDPC特定病院群、「病院長が使う」の改善効果は計り知れない』
参照)。


データが導いた「求められる医療」


 データ活用は院内の経営改善にとどまりません。今後の病院大再編時代に大きな影響を与えるとみられる「地域医療構想」においても、大変重要な意義があります。


 製鉄記念室蘭病院が位置する西胆振医療圏は、人口18万人の二次医療圏にもかかわらず、主要な3つの急性期総合病院の病床数が合計1333床ある「急性期病床過剰地域」。製鉄記念室蘭病院を含めた代表的な急性期病院3病院に関する再編統合の議論をするため、2018年9月に「室蘭市地域医療連携・再編等推進協議会」が立ち上げられましたが、当初、協議は難航していました。


 そこで前田病院長は、同協議会に「病院ダッシュボードχ」などを用いて、地域に求められる医療提供体制がどうあるべきかを軸にした、これまでの経営改善の努力が導き出してきた自病院や地域のデータを根拠に自院の果たしている役割・価値を示しました。


 例えば、循環器系の救急医療の9割は、製鉄記念室蘭病院が診ている状況です。室蘭市内の救急搬送についても、2015年以降、急激に伸び続けており、2番手の倍近くの件数でトップを独走しています。5大がんの手術件数でも2番手を大きく引き離しています。そして何より、製鉄記念室蘭病院は同医療圏ではもちろん、札幌以外では北海道に3病院しかないDPC特定病院群。当然、平均在院日数でも競合を圧倒しています。


 こうしたデータをしっかりと示したこともあってのことか、同協議会は2019年3月8日までにまとめた中間報告書の中で、「高度急性期・急性期を担う拠点病院は、東室蘭地域に一つ設ける」と明記しました。東室蘭地域は、西室蘭地域に位置するほかの2病院ではなく、製鉄記念室蘭病院がある地域です。


 これについて前田病院長は、「しっかりとデータを示すことで、本当に求められる医療の提供体制ができつつある」としています。


セミナー参加病院は自病院のデータを分析


 また、今回のセミナーの特徴の一つとして、「参加病院は『病院ダッシュボードχ』を用いて自病院のデータを分析できる」点があげられます(「病院ダッシュボードχ」の未導入病院も事前にデータ提出することで確認することができます、セミナープログラムはこちら)。参加病院はそれぞれ、自病院のデータが反映された「病院ダッシュボードχ」を操作し、周辺の医療機関からどのような患者がどれくらい紹介されているのか、現状を確認しました。


セミナーのでは前田病院長の講演に加えて、GHCコンサルタントが具体的に病院のどのようなデータを見るべきかを指南した


 テーマは「集患」と「PFM」。集患については、「病院ダッシュボードχ」へ新たに搭載された「地域連携分析」を紹介するとともに、正しい地域連携の進め方を学びました。正しい地域連携の進め方については、お役立ち資料としてGHCホームページに「地域医療構想下の集患戦略、正しい地域連携9つのステップ」が掲載されているので、ご興味のある方はダウンロードしてご活用ください。


解説を担当したコンサルタント
塚越 篤子(つかごし・あつこ)

コンサルティング部門シニアマネジャー。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。全国の医療機関のコンサルティングを務め、改善事例多数。コンサルティング部門のチームリーダーのほか、若手の育成や人事担当なども務める。「メディ・ウォッチ・ジャーナル」担当責任者。


解説を担当したコンサルタント
太田 衛(おおた・まもる)

病床戦略、地域連携、DPC分析を得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、日本病院会が手がける出来高算定病院向け経営支援システム「JHAstis(ジャスティス)」の分析担当や「病院ダッシュボードΧ」の開発(関連記事『優先すべき集患の課題と対策を見える化、「地域連携分析」リリース』)も務める。